8話
結局、サダ君は「双子に違いない!」と言いながら一生懸命に粉挽きをしていた。しかしNPCの粉屋さんは、私達の話し声には反応していない。その後、麦の袋を持ってきた男性と話しながら私も粉をひく。
「ゲーム的には大丈夫なのかしら、下の階に麦はなくならいの?」
「あぁ、大丈夫だろ。持ってきたのは俺が分類したのだけだし、本当に困るようだったらシステム的に持ってこれないと思う。」と男性が答える。
「なるほど。アイテムの移動制限はないんですね。」とメハシ君が分析する。
「そうだなぁ。βのときも基本、所有権がないものは自由だった。たぶん、この建物から出さなければ問題ないんじゃないか?」と男性が答える。
「え!あなたβテストやっていたの?」びっくりして尋ねると、
「あぁ。かなり変更点があってびっくりしたよ。」
「へぇ、たしかにプレイ動画みてると、もっと最初から開拓していたわね。」
「たぶん、βテストでは短期間にバグや仕様の確認をする必要から、最初からスキルを1段階か2段階、進化したものを選べたんだ。だから、こういう地味な作業はなかった。」
「そうなの、色々聞かせてもらって、ありがとう。私はアイ・ハ、名前を聞いてもよいかしら?」
「いや、こちらこそ。俺はQBA・リックという。こちらも情報交換はしておきたいから助かった。」とお互いに自己紹介をする。
「きゅーびぃえ、きゅうべぇ、何か魔法少女を量産しそうな、お名前ですね。僕はメハシと言います。あちらのリザードマンがサダさんです。」とメハシ君はギリギリのラインの感想を言っている。
「そういえばβテストの頃から作業のやり方によって、効率は変わっていたんですか?」とメハシ君が尋ねている。
一生懸命やることによって作業結果が変わってくることは秘密にしたほうがよいかもしれないと一瞬思ったが、粉挽きの作業場自体、他の人もいるし小声で話していたわけではない。何よりメハシ君が気づいた情報だから私が秘密にするのもおかしな話だと思う。
それでリックさんの話によると、いくつかの生産活動で作業方法がかなりシビアに判定されているという話はあったようだ。
「というか、今、粉挽きの話を聞いていて分かったよ。ソレに気づかせるために地味なスタートラインにしたのかもな。こうして皆が同じ作業をしていれば、より早くより効率よく作業できる奴がでてきたら、その理由を考えるようになる。」
なるほどなと納得する。ただボォーっと作業していてはダメだということだ。私はスポーツはアーチェリーくらいしかマトモにやっていないが、スポーツも同じだ。『今日はフォームをより良くする』とか『もっと体力をつける』とか目標をもって、それを達成する工夫をしないと上手くならない。
目標をもつこと、工夫すること、反省すること、それらをしないで何百と矢を射っても決して上達することはない。
そうこうしてる内にスキルレベルが上がった。そして私の前にある粉とサダ君の粉は明らかに量が違う。ざっと1.5倍はサダ君の方が多い。
「喋りながらだと作業効率は落ちるのね。でもレベルアップのための経験値は単純に作業時間みたいね。私もサダ君も一緒にあがったし。」と私も分析してみる。
「そうですね。たぶん。ただ、このゲームは序盤ですし、先々はそれも変わるかもしれません」とメハシ君。
そしてサダ君は
「ま、とりあえず、このくらいで一回コナヤちゃんに持っていこうぜ。」と使いまわし疑惑から立ち直っていた。
私も粉を入れた木製の容器をもってつづく。
「って、『このくらいで一回』も何も、私はこれで終わりにするからね!」と釘を差しておく。
「ありがとうございます。これで飢えた子どもたちにパンを焼いてあげられます。こうしてプレイヤーの皆様が来てくださらなかったら、どうなっていたことでしょう。本当にありがとうございます。」とさきほどと全く同じ涙目で、同じことを繰り返す粉屋さん。
「サダ君、変わらないことが分かったから、私は訓練場に行くわよ。」
「く、なんどでも美人を涙目で喜ばせることが出来ることを感謝すべきなのか!?」とサダ君はおかしなことを言い出している。おかしな性癖に目覚めたようだ。
「サダ君、貴方とは短い付き合いだったけど、一緒にゲームできて楽しかったわ。もう変態となった貴方とは会うこともないでしょう。」
「まて!男はみんな変態だぞ!オープンな変態とムッツリがいるだけだ!」と抗議されるが笑顔でスルー。
「私は弓兵がやりたくて、このゲーム始めたんだから、いつまでも粉ひいてられないよ」
と言い立ち上がると、サダ君、メハシ君、リックさんも皆立ち上がる。
リックさんも
「俺も自分のやったことが無駄になるのが嫌で、ここまで麦運んできたけど、そろそろ行くわ。魔法使うのも大変らしいなぁ」と言い部屋から出口に向かう。
「そうかぁ。やはり戦闘は近接が楽なのかね?」とサダ君。
「サダ君は近接系に行くの?」
「いや、最初は遠距離、次に中距離、最後に近接も全部やってみるつもりだ。まぁ、近接が楽なら近接にしぼるつもりだけどな」
「ゲームとしては最初から一つに絞った方が有利なんじゃないですか?」とメハシ君が聞く。
「あぁ、そうなんだがPGOの場合、職業もスキルも初期のものが少なすぎる。それにリザードマンは戦闘が得意と書いてあったり、それぞれの初期スキルの説明文も深読みすると戦闘に影響する可能性がある。『手作業』はいわゆるDEX、器用さアップとかな。」
そんな話をしながら皆で階段を降りて出口へと向かう。
「それでキャラメイクの時にも色々聞いてみると職業は後から変更が可能で、大きなペナルティもない。というのが分かってな、となると職業が生産活動に影響を与える可能性もある。けど、説明文には載ってないし、チュートリアルでも教えてくれなかった。だから調べてみたくてな」とサダ君が言った所で外にでる。
思ったより、皆いろいろ考えてゲームしてるのね。
外にでた所で、リックさんが携帯端末を取り出し、
「地図をみれるから、訓練の場所を確認してみな」
と言われる。
「じゃあ、リックさんとはここでお別れですね。また会いましょう!」とメハシ君が挨拶して別れる。
「最初はどんな弓なのかなぁ?」実は見習い投手となっているが武器などは支給されていない。訓練場に武器があるのだろう。
「投手っていうくらいだから石でも投げるのかね」とサダ君が言う。
「いやぁ、意外とダーツみたいな投槍かもしれませんよ。古代ではそういった武器もありましたし。」とメハシ君が歴史オタクぽいことを言う。
「しかし二人共、PGOに毒されてるよ。いくらなんでもそんなに変なものじゃないでしょ」と私は言うが
「いや、ありうる」サダ君に
「楽観しないほうがいいですよ」とメハシ君に言われてしまう。
そんな風に雑談しながら中世風の街を歩いて行く。と、ゴルフの打ちっぱなしをする練習場のような場所を細長くしたような建物というかグラウンドが見えてくる。矢が外に出さないように全体に囲いがあって、射手は三方を壁に囲われるが天井と一方向の壁がないわけだ。
「大きな射場ねぇー!」一般に弓道専門の施設は弓道場とも言うが、アーチェリーが出来るグラウンド・施設のことを射場と言う。
建物の入り口に着くと私のをはじめ全員の携帯端末がなりクエスト受信のお知らせが表示される。戦闘職のレベルアップのクエストだろうと思ったら、案の定、そうだった。とりあえず斜め読みして射場に入る。
そこには10人くらいの人がいて、みんなでパチンコを引いていた。
「これはスリングショット?」とメハシ君?
「なんだよ、かっこよくいってるけど、パチンコだろ。」サダ君はつづけて「そんなアホな!って落ちだろ」と言うが
「何言ってるの、弓の射型の基本じゃない?さすが、運営わかってる!」と返すと
「「アホはここにもいた」」と突っ込まれました。
VRゲーム小説のテンプレでは薬を作ったり、料理をするのがテンプレですね。
私なりにテンプレをなぞろうとしたら、皆で白い粉を作って女性を涙目にするおかしな話になりました。
さて次話からがっつりアーチェリーの話になります。
専門用語がメチャクチャたくさん出てくるので分からない言葉・単語などありましたら、ご指摘いただけると嬉しいです。