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朝の儀式

「コーキ、のりちゃん白いご飯いやだぁ。」

「一口食べたら、黄味ぽとんしてあげるんだけどなぁ。」


 のりちゃんは、涙目で一口白米を食べた。白米の入った口を大きく開けて一口食べた事をアピールするのも忘れない。約束通り、昨日の晩から醤油に漬けてあった黄味をのりちゃんのお茶碗に乗せてあげた。


「沢庵も2切れまでだからね。ほら、お味噌汁も飲んで。」

「のりちゃん、お兄ちゃんとどっちが早く食べ終わるか競争だよ。」

「のりちゃん、ご飯食べたくない~。」


 3年保育が主流になってきているけど、のりちゃんと離れるのが嫌で、2年保育にした。慣れない環境に苛立つのりちゃんは、朝ご飯に何を出してもゴネるようになった。朝ご飯を食べたら保育園に行かなくてはいけないからだ。

 これくらいの時期の翔は、淡々と朝ごはんを食べてお出かけの準備もスムーズだったけど、のりちゃんは、やれ靴下はこれじゃ嫌だとか、やれ髪の毛の結び方が気に入らないとか朝からてんやわんやの大騒動。


「翔、そろそろ出掛けないと分団に間に合わないよ。」

「は~い。行ってきま~す。」


 のりちゃんをぎゅっと抱きしめてほっぺたにチューすると、ランドセルを背負って翔は集団登校の集合場所へ出掛けて行った。僕の真似をしているのは、わかるけどさぁ。なんか釈然としないんだよね。


「にぃにいってらっしゃい。」


 のりちゃんも、翔のほっぺたにいってらっしゃいのチューをした。僕ものりちゃんにいってらっしゃいのチューしてもらいたい。モチロンいってきますのチューは毎日してもらってるけどね。


 テレビを見ながらグズグズするのりちゃんをなだめすかして、保育園へママチャリで送る。

 担任の先生に宜しくお願いしますをする頃になると、のりちゃんはポロポロ涙を零し、大声で喚き出す。


「い~や~だ~。コーキと一緒にいるぅ。」


 のりちゃんが、僕にしがみついて離れない。超至福の時。こんな事なら3年保育にすれば良かったと思うほどに、毎朝至福の時を味わっている。


「のりこちゃん、お父さんにいってきますしようね。」

「お父さんじゃないもん。コーキは、コーキだもん~。」


 新人らしい担任の先生はいくら言っても、僕がのりちゃんの父親だと思っている。そりゃそうだよな。送り迎えも、参観日も皆勤賞は僕だから。翔の時と同じスタンスの、隆と舞の生活リズムは全くブレない。

 長居をすればするだけのりちゃんのまなこは、水浸しになるから


「のりちゃん、夕方にはコーキがお迎えに来るから今日どんな楽しい事をしたか教えてね。いってらっしゃい。」


 そっとしょっぱいほっぺたにチューをする。


「うっうっ。いってきまぁす。」


 ぎゅーと抱きついてぶちゅっと頬にチューをしてくるのりちゃん。今生の別れのような毎朝の儀式を新米担任に生あったかい目で見られても、僕は自重しない。

 だって、隣でギャン泣きしてる男の子なんかお母さんにしがみついて離れない気満々だけど、のりちゃんはどんなに我儘を言っても引くところを弁えている。


 のりちゃんが帰ってきたら、庭のブランコで遊ぶのもいいし、先に帰って来る翔の宿題を済ませてから一緒にお迎えに行ってもいい。

 のりちゃんが、お家が一番楽しいと感じる事は全力で取り組もうと思う。

 最近顕著に身長が伸びたクラマを夕飯に誘って、のりちゃんの大好きな高い高いをさせてもいいし、いなりとチコちゃんに一輪車の練習を見てもらう翔を2人で見学してもいい。カハクちゃんと、プチトマト以外の植物を育てる様子を見せてもいい。のりちゃんを楽しませる事を考えると際限がない。

 入園当初は、のりちゃんが家に居ない間の時間の長さに辟易していたが、最近はどんな風に迎えに行こうとか、帰ってきたら何をして喜ばそうと考えているだけであっという間に時間が過ぎる。

 優しすぎるのりちゃんは、保育園で気を使い過ぎてお家で我儘大王になってるだけなんだ。のりちゃんに我儘を言ってもらえる存在にやっとなれた事が僕は嬉しい。

 全力で甘やかすから覚悟してね。のりちゃん。

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