6話
アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。スタリフトの提案でキャンプ中。
サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。かわいい女性が好き。
メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。
スタリフト:アイハ達のギルドに新規で加入したメンバー。教えて君気質なところがあり、いくつかのギルドをやめている
スレプニル:アイハたちのギルドの名前。八本足の生物が命名の由来。
「で、何しに来たの? 異常事態だし撤収かなと思ってたんだけど?」
「「え?」」
「いやいや2人とも何を意外そうな顔してるの?」
私はびっくりしてる2人に再度、聞く。だってアリのモンスターとか何らかのイベントだとしても正直、無理だろう。
「でもですね」「んーとだな」
「えっと、あ、サダさん、お先にどうぞ」
「お、おう。いや、せっかく新種のモンスターがいるんだし、今までにないことだろ。ここの拠点をある程度、強化して前線基地というか、観測拠点にしようぜ」
「えー! アリに攻め込まれたらどうするの? 戦闘を本格的にやるのは装備が足りないわよ」
ゲームである以上、最強はあっても無敵はない。
弓矢は強い武器だ。遠くに攻撃できるというのは最大の強みだけれど、矢の数は有限。そして数あるゲームの中でも面倒な仕様になっているProduct&Gathering Onlineでも同じだ。射程は他の武器に比べて長い、長いけど逆に、矢は簡単につくれないし、何百本も持ち運べない。
つまり継戦能力がない、戦いが長引くと不利になる。
「でもでも、アイハさん、私たちは、このゲームで初回、新発見、最前線、新種っていうか何というか、そういうのに立ち会えるんですよ!」
あぁ、うん。それは確かに。オンラインゲームで最速クリアなんてのは、本当に限られた一部の人間しか体験できない。
でもなあ、新発見には先行者利益はあるけど、初回攻略には利益ないんだよね。
というか情報なしで攻略する分、不利ともいえる。まぁ、時間効率の話だけなら不利だけど、楽しむ分には長く楽しめるんだから私はその方がよいと思うんだけど。
「メハシくんがSNSで発信したから、私たちがアリを最初に見つけたことの証拠は有るじゃない。アリから得られるアイテムに有用性があったら、ここにいるべきだろうけど。無理に留まらなくても」
私たちがアリ関係のイベントを楽しめる要素はまだ有るから、私はあくまで撤退を提案する。
「アイハさん、危険だから帰るなんて、そんなの死亡フラグですよ」
「う〜ん、そう言われてもな。さっきの人じゃないけどアクティブモンスター、向こうから攻撃してくるんだよ? 情報入手のために無駄に死にたくないのよ」
「だが、アイハ、今のところこんな僻地に拠点を持っているギルドは俺らスレイプニル以外にないんだぞ? とりあえずキープしておいて、他のギルドに売ったりもできる。放棄はもったいないだろ」
「もともと僻地で人がいなかった場所だよ。わざわざ買わなくても近くをギルド陣地構築されるでしょ」
「ホォホゥ。ココは買うことも出来るのか?」
「「「……」」」
ちょっと全員が黙って発言者を見る。そこには2足歩行の赤いアリがいた。
手足、というか腰や脚がかなり奇妙なことになっている。虫モチーフなんだろうと、かろうじて理解できる。
「ぎぃてるのかね、、、聞いてるのかね? ココは売ってるんだろう?」
「えーと、まだ売るって決めてないんですけど」
普通にスタリフトちゃんが応対し始めた。
ちょっと私の処理は追いついていない。虫と違って6本の手足があるわけではない。それにスタリフトちゃんが持って帰ってきた赤いアリと同じ顔をしてる。まあ、アリじゃなくてバッタですと言われたら信じるけど。
っていうか、縦に割れた口から喋られるとモンスター感がハンパない。きもいなぁ。あと目がでかくて恐い。触角は退化してるのか、でっかい眉毛ぽくなってる。
「ぎぃむ、、、ふぅむ、売る予定と言うか、売る可能性はあるんだろう」
「えー、私的にはなかったんですが、段々、売ってもよいかなと思えてきました」
スタリフトちゃんも自分がイベントの攻略者になるという野望があったようだけど、口ぶりからするとやる気がなくなっているようだ、現在進行形で。もしかしたら『やる気』じゃなくて『正気』とか『SAN値』が削られているのかもしれない、相手は宇宙とか深海とか深淵以外に住まう生物のはずだけど。
マシンアームみたくなってる4本指で、こちらを指差す。
「ガガ、、、おお、それは喜ばしい。そちらの2人はどう意見かな? 脊椎動物や哺乳類は各個体ごとの意見が違う場合が多いと聞いているが」
「どうなんでしょう? っていうか、どうするんでしょう?」
たぶんスタリフトちゃんは考えることをやめた。
後から振り返ると人の事はいえないけど。私は、あの指でどうやったら弦を引くのかを考えていた。って、言っても相手は弓矢どころか武器ひとつなく無手だったけど。
驚愕のあまりフヌケていたサダくんが何とか深呼吸した後に答えてくれる。
「すぅはぁ。……ちょっと待ってくれ。売るっていうことは金はあるのか?」
「ぎぃむ、、、私は持っている。が、この個体は持っていないので、持ってこさせよう。ただ通貨が同じでないからな、金を渡そう」
「そうか。金、金塊ってことか。それはありがたい。つぅかだな、えーと、おま、いや、あなたは何のメリットがあるんだ? ここの土地を欲しい理由は?」
「ぎぃむ、、、ふぅむ。それを知ってどうするのかね?」
「おう。狙い次第によっては協力できるだろ、ここを売る以外にも」
「ぐぐぅ、、、私は目的を教えることは利益につながらないと考えている。この個体から言える範囲では、このあたりの土地が欲しいとまでは言えるな」
ちょっと予想したよりはるかに人外かもしれない。たぶん『私』というのは種族のことなのかもしれない。『個体』というのが目の前にいる直立アリの一人称ぽい。
「土地ってことだが、う〜ん。まあ分かった。あなた方は名前はあるのか? どう呼べばいい?」
「ぎぃむ、、、名か。私たちはミュルミドーンと言う」
はあ、ちょっと弓矢のことを考えたお陰で落ち着いてきた。
親指をメインに引く形に発展した文化圏もある。だから手が4本指でも引けるかもと一応は結論づけたとこで、現実に戻ってくる。
弦を引く指の形は歴史上、色々なやり方があった。どれが正解ともいえない、その道具の形や文化で決まってきた。同じ人間でもささいな違いから戦争してきたわけだし。
交渉で終わらないんだろうな、たぶん。
「このあたりの土地がほしいのね? 断ったらどうなるの?」
私も聞いてみると、
「ぐぐぅ、、、それは冴えない仮定だな。我々は損失を恐れない。そこのスレイブアントを倒せる戦力があるのは分かるが、私は簡単に死なないぞ?」
相手がそう言うと木立の間から、私たちのキャンプ地に歩いてくる赤い大型のアリが10匹以上歩いてくる。正式名称はスレイブアントということは、2足歩行の人型アリがご主人ってわけかな、私って冴えてるなー……ちょっとまた逃避したくなってきた。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
またしても投稿遅れました。GWは暇になる予定だったんですが、ちょっと予定外に色々ありました。
わかりづらいので、解説。
アリさんの『我々』はスレイブアント等も含む種族の連合のこと。
『私たち』は種族でミュルミドーンという人型アリの種族名。この中では色んな考え方がある。サダくんに「あなた方」と聞かれたので、このことだと思った。
『私』は人間で言えば彼の家族・氏族的な意味です。ここで意思統一されてるイメージ。
『個人』は1匹のアリだが、あんまり思考せず氏族でものを決める生物。
アリ愛好家の方からすると、アリはそんなに気持ち悪い生物じゃないと怒られそうな内容ですね。
ちょっと言い訳すると
話のネタにでもと動物園のブログ、ホームページを調べていた時のこと、『カマキリモドキ』なるカッコ良さそうなキーワード発見!
カマキリをベースに面白い生物が出てくるのかとワクワクしながら開くと、、、
「おぅ、こいつら地球の生物じゃねぇ」という感想を持ちました。
それで、ちょっと宇宙生物的なアリさんになっています。
ググるのは自己責任でお願いします。まぁ、写真のとり方によってはカッコよくなってるのもあるので大丈夫かな?




