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FOOL  作者: 朱花
幕間 狙撃手の憂鬱
11/11

*** 2 ***

 

 

「んー、腕はそう悪くないな」 


 耳当てを外し、ニールは射撃を終えたハヅキの傍らに歩み寄った。回収したマンターゲットを確認しながらハヅキは不満そうに肩を竦める。


「3発しか狙い通りにいかなかったけど」

「久々だったんだろ、銃持つの。上出来じゃない?」


 ハヅキが撃ったのは6発。そのうちの半分が狙い通りだったのなら、とりあえず及第点だ。


「だけど、甘いね」 


 ニールは、ターゲットの肩に残った弾痕を指で弾いた。


「肩と腕、そして手に一発ずつ。これが狙い通りだとしたら、君は甘いんだな」


 ハヅキは眉を顰めた。


「どういう意味?」

「急所を狙え、って意味。これまで君がどういう訓練を受けてきたかは知らないけど、ここではそれは一旦捨てたほうがいい。常に急所を狙え」

「……なぜ」


 心なしか怒ったように睨み付けるハヅキを、ニールは飄々と笑って見返した。


「身を守るためさ」

「相手の動きを封じられればいいだろう?」

「それが甘いの。確実に急所を捉えられるようになって初めて、そこを外して撃てる余裕ができる。余裕ができて初めて、冷静な状況の判断ができる、ってことさ」


 言いながら、ニールはハヅキにイヤーマフを当て、自身もそれを付けた。


「冷静な状況の判断ができなければ、身を守ることもままならない」


 懐から自分の銃を取り出し、それを的に向かって2発続けて発砲する。隣のレーンの的が揺れた。

 ハヅキは無言でそのレーンのターゲットを寄せる。そこに残る弾痕を見て、ハッと息をのんだ。

 額の中央と、左寄りの胸に一つずつの穴。


「あー、ちょっとずれたか」


 ニールはコリコリと指で額を掻いた。ハヅキが戸惑ったように見上げてくる。


「ずれたって……」

「額。ど真ん中狙ったんだけどな。ちょっと右に寄っちゃった」

「いや、でも……」


 ハヅキは言葉を失ったように口を噤んだ。無理もない。そのちょっとのずれは、ほとんどわからない程度だった。


「さて。ハヅキはまだ続ける? 俺はもうそろそろ出たいんだけど」

「いや、私も出ます」

「そうした方がいい。あまり撃ちすぎても頭痛の元にしかならないからね」

「うん」

 ハヅキは小さく笑った。



「でも地下にこんなしっかりとした訓練所があるとは思わなかった」


 廊下を歩きながら、ハヅキは物珍しそうに周りを見回す。左右にあるいくつかの部屋のドア、それはすべて「訓練場」だ。今までいた射撃訓練場を始め、格闘訓練場、刀剣訓練場まである。


「このビルは地上よりも地下が本体って感じだからね。地下も5階まである」

「そうなんだ……すごいな」


 素直に感心したような様子のハヅキに、ニールは微笑を浮かべだ。


「驚いた?」

「もう、ここにきてずっと驚きっぱなし」

「だろうね。俺も最初のうちはそうだった」


 ハヅキがニールを見上げた。


「ニールは、いつからここに?」

「んー、いつからだっけなぁ」


 ニールは意地悪くハヅキを見返す。


「ねぇ、ハヅキ。そういう個人的な事情は聞かないことがここのルール、って、ナオイあたりから聞かなかった?」

「あ」

「それでも、どうしてもハヅキが俺のこと聞きたい、っていうんなら、教えてあげないでもないけど」


 言いながら、ハヅキの前に回り、壁に手をついてその間に彼女を封じ込める。


「ハヅキ。俺のこと、知りたいかい?」


 目を細め、至近距離で熱っぽくハヅキを見つめる。こうすれば、たいていの女はポッと頬を赤らめて、とろんと酔ったような目でニールを見つめ返してくる。

 ……が。

 ハヅキから返ってきたのは、冷め切った視線だった。


「女好きの狙撃手」


 ぽつりと落とされた呟きに、空気がぴきんと凍った。


「――は?」

「女たらしの超一流狙撃手、でしょう?」

「え、えぇ? 何それ……」

「マユラが言ってた。話半分に聞いてたけど、どうやら本当だったみたいね……」


 大げさにため息を吐くハヅキに、ニールも項垂れて長い息を吐いた。


「マユラのやつ……」

「別に、あなたの性癖をどうこう言うつもりもないけれど、私はそういう対象になるのはごめんですから」


 ハヅキはひょいと身を屈めて、ニールと壁の間から抜け出した。


「つれないなぁ、ハヅキちゃん。そんなにはっきり振ってくれなくても」


 ニールは肩を竦め、情けなく呟く。ハヅキがクスッと笑ってそんなニールを振り返った。


「だけど、一流の狙撃手なのは認める。あの時助けてくれたでしょう? ありがとう」

「え?」


 いつのことを言っているのかわからない。首を傾げたニールに、ハヅキは言った。


「中央区で、私が地下鉄からシジマに連れられて逃げ出した時のこと。あの時、私たちの前に現れた敵を排除してくれたのはニールでしょう?」

「あー、あれか。でも、あれは礼を言われるようなことじゃないよ?」

「任務だったから?」

「まぁ、そうだ」


 頷いたニールの目を、ハヅキは真っ直ぐに見返した。


「任務でもなんでもいい。あの時ニールが対処してくれたから私たちは助かった。それは事実。だから、ありがとうとお礼を言わせて」

「――ああ」

 

 面食らいつつもニールが頷くと、ハヅキは満足したように微笑んだ。


 先を歩き出したハヅキの背中を、ニールはしばらく見つめていた。

 予想外だ。

 ハヅキ・ノーティス。

 こんな組織のメンバーになるにしては、とりとめて秀でた技術のない、大したことのない女。

 だが彼女は、自分の女たらし以上に――


「とんだ人たらし(・・・・)だぜ……」


 ニールは参ったとばかりにうなじを掻いた。

 







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