5話
弟に裏切られ、運営に裏切られ失意の涙に枕を濡らしたが、朝起きるとゲームが楽しみに胸が膨らんでいた。
「姉ちゃん、泣いてないし膨らむほど胸はな、、、なんでもないです」
弟は泣かそうと思う。
 
まぁ弟はいなくともゲームは出来る。サーバーオープンと同時にログインする。スタートダッシュで一番を狙うわけでないが早くログインして遊びたい。
ログインすると自分のアバター体が構成される。レンガでできた大きな部屋にいるようだ。私の向かいに一人の女性がたっている。駅員の制服をすこし派手にした感じ、百貨店の受付の制服を地味にしたような服装でショートカットの目鼻がすっきりしたきれいな人だ。
「アイ・ハ様、この度はProduct&Gathering Onlineをご購入いただき誠にありがとうございます。ゲーム内のヘルプなどを担当させて頂くAIのKS451号です。どうぞよろしくお願いします。」
「は、はじめまして」AIとはいえ出来る女性のただずまいにちょっと緊張しながら挨拶を返す。すると、ニコッと笑顔で返す。
「利用規約などは御覧頂いていると思いますが、βテストの結果などから判明した重要な注意事項のみ、この場でお伝えさせていだきます。」
うっ、利用規約よんでない。ひるんだ顔をするが、451号さんは気にしてないようで、そのまま続ける。
「注意事項は3つあります。
第一にゲーム内では様々な生産活動が行えますが、ゲーム内で出来る生産物は現実を模倣しておりますが現実と同じではありません。
第二に当ゲームでは通称ロボットアバターを採用しております。再現されている五感などは現実と異なる場合があります。設定にて変更できますが現実と全く同じにはならないのでご注意ください。
第三に当ゲームのAIは学習能力など高度ではありません。会話が成り立たない場合など不具合がある時はGMもしくはヘルプ・サポートセンターへの連絡をお願いいたします。」
1つ目と2つ目は分かるが、3つ目がわからない、AIの性能が低いということだろうか。
「会話が成り立たないというのは、どういうことでしょうか?」と聞いてみる。
「質問を承りました。少々お待ちください。」、、、って固まってるぅー!?
なんとなく分かっちゃったよ。人間と同じように喋るほうが色々とコストがかかるんだよね。ここまで自然な表情やシームレスな話し方だったので分からなかったけど、「まるで生きている」ようにはいかないらしい。カーナビが一番大事な場所で「目的地付近につきました。案内を終了します。」って言い出すようなものだろう。VRゲーム、特に恋愛シミュレーションは自然なやり取りが出来るものもあるが、このゲームではNPCの性能がそこまで良くないのだろう。
「アイ・ハ様、ご質問ありがとうございます。当ゲーム内のNPCはAIが行動・発言を管理しております。その際、処理能力の限界や学習できてない事柄への対処などを原因としてプレイヤーの皆様に不愉快な思いをさせる場合があります。お手数ですが、その際は運営にご連絡お願い致します。お時間かかる場合もございますが、改良に努めてまいります。」
 
うーん。会話がバグったりループするのは仕様、善処はするけど基本は我慢して下さいということだろう。とりあえず『目的地付近に〜』と言ってるのに目的地が見つからない場合になってから考えよう。
 
「ご質問の回答は以上になります。疑問は解消されましたか?」と451号さんが聞いてくる。
「あ、はい。大丈夫です。」かなり音声などの認識もしっかりしてる。定型文なんだろうけど不自然には感じられない。
「他に疑問がなければ、システムチュートリアル行わせていただきます。システムチュートリアル終了次第、ゲーム開始となります。
進めさせてよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です。」って私のほうが定型文になっている。
 
「はい。それではこちらがメニューパッドになります。」と451号さんが大きめの携帯端末のようなものを渡してくる。
「こちらの端末は名前の通りメニュー操作が行えます。ログアウト処理、フレンド通信、ステータス・スキルの確認などが行えます。・・・・・・」
 
色々と教えてもらったが、簡単に言うと「ゲーム内でのシステム的な操作は、この端末をつかってね☆」ということらしい。音声入力だと、それがシステム操作への言葉なのか、通常の会話なのか判別できないらしい。
何時まで遊べるのかを友達に確認するのに「何時にログアウトするの?」と聞こうとしたら、本人がログアウトしてしまった!という事態を防ぐためなのだろう。その辺を判別できるシステムAIを開発してるゲームもあるだろうが、PGOのシステムはそこまで頭が良くないらしい。
 
端末はベルトにくくりつけられるようにフックがあったのでベルトにとめる。改めて自分の姿を見てみるが木綿ぽい半袖のシャツとズボンにしっかりした革のベルトだ。あまり可愛くはないが生産ゲームだし、可愛い服は自分で作るのだろう。またアーチェリーとかスポーツするときに可愛さにはこだわらない。試合のとき以外はジャージ姿だしね。(アーチェリーが弓道に最大に劣っているのは服装だと思う。)
 
「それではアイ・ハ様、チュートリアルを終了いたします。ありがとうございました。いってらっしゃいませ。」
 
そして視界が光に満たされる。お金の掛かったエフェクトなのか眩しいとか、目が見えないといった不快感はない。ただ視界が白一色に満たされていく。
「転送の処理って、こんな感じなんだ。」
 
と思わずつぶやいたら「ブフォッ!!」っ吹き出す人がいた。
右にいた人に独り言が聞こえていたらしい。と、隣に人がいる状況とは思わなかった。オノレ、運営め、はかったな。恥ずかしいとは思いながらも隣の人を睨むと、
「ごめん、ごめん。笑っちゃって、でも皆、同じような反応をするからさ」と「イケメン」なリザードマンが手を合わせて謝ってくる。
世の中にはリザードマンになってもイケメンにキャラクターを作れる人もいるんだなぁ。
と、隣に光の粒子が集まっていく。
「うぅわ!!!ワープしたあぁぁ!!」と絶叫しながら小柄な人が転送されてくる。
 
「ぷぷ」たしかに吹き出してしまうね、これは。
でも、許してほしい、そんなにオーバーリアクションはしてなかったぞ、私は。
 
「なっ」と勝ち誇ったように、こちらをみてくる隣のリザードマン。
向こうが正しいかもしれないけど、ムカッとくるが、
「うわぁ~、リアルな汚れ具合だなぁ!」
と変なことに感心している少年に毒気を抜かれてしまう。
 
「ほら、坊主もオネイサンも向こうに行こうか、ここは転送されてくる人の邪魔になってしまう」とリザードマンに促されて移動する。
と、言われて歩きだしてしまったが、
「あなた、この後、どこに行けば良いか分かるの?」
「あぁ、あっちに出口あるから、あっちだろ。」とリザードマンの指差す方向に確かに出入り口がある。言われて辺りを見渡してみるとゲーム実況動画でみたリスポーン地点にそっくりで出入り口は一つしかない。
 
そこに突然、小柄な少年が叫ぶ。
「すっごい!NPCの会話も自然だ!」
「「だれがNPCか!」」
思わず声を揃えて突っ込んでしまった。
「えぇ!お二人ともプレイヤーだったんですか。」と少年アバターにびっくりされる。
「こんなNPCいないだろ」とリザードマン。
「そ、そんなアホな、NPCに間違われるなんて」と落ち込んでしまう。
私の渾身のアバターがNPC扱いとは、ゴブリンとはいえ、ゴブリンとはいえ。
 




