6話
NPCに間違われた後、お互いに自己紹介することにする。アバターに名前などのカーソルはついていないので分からなかったのは(システム的には)しょうがない。
とは言え、「NPCじゃないという身の証をたてるのも変な話だけど、とりあえず自己紹介しましょ」と私から提案した。間違われっぱなしなのは嫌だしね。
提案した私から話し始める。
「私はアイ・ハ。遠距離職をやりたくて、このゲームはじめたの。」
「ほぅ、アイ・ハさんはゲーム玄人?このゲーム、弓はむずかしいらしいじゃん」とリザードマン。
「いえ、玄人じゃないけどね。弓には憧れがあるのよ」リアルでアーチェリーをやっていることは言わないでおく。それくらいでリアルを特定することは出来ないと思うが上手く行かなかったら恥ずかしい。
「あぁ〜。わかります。僕も中世猟師プレイしたいんです。」と天然少年が言う。
「べつに中世にこだわってるわけじゃないけどね。でもエルフがないのはがっかり」と答えると、
「現実の中世ではゴブリンもエルフも同じ妖精のくくりですから、よいじゃないですか!」と少年はいうが、やはりこの少年はすこし天然な感じがする。
「俺はサダ。リアルネームとはなんの関連もない名前だからな」とリザードマン。
「まさかさだまさしに憧れてとかじゃないでしょうね」思わずきいてしまう。両親は弟にマサシと名付けるくらいにフォークソングが好きだ。
「そうそう、神田にある川について歌をな、って、そんな訳あるかい!」とツッコミ返される。
「さだまさしって、その歌を歌っていたんですね〜」と天然少年が乗っかってくる。
「いや!そこは話ひろげなくていいから。大事なとこじゃないから」とリザードマン改めサダ君が訂正してくる。
「僕はメハシと言います。猟師やりたくてゲームはじめました。あと、このゲーム、すごく中世の世界観が研究されていて好きなんです!」と少年が自己紹介する。「メハシ君は変わった子だねぇ。」と思わず本音がもれると
「はい。大学の研究室でもよく言われます。」とメハシ君は気にした様子もない。
「まぁ、普通のやつは大手がだしてるタイトルのゲームやるだろ。世間的に話題になっているVRゲームは他にもあるんだし。PGOやるのは、ちょっと変わった奴だろうな」とサダ君がまとめる。
「さて、そろそろ行くか」とサダ君が言う。私達が部屋の隅で喋っている間にも、何人かのプレイヤーが転送されては、扉から出ていく。正直、ここはすこし落ち着かない。
部屋をでると、そこには大柄な人がいて
「プレイヤーの皆様、よくいらっしゃいました。我らが世界、サイフィクの開拓に力を貸していただけること感謝いたします。まずは開拓や生産のスキルにかんして学んでください。」と言われる。
と、腰に下げている携帯端末が震える。またサダくんの端末だけ着信を知らせる音がする。
「バイブモードにしてないの?びっくりするじゃない。それになんでフォークソングじゃないの?」と、聞いてみる。
「このケータイもどきに、そんな設定あったんかい。つーか着信のときの曲なんて、いちいち変えるかぁ?なんでも良いだろ。」とサダ君にフォークソング部分はスルーされる。
で、携帯端末に「クエスト受信のお知らせ」という画面が表示される。内容は簡単にいうと初期に選んだ生産スキルをレベル1から2にしようというものだった。「手作業」の場合は、この建物の2階で練習できるようだ。現在地は3階、3階建てのの3階にいる。
そして、このクエストも一種のチュートリアルなのかなかば強制的に受けないとようだ。クエスト報酬はギルドの加入権でこれをクリアしないとこのゲームの拠点である開拓ギルドに所属できないようだ。今後のギルドへの加入とか設立をしないで、縛りプレイをするならクエストを受けないのもありのようだ。当然、私は受ける。
2人はどうするのだろう。
「私は初期生産スキルは手作業だから2階でクエストやってくるけど、2人はどうするの?」3人共一緒にはならないだろうから、ここでお別れかな?と思いながら聞いてみる。
「僕も手作業なので、同じですね。」とメハシ君。
「偶然だな。俺も手作業だ。」とサダ君。
「3人共同じとは確かにすごい偶然ね。それとも他の2つが不人気なのかしら。」
「たぶん違うな。一番人気は観察だってのがβテストでの話だ。」とサダ君。
「へぇ。そうなんですね。やっぱり情報量を増やしたいんですかね。」とメハシ君が推測する。
「あぁ。それに戦闘で魔法が火力に優れているらしくてな。魔法にも補正かけられる生産スキルだからなぁ」と言うサダ君は結構、ゲーム事情に詳しいようだ。
そんな話をしながら階段を降りていく。
階段をおりるとけっこーな人数がいる。しかし人間、ゴブリン、リザードマンしかいないので一般的なゲームからするとモンスターの巣窟みたいよね。で、NPCが手作業のクエストの説明を繰り返しているようだ。
「手作業をお持ちのプレイヤーの皆様は、こちらでスキル上げできまーす!」とNPCと思われる人が案内している。
で、何をやっているかというと、、、「何やってるの、これ?」
「なんだろうな、儀式か?」私とサダ君が怪しんでいると、
「こ、これは、まさか粉挽き!」とメハシ君が叫ぶ。こなひき?コーヒー豆でもひいてるの?いや、ごりごりやってるけど、そういう感じではないな。石の台の上で、やはり石の麺棒を太くしたみたいなものをゴリゴリゴロゴロ回している。
と、粉挽き?をしているプレイヤーが「おっし!終わった!」と叫ぶと「おねいちゃん達に代わるよ」と場所を譲ってくれる。
「えっと、これは何?」と私が聞くと「あぁ、これでスキル上げできるんだよ。麦とかを粉にしてるんだと。」と教えてくれる。
目をキラキラさせながら粉挽きをみていたメハシ君が、
「そうです!これは『すり臼』といって石臼の原始的なタイプのものです。石工の技術が未発達の段階ではこれで小麦粉を作っていたんですよ!」と早口で解説してくれる。
え!ゲーム開始で、こんな地味な作業をするの?そんなアホな!
もっと、こう、なんていうのあるでしょ!ファンタジーらしい演出が普通は!




