のりちゃん友チョコデビューする前編
もうすぐのりちゃんの『保育発表会』があるから、のりちゃんは翔の部屋で歌と振り付けの練習をしている。コーキには当日までナイショと言ってちらりとすら見せてくれない。淋しく思うけど、当日の楽しみにとってある。食卓テーブルでお菓子のレシピ本をパラパラめくって、今年のバレンタインデーはのりちゃんと何を作ろうか思案していると、よじよじとのりちゃんが僕の膝によじ登ってきた。
「のりちゃん、もう練習おわったの?」
「うん。にぃにが上手だねってほめてくれたよ。コーキ何見てるの?」
「バレンタインデーにのりちゃんと何を作ろうかなって考えてたの。」
「のりちゃん、じぶんで作りたい。はなかちゃんが、チョコレートクッキー作ってくれるってゆった。」
はなかちゃんは、同じクラスのお友達で、バレンタインデーにクッキーを作って来ると言ったんだな。そして、今までのりちゃんが、『チームわらし』に作ってた程度の工程しかしないだろうに、はなかちゃんが最初から最後まで一人でクッキー作れるってのりちゃんは勘違いしてるんだろうなぁ。困った。なんでも僕がのりちゃんの願いを叶えてあげたいしなぁ。
「のりちゃんが一人で作れるお菓子あるよ。」
「ほんと?」
「その代わり今日から特訓だけど大丈夫?」
「のりちゃんがんばるっっ。」
それから3週間渡辺家はチョコレートの甘ったるい匂いが充満しまくりだった。
「最初は、僕と一緒に1回作ってみるよ。」
「は~い。」
チョコレートを細かく刻んで、チョコレートを湯煎する。滑らかに溶けたらお水をはったボールにチョコレートのボールを移して、純ココアを入れて混ぜる。混ざったら、ドライフランボワーズとコーンフレークも入れて混ぜる。後はチョコレートをアルミカップに流し込んだら冷蔵庫で固めて完成。
これなら、のりちゃん一人でも作れるようになるだろう。
「さ、のりちゃん、左手は猫さんの手にしてチョコレートは斜めに切るんだよ。」
「イエッサー。」
うんしょうんしょ。と掛け声をかけながら刻むのりちゃんのチョコレートのかけらはデカイ。かといって細かく刻もううとするのを見るのも心臓に悪い。フードプロセッサー使えば簡単だけど、My包丁を誇らしげに持つのりちゃんを見たら、応援してあげたい。僕の心の葛藤はしばらく続くのであった。
1週間もすると、包丁が手に馴染んできたのか、大分細かく刻めるようになったのりちゃんの第2段階。『湯煎』だ。
刻んだチョコレートをボールに移して、お湯のはってあるボールにそっとつける。1回目、勢いよくお湯がチョコレートの中に入った。僕は浅はかだった。小さいボールの方がのりちゃんが使いやすいかと思った結果だったのだが、大きなボールにお湯を少しにしてチョコレートのボールを底まで抑えてから混ぜるように改善したら、お湯も入らなくなった。ボールを持つ力の手加減が覚わるまではこの作戦を決行しようと思う。
第3段階。ココアを入れる。秤でココアを計量するのは粉をぶちまけそうで、裸のお人形さんが3分でお料理しちゃうあの技を採用。そう。材料はすべて容器に量って入れておくっていうアレ。
お水のはった大きなボールに溶けたチョコレートのボールを移して、小皿によそったココアを溶けたチョコレートの上にサラサラとかけたのりちゃんは、一心不乱にチョコレートとココアを混ぜている。ここで問題が発生。混ぜるのに時間がかかり過ぎてチョコレートが固くなってくるため更に混ぜるのに時間がかかるスパイラルへ突入。結構な重労働になってきたけど、のりちゃんはめげなかった。はなかちゃんへ手作りチョコレートをあげる為に頑張った。
2/10、やっと第4段階フランボワーズとコーンフレークを混ぜたチョコレートをアルミカップへ移すところまでたどり着いた。トロトロのチョコレートだけをカップに移すのは難しいから量増し作戦にした訳だけど、その作戦が功を成して『アルミカップにチョコレートを入れる』は難なく出来たんだ。
冷蔵庫に入れて固まるのをそわそわして待つのりちゃんがほほえましかったから、スマホで写真を撮って『チームわらし』のグループLINEに投稿しておいた。
宿題が終わった翔が2階から降りてきた。
「のりちゃん、チョコレートはできそう?」
「にぃに。もうすぐ固まるよ。」
「2人で先にお風呂入っておいで。」
「「は~い。」」
後ろ髪を引かれる思いでのりちゃんは翔の後についてお風呂場へ向かった。




