反抗期に片足を突っ込んだのりちゃん
小粒の新じゃがを舞がたくさん持って帰ってきた。
「わらしさま、近所の奥さんが今年採れた新じゃがだそうですよ。」
「そう。お礼言っといてね。」
「コーキ、これでいなりへお土産作ろうよ。」
「そうだね。そろそろお土産持たせる時期だね。」
「明日、学校から帰ってきたら一緒に作ろうね。」
ニカっと笑うとのりちゃんは、パラちゃんの様子をこっそりと覗きに行った。ニホントカゲの性質上捕食されると勘違いするからすぐに隠れてしまうのはしょうがないが、パラちゃんは本当にニホントカゲなんだろうか?いくらなんでも長生きしすぎじゃね?かと言ってパラちゃんが死んだらのりちゃん大泣きしちゃうだろうなぁ。
中学3年生になった翔は、いよいよ受験生だ。美術関連に進みたい翔は、美大コースを受講している為夜は、塾で持参した僕のお弁当を食べているから、大抵のりちゃんと2人っきりの夕飯になる。あんまり寂しそうにしている時は『チームわらし』を招集したりもするが、小学生高学年になるとのりちゃんの宿題の量も増えてきて平日に、『チームわらし』を招集して騒ぐのが難しくなってきた。
5年生になったのりちゃんに塾に行くかと聞いたら、行きたくないと言うからどうしようかと思案していたらクラマが名乗りを上げてくれた。反抗期に片足を突っ込んでるのりちゃんは、僕があれこれ言うとぶーたれてしまうのだ。
◆◇◆
「コーキただいま~。」
「のりちゃんお帰り。」
「早くいなりへのお土産作ろっっ。」
小粒新じゃがをよく洗って、キッチンペーパーでのりちゃんが一生懸命水気を取っている。僕はそれを油で丸ごと素揚げにして行く。油の中で泳ぐ小粒新じゃがをコロコロ菜箸で転がす。のりちゃんは油が飛ぶといけないからちょっと下がって小粒新じゃが全部揚げ終わるのを待っていた。
小粒新じゃがを全部揚げ終わったら、のりちゃんとバトンタッチ。お鍋に砂糖、しょうゆ、酒、水を加え煮立ったら、小粒新じゃがを転がしながら煮る。
「コーキこれくらい?」
「もうちょっと煮汁がトロリとするまで煮詰めてね。」
「アイアイサー。」
小粒新じゃがに良い照りが付いて白米何杯もいけそうな良い香りが台所に漂っていた。
「これにぃにのお弁当にも入れてくれる?」
「モチロン。翔のお弁当にも入れるよ。」
「にぃに喜んでくれるかなぁ?」
「のりちゃんの手作りが入ってたら翔も塾でやる気倍増でしょ。塾のみんなにのりちゃんが作ったんだって自慢するんじゃないかな。」
「そうだといいな。そう言えばね、はなかちゃんが今度のお休みに一緒にブラ買いに行こうだって。」
「えっ!?ブラ?」
「コーキ、ブラジャー知らないの?」
「知ってるよ。ブラって小学生がするものなの?」
「お母さんみたいなブラジャーじゃなくて、子供用があるの!」
「……そうなんだ。僕がついて行った方がいい?」
「コーキ変態。」
「だって子供二人じゃお買い物行けないでしょ。」
「はなかちゃんのママが連れてってくれるのっ。」
「そうなんだ。後ではなかちゃんのママに電話しておくよ。」
のりちゃんがブラジャー着ける日がやって来るとは。子供用ブラジャーって一体どんな物なのかのりちゃんが寝たらネットで調べてみよう。
はなかちゃんのママに他にのりちゃんに必要な物が有るかも聞いておかなくっちゃ。僕は脳内で2タスク分の付箋を貼った。
「今晩は。」
「うわっ。チコちゃん。」
「あ、チコちゃんだ~。」
「わらし、のり子ちゃんこんばんは。兄さまの代わりにあたしがお土産貰いに来たよ。それからコシアブラ持ってきたよ。」
「チコちゃんありがとう。早速天ぷらにしよう。」
「わぁ。春のごちそうだね。チコちゃんありがとう。」
前世『のりちゃん』は、衣の付いた揚げ物を揚げるのが苦手だったから、僕の『のりちゃん』に美味しい揚げ物を食べてもらおうと長い間特訓したんだ。小麦粉、水、マヨネーズを軽く混ぜてコシアブラをくぐらせると、低温の油でじっくり揚げていった。
ガールズトークでチコちゃんと盛り上がった食卓にのりちゃんが大喜びしていた。




