のりちゃんのお土産
いなりが、米俵とシイタケが生ってる木を持ってやってきた。
「のり子、これでお土産用のメシ作ってくれ。」
「いいよ~。その前にいなりと鳥さんにご飯あげたい。」
のりちゃんのMyブームは、野鳥を庭で観察することだ。クラマが来れば高い高いのついでに、木の枝に果物の輪切りを刺したりしているし、いなりが来ればベランダに設置されてる吊り皿に抱っこして貰ってパンくずや、米を入れている。
お蔭で庭先ではスズメだけじゃなくて、メジロ、ヒヨドリ、シジュウカラ、鴬なんかも見かけるようになった。
「いなりの持ってくるお米は、鳥さん達に大人気なんだよ。」
「そうか。また持ってきてやる。」
「いなりありがとう。」
餌やりの抱っこは、僕がしたいのに。後ろからいなりとのりちゃんが、米を吊り皿にばらまくのを眺めていた。
「のりちゃん、ご飯先に炊こうね。」
「うん。コーキ今日は何作るの?」
「シイタケの混ぜご飯だよ。」
「あれ、美味しいよね。私も食べたい。」
小学校に上がったのりちゃんは、『私』と言うようになった。何でも学校で、小学生になったらもうお姉さんだから自分の事は、私と言いましょうと教えられたらしい。僕の小さなお姫様はすくすくと順調に育っている。
「モチロンのりちゃんの夕飯もシイタケの混ぜご飯だよ。」
「やった~。」
「オレも夕飯食べてから帰るからな。」
お米を研ぐのも板についてきたのりちゃんは、学校であった最近の出来事をいなりに聞かれるまま話している。いなりも白々しい。のりちゃんが他の妖怪に攫われないよう弟妹弟子が交代でのりちゃんにへばりついて逐一報告しているから知っている事なのに、のりちゃんから聞きたがる。それでのりちゃんを警護してくれている弟妹弟子へのお礼に月に一度のりちゃんが作ったお土産をいなりに渡しているんだ。いなりの弟妹弟子は多いからのりちゃんの警護に着く倍率が凄いらしい。
炊飯器にお米をセットして予約タイマーを入れたのりちゃんは、木に生るシイタケをしげしげと眺めていた。
「シイタケって木に生るんだね。」
「これはシイタケの木じゃなくてクヌギ。この木にシイタケの菌を打ち込んで栽培してる。」
「へ~。私んちでも作れるの?」
「作れるぞ。今は紙袋で栽培するキットも売ってるぞ。」
「のりちゃんが栽培したいなら注文しておくよ。」
「う~ん。考えとく。」
指でプチっとひねったらぽろっと採れる肉厚のシイタケを3人で収穫した。
大量のシイタケを3人で手分けをして刻んでしまうと、のりちゃんが踏み台を持ってきてフライパンにバターを落としてシイタケを炒め始めた。大量でフライパンに入りきらないシイタケを、のりちゃんは3回に分けて炒めて醤油を垂らした。バターと醤油の美味しそうな香りが台所中に漂っている。
僕は、みそ汁を作りつつ、グリルでホッケを焼いた。暇そうにしているいなりに大根おろしを頼んだら、あっという間に1本すりおろしてくれた。その大根おろしの水気を切ったのりちゃんはコロコロと小さな丸を作り始めた。
「のり子なにやってるんだ?」
「雪だるま作ってるんだよ。」
「このくそ暑いのに何で雪だるまなんだ?」
「コーキは猫も作れるけど、私はまだ雪だるましか作れないんだもん。」
「そのうちのりちゃんも作れるようになるよ。」
出来上がったたくさんの雪だるまに黒ゴマで目を入れた。炊きあがったご飯にバター醤油で炒めたシイタケを混ぜてアサツキを振りかけたら今日の晩ご飯は完成。
夏期講習に行ってる翔のほっけは後から焼くことにして3人で夕飯を食べた。
ホッケの横にちんまり存在する大根おろしの雪だるまがツボに嵌ったいなりは、ソッコーで撮影してグループLINEに写真を投稿していた。美術班のカハクちゃんが食いついてきたから、今度カハクちゃんが来た時も大根おろしだなと思った。
重箱ににシイタケご飯を詰めて、もう一つのお重には、大量の雪だるま。いなりの弟妹弟子蓋開けたらびっくりするだろな。




