翔の受験前編
拙作を読んでいただき、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。感想の返信の時に「茅田砂胡全仕事」の話をしてふと、紙の「茅田砂胡全仕事」は風呂の湯につけてボロボロだからついでに電子書籍で買い直しておくかと、サイトを開いたら、「1万円以上購入で25%OFF」クーポンが。がっつり散財させてもらいました。電子書籍沼恐るべし。
誘拐未遂事件の後、のりちゃんの反抗期がぴたっと終わった。いなりの弟妹弟子達の隠れた護衛も更に強化されたし、のりちゃんも危険がある事を十分理解してくれた。残るはのりちゃんに悪い虫がつかないように見張っていれば大丈夫だ。
今のところ悪い虫は居ないけど、小鳥遊さんという女子が僕に会いたがってのりちゃんが鬱陶しがっている。チコちゃんや、カハクちゃんは『当て馬』に使ってやれなどとそそのかしてくるが、僕の『のりちゃん』を少しでも不快な目になんて合わせたくない。と言うのは建前で、みじんもジェラってくれなかったら立ち直れないと言うのがホンネ。
のりちゃん、早く大人になって僕の事を好きになって。そして僕と常しえに生きる選択をして欲しい。コンソメ味の風呂吹き大根を鍋いっぱいに炊きながら、僕ちょっとヤンデレに片足突っ込んでいるかも知れないと心配になってきた。
のりちゃんには、やりたい事をやって欲しいし、行きたい所へ連れて行ってあげたい。でも、その隣には僕が立っていたいんだ。鳥かごに入れて誰の目にも触れさせたくないとは思っていない。はなかちゃん以外にも大切な友達を作って欲しい。もっと大きく羽ばたいて飛べるところすべてを飛び回ってもらいたい。のりちゃんは将来何になりたいんだろう。翔の大学受験を控えて、来年はのりちゃんも高校受験だ。
ここから通える学校は、今世のりちゃんが生まれるまでに各種多様に揃えたし、大学を県外に行かせない為に私立大学も買収した。行きたい学部が無いなら作ってしまえばこっちのもんだ。のりちゃん。どんな人生を一緒に歩もうか?
「コーキただいま~。いい匂い。今日の晩ご飯何?」
「のりちゃんお帰り。コンソメ味の風呂吹き大根だよ。」
「やった~。」
「ほら、味見させたげるから、着替えておいで。」
「は~い。」
だだだだっと勢いよく階段を下りてきたのりちゃんが、口の中を火傷しないように少し冷ます為に、小皿に半分大根を切ってお箸を出した。
「あ~美味しい。」
「そう?」
「うん。コーキが作るご飯はなんでも美味しいよ。お兄ちゃんも作りたてが食べれればいいのにね。」
「今が正念場だから、翔も受験勉強に集中してるし、受験が終わったら翔の好物たくさん作ってお疲れさん会しよう。」
「私もお兄ちゃんの大好物作るっっ。」
「翔はのりちゃんが作った物なら何でも喜んでくれるよ。」
ピンポーン。インターホンの応答にのりちゃんが出た。
「どちら様ですか?」
「翔君と同じクラスの岩坂ですけれど、翔君は居ますか?」
「お兄ちゃんは塾に行っていません。」
「のりちゃん、僕が玄関で用事聞いてくるから。」
玄関のドアを開けると、セーラー服を着た真面目そうな女の子が小さな紙袋を握り締めていた。
「これ、合格祈願のお守り作ったんです。翔君に渡してください。」
「岩坂さんからって渡せば翔分かる?」
「はい。自由登校になったら、渡辺君全く学校に来なくなったので、家まで押しかけてすいません。」
「わざわざありがとうね。渡しておくよ。岩坂さんは受験じゃないの?」
「私、推薦なんです。」
「あ、そうなんだ。気を付けて帰ってね。」
バタンとドアを閉めて鍵をかけると、ほっぺたを膨らましたのりちゃんが様子を窺うように立っていた。
「家まで来るなんてキモチワルイ。」
「きっとものすごく勇気がいったはずだよ。」
「いくら好きだからって一方的に手作りを押し付けられたらメイワク。」
「翔も好きな子かもしれないじゃないか。」
「お兄ちゃんはあんな子絶対タイプじゃないもん。」
「のりちゃんは、翔の好きなタイプ知ってるの?」
「お兄ちゃんの好きなタイプはパラちゃんだよ。」
「それはペットとして好きなんだと思うけどな。」
「そうだとしても、岩坂さんは絶対絶対反対!」
くっそう。翔め、こんなにのりちゃんにジェラって貰えるなんてメチャクチャ羨ましい。




