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保育園最後の運動会

「よーい」ボーン。


 ピストルではなく大太鼓がスタートの合図で、なんだかしまんないかけっこが小さなグラウンドで繰り広げられている。体操服の背中に翔のペット『パラリティタン』をデフォルメしたアップリケを縫い付けたのりちゃんの出番は3番目だ。しゃがんで待機している間も、しっかり撮影しておく。


「のり子は、何番目なんだ?」

「いなり目が悪いのか?のりは、3番目の列の左から2人目に並んでるぞ。」

「私がデザインしたワッペン付けてる。」

「兄さま、ほらあそこ、のり子ちゃんがこっち向いて手を振ってるよ。」


 去年運動会を見に来たカハクちゃんが、他の園児のハンドメイド感満載の体操服や持ち物を見て闘志を燃やしてしまったんだ。保育園で一番おしゃれに作ってやると息巻くカハクちゃんによって、レッスンバック、スモック、通園着、帽子、にカハクちゃんデザインの『パラリティタン』が縫い付けてある。何で『パラリティタン』になったかって?そりゃぁのりちゃんが『パラちゃん』付けて~とおねだりしたからに決まってるじゃないか。

 尻尾が頭の方にカーブして円になるようにデザインされたトカゲの背中は、バックや帽子にはビーズやスパンコールが縫い付けられてキラキラしているし、衣類には、同じ型でかわいい柄の布で作られたトカゲにびっしり刺繍されている。美術班のカハクちゃんが妥協を許すはずもなく、チコちゃんと僕は黙々と手だけを動かしていた。お蔭で裁縫の腕も相当上がったと思う。


「あ、次のりちゃんが走るよ。」


 スタートラインについたのりちゃんが右腕を前にして構えている。


「翔こっち来い。」

「クラマ様なぁに?」

「そっからじゃ見えんだろう。」


 日本の成人男性の平均身長より5センチ程高くなったクラマは、翔に対して兄貴風をよく吹かす。


「クラマ様ありがとう。のりちゃんがよく見えるよ。」

「そうか。」


 太鼓の音が鳴って4人の園児が勢いよく走り出した。のりちゃんは1番を走っている子を追い抜かして独走態勢に入ったところでずざーっと転んでしまった。


「のりちゃんっっ。」


 普段どんくさい翔からは想像ができないスピードでのりちゃんの元に走って行って、のりちゃんが立ち上がるのを横で見守っていた。泣き出すのりちゃんに、ゴールを指さして並走する翔は立派なナイトだ。ゴールで待っていた先生にのりちゃんはそのまま連れていかれた。両ひざが血まみれだった。


「翔、よくのりちゃんを助け起さなかったな。えらいぞ。」

「だって、わらしさまボクが転んだ時いつも、ほら頑張って自分で立てって言ってくれたでしょ。」


 翔は本当に良いお兄ちゃんだ。

 そんなお兄ちゃんの有志もばっちり撮影してあるからな。

 両ひざに四角い絆創膏を貼られたのりちゃんが、自分の応援席に帰ってきたから、みんなでのりちゃんの様子を見に行った。


「コーキ、にぃにが助けに来てくれた!にぃにカッコイイ。」


 くっ。僕が行けばよかった。ドべになった事はのりちゃんにとってさほど問題ではなかったようだ。水筒のお茶を飲むように言って僕らは観覧席に戻っていった。

 そして、僕ら5人は親子競技に誰が出るかをかけて真剣勝負のじゃんけんをした。ふっ。僕の『のりちゃん』への愛がやっぱり一番強かったな。ビデオカメラをカハクちゃんに預けて僕は意気揚々と入場門へ向かった。

 僕は入場門でのりちゃんをおんぶして列に並んだ。おんぶ騎馬戦では、かけっこのしくじりを挽回できたと思う。普段『チームわらし』が運転する自転車に乗り慣れているのりちゃんは、スピードが速くても怖がらないからね。後は僕のスタミナが人間に負けるわけがない。僕のカッコイイとこを後でのりちゃんに再生してじっくり見せなくちゃ。

 お昼を大幅に回って閉会式があり、のりちゃんの保育園最後の運動会は終わった。


 ◆◇◆


 昨日帰ったらすぐに食べれるように昼ごはんの下準備をしておいた。天板にアルミホイルを敷いて味噌に焦げ目をつけたし、キュウリも塩もみして冷蔵庫でスタンバっている。

 焦げ目をつけた味噌を水で溶いていりごまを散らす。その中に、シーチキン、水気を絞ったキュウリ、シソ、氷を入れたものを大きなガラスボールに移してお玉と一緒にテーブルにセット。

 炊飯ジャーもテーブルに持ってきてそれぞれのお椀に炊きたての五穀米をよそう。好きな量だけ冷や汁をそれぞれによそって貰った。一人分ずつ冷や汁水に溶いてたら、台所何往復のお替りされるかわからないもんね。

 長時間日差しを浴びて、汗をかいたこの体に冷たくて香ばしい味噌最高。



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