7話
結局、3人で並んで粉挽きをしている。なんだろうなぁ、ゲームでやる作業じゃない気がする。ひたすら棒を前後にまわして下の台にある麦を粉にする。ある程度、粉になったら、別の容器に移す。そして麦を一掴みとって粉にしていく。
「NPCの歓迎はなんだったのかしら、奴隷みたい」とつぶやくと、
「そうだなぁ、開拓してくれ!とは言っても冒険してくれ!とは言わないし、無料の労働力って感じだな」とサダ君も同意する。
「まさに!それですよ!水車が出来る前は粉挽きは奴隷の仕事だったんです。また奴隷が一般的じゃない社会でも面倒な仕事で、、、」とメハシ君が熱く語りだす。
「メハシ君、手が止まってるわよ」とかる〜く注意する。
「は。はい、すいません」と、ちょっと怯えさせてしまったかしら。
「分かれば良いのよ」と微笑んでおく。
「なんで水車は、ないんだろうな。ん、おっとレベルアップか」とサダ君が言いかけた所で私にもレベルアップの通知が来たのか携帯端末が震える。
端末にレベルアップのお知らせというのが来てる。同時にチュートリアルクエストもクリア出来たようだ。
『!クエストクリアのお知らせ!
生産スキル手作業がレベルアップしました。中央にいる粉屋に出来た粉を渡しましょう。端末機能が一部開放されました。ギルド加入メニューが使用可能になりました。戦闘職の訓練場が使用可能になりました』
そういえば真ん中にいる女性はさっきからずっといるなぁと思っていたがクエスト用のNPCだったわけか。
パンパンっと腰をはらいながら、立ち上がり、粉を詰めた容器を手に持ち、歩いて行く。おおっ!美人さんだ。下を向いて作業していたから、わからなかったが粉屋さんは美人さんだ。
「えっと、粉屋さん?」と声をかける。
「はい。どうしました。」と粉屋さんが顔を上げる。お〜、やっぱり美人だ。頭に青いスカーフをつけて、金髪碧眼のスッとした鼻筋で小顔の美女だ。
「えっと粉ひけましたけど」ここまで美人が相手だと緊張しちゃうな。
「ありがとうございます。これで飢えた子どもたちにパンを焼いてあげられます。こうしてプレイヤーの皆様が来てくださらなかったら、どうなっていたことでしょう。本当にありがとうございます。」と涙目に感謝される。
人に感謝されるのは嬉しいなぁ、ゲームと分かっていても。と思っていたら、これがクリティカルヒットだった男が一人いた。
「な、な〜に、これくらい大したことないですますぜ!なんならもっと粉にする?」とサダ君には美女の涙目に真っ赤になりながら答えている。
「えっと、サダ君、日本語がおかしいよ」と私が聞くと、
「なんもおかしなことあらへん。そないことよりアイ・ハさんもメハシ君もまだ粉ひいてくやろ!」とか言ってくる。
「え〜!いやよ、訓練所いきたい」と私。
「何で関西弁に?そちらの出身ですか?」とメハシ君。
「ふたりとも粉すって楽しい言ってたやん」と言いながら逃がさないとばかりに両手で私とメハシ君の肘をがっつり掴んでくる。
「すってないし!言ってないよ!と言うかサダ君も奴隷みたいって言ってたじゃない。」
「いえ、それを言っていたのはアイ・ハさんの方では?」とメハシ君。そこじゃないよ、メハシ君つっこむ場所を間違えてるよ。
「ここで1人だけになったらサビシイ奴みたいだろ。もうちょっとやっていこうぜ。生産スキルレベル上げておいて損はないって」とサダ君に強引にすり臼の前に連れてこられる。
「しょうがないわね。次に粉持っていって反応が変わらなかったら、私は行くわよ」と譲歩する。ゲーム的な思考だけど同じ課題を繰り返すと報酬が増える場合がある。それを期待して、ちょっとだけやってみよう。
「そうそう。きっと良いことあるって!」とサダ君。
どうだかね、と思いながらもメハシ君と一緒にゴリゴリ粉挽きを始める。
「うぅむ。これは予想外にゲームとして面白いですね。」とまたメハシ君が意味不明なことを言い出す。
「えー!ひたすらゴリゴリしてるだけじゃない。どこが面白いの?」と聞き返す。
「いえ、現実の粉挽きはもっと大変だと思います。こんなに短時間で粉はひけないでしょうし、作成される粉も現実より多いと思います。ゲーム的な補助、システムアシストが働いてる証拠でしょう。あとアイ・ハさんとサダさんの粉の質や量にも差がほとんど見受けられません。確実にサダさんの方が熱心にやっているのにです。」
びっくり!そんなこと気にもとめてなかった。メハシ君は変な人だけど残念な人じゃないのね。
「なぁ〜に〜。じゃあ俺の熱い思いは無駄だっていうのか?」とサダ君が落ち込む。
「そんなことはありません。おふたりの生産スキルレベルは同じ。ですが種族は違います。説明文を読むとリザードマンは戦闘が得意とあります。ゲームとして得意なことがある以上、不得意なこともあるでしょう。明言されていませんし、システムチュートリアルでも教えてくれなかったのですが、おそらくは生産活動全般にマイナス補正があるはずです。そのマイナス分を一所懸命にやることでカバーできるとしたら、すごいゲームだと思います。」と一気に喋るメハシ君。
「ちょっと何言ってるのか分からないんだけど?一所懸命にやったら、よいものが出来るのは当たり前じゃない?」正直、メハシ君、台詞が長いです。
「一生懸命にやることで生産結果に変化が現れるのですよ、ゲームなのに!」とメハシ君が繰り返すが、それが普通じゃないだろうか、と首をひねっていると。サダ君が、
「そういうことか!つまり、ゲームの物理エンジンが俺の熱意を読み取ってアイ・ハちゃんより真面目にやってるのを理解したというわけだな!」と言い出す。
「なによ!私が不真面目みたいじゃない。」
「いえ、アイ・ハさん、つまり、普通のゲームでは例えば鉱山で鉱石を掘り出すのにピッケルをふれば、アイテムが入手できます。その時、ピッケルの振り方で入手できるものが違うなんてことはありません。ですが、このゲームではピッケルの振り方で入手できるアイテムの質や量が変化するということです。」とメハシ君に言われて納得する。
「あぁ、なるほど。分かってきたわ。」つまり変なフォームで弓引けば矢は当たらないということだろう。
「本当に分かったのかぁ?」とサダ君は突っ込んでくる。失礼な!と言い返そうとしていると
「おーい。ここで粉ひいてるのかぁ?」と大きな土嚢のような袋を持った男性が入ってくる。なんだか疲れた顔をしている。
「そうですけど、何か?」と営業スマイルで聞き返す。
「あぁ、まだ挽いてない麦を持ってきたから、ここに置いていくよ。よかったよ、本当に」と大きく息をつきながら男性が答える。「これで、もう分類しなくてすむ。」
「分類?どうかしたんですか?」と聞くと、
「あぁ、ここではきっと『手作業』のレベルアップしてるんだろう。俺は下の階で『観察』のレベルアップのために麦の中にあった異物を取り除いたんだ。それでな、終わったら『粉ふるい』というNPCに渡すんだが、これが顔は美人なんだが、ちょっと不器用でな。プレイヤーから集めた麦をすぐに落とすんだよ。で、石が混じる。それを後から来たプレイヤーがスキル上げのためにまた分けるんだよ。分けても分けても落っことすんだがな。これが延々と繰り返されるのに嫌になって自分で持ってきたわけだ。」
「なるほど、ゲーム的には分類するものがなくなるわけにはいかないけど、そのためにプレイヤーは無意味な作業を繰り返すって言う訳だな。」とサダ君は推理する。
「あぁ。スキル上げのためだから、まるっきり無駄ではないがな」と男性は答える。
「ねぇ、それより『粉ふるい』って美人のNPCなのよね?青いスカーフ?」と聞いてみる。
「うん?たしかに青いスカーフだったな。」
「もしかして、あんな感じじゃなかった?」と『粉屋』さんの方を指差す。
「おぉ、髪の色は赤だったが、まさしくあういう子だっ、、た、なって同じ顔!!!」と男性が驚愕する。
「なるほど。髪の色だけ色違いで同じキャラを使いまわしてるのね。名前から予想はついたけど。」
作業を一生懸命やっているかは判別できるプログラムがあるのに、NPCは使い回しとは。何というか努力の方向性を間違えている気がする。
「ほんと、アホみたいな仕様のゲームね」と、言ったら
「嘘だ!使いまわしなんて!」とサダ君が絶望してました。