5話
アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。スタリフトの提案でキャンプ中。
サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。かわいい女性が好き。
メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。
スタリフト:アイハ達のギルドに新規で加入したメンバー。教えて君気質なところがあり、いくつかのギルドをやめている
スレイプニル:アイハたちのギルドの名前。八本足の生物が命名の由来。
痛そうだ。
痛覚は切れないってVRのゲームとしての欠陥だと思う。色々と倫理的な規制とか、しょうがないにしても。
アリに噛まれてる男性は慌ててるのか素手で振り払おうとしている。スタリフトちゃんは固まっている。相手の方に右手をかざして、「まあまあ」とか言おうとする途中で止まっちゃったみたいな感じ。
私は、別に、ゆっくりと、観察していた、訳ではない。さて、、、
弓を引く動作をしていたらスタリフトちゃんも視界に入ったというだけ。ほんとにね。
自分の頭の中でカチッと音がするまで、、、ためる、、、発射。
射抜く。
うん。スタリフトちゃん、そんなビックリした顔でこっち見ないの。
あと、男性もこっちをそんなに見つめないでほしいなー、助けてあげたんだし。
・・・まあ、たしかに顔のすぐ横に矢を射掛けられたら、感謝できないかな? アリは当たりどころが良かったのか、生命力とか低いのか一撃で死んでるだし。
うん、ここはあれだ! 笑ってごまかそう。
「よっし! ばっちり当たったわね!」
「こ、殺される!」
「失礼ね! ちゃんと狙ってるし、この距離で外さないわよ」
「あ、アイハさん、落ち着いて〜!」
スタリフトちゃんに止められる。そうだった、安心はできない、私の使ってるリカーブボウは設計上、どうしても発射音が大きい。アリに当たった音のまえにした「バン」という音がそれだ。
それに男性も悲鳴をあげていた。
アリが集まって来てもおかしくはない。
「くそ、死にかけだ。こんな敵がいるとこにはいられねぇ。俺は帰る!」
「うん、そうした方が良いかもね」
と私が頷くと
「アイハさんて、ボケ殺しですか? 『待って、1人では危険よ』とかノッてあげないんですか?」
「え〜、でもスタリフトちゃん、ここに留まるのが一番危ないでしょ?」
「別に冗談でもフラグでもねぇよ。貴重品だが回復薬をつかう。くそ、やたらと戦闘したぽい跡があったんだ。奇襲は予想しておくべきだった」
ぶつぶつ言いながら高価な傷薬の軟膏を噛まれた部分に塗りだす。
私は私で矢を回収しようとする。が、矢が木に深く刺さりすぎて抜けない。矢を一本諦めないとダメみたい
「そうか、アリが荷物を運ぶのにしては変だと思った。やたらと森が荒れているのは、そのせいか。戦闘の痕跡の可能性もあったわね」
そっちの可能性に思い当たって考え込んでいると、スタリフトちゃんが男性に話しかける。
「大丈夫ですか? 私たちは拠点に戻りますが、どうします?」
「あ、あぁ。……あんたらは森を通っていくんだろう?」
「そうですね。キャンプするつもりで拠点つくりましたし」
「そうか、俺は回復の効果がでるまで時間かかるし、森は迂回する。先に行ってくれ」
うん、男性と別れても私たちは問題はない。通常のゲームのポーションと違って回復薬は即効性がないため、すぐに派手に動くと、また流血とか、そういうので持続ダメージがでることになる。
ちゃんと表示がでるのはゲームらしいけど、まったく面倒なゲームだ。
私たちは大きな危険がないと思っていて回復薬は持ってない。というか、冴えない方法だが死んでもキャンプを張った場所に(死に)戻るわけだから、とりあえずの目的は達成される。ただ装備面のロストがあるので、それは嫌だ。
「わかったわ。私たちは、もう行くけど、丘の先で3匹、あの赤いアリを見てる。どうやって帰るにしても気をつけて」
「すまねぇな。あとさっきは助かった。ありがとな」
お礼をちゃんと言える人だったので、内心うれしかった。
「私たちは無事を祈りつつ別れた。それが今生の別れになるとは思わず」
「アイハさんはボケるほうだったんですね。っていうか、ゲームで一生あわないってブラックリスト機能でも使うんですか?」
スタリフトちゃんにツッコミを貰いつつ、拠点まで戻ろうと歩きだすと木の上に注意しつつ行く。
まあ、正直いって森林を上だけ見て歩けば、そっこうで木の根につまずく。
真っ赤で、それなりに目立ちそうなアリの奇襲に気づかなかったのは、それが原因かもしれない。
「そういえばアイハさん?」
「うん?」
「私の武器はスリングじゃないですか?」
「うん。そうね」
「スリングって、石をセットして、グルグル回して、投げるわけですよね」
「そうね。弓も、ちょっと手順は違うけど、射るまでに準備があるね」
立ち方、矢番え、打起こしとかの射つ前にやることがある。あるけど、順番はめちゃくちゃで、いっこ飛ばしても大丈夫なのがアーチェリーだ。それでも日本では弓道の影響できちんとしている人が多い。
基本、あたれば何でも良いのがアーチェリーだ。手順を一定にすること、その方が的中率が高いから、そうしているだけだ。仕事でも何でも単純作業に落とし込むのが効率化の冴えたやり方ってわけだね。
「今みたく、いつ敵がでるかわかんない時には、いつでも撃てるように振り回しながら歩いちゃダメなんですか?」
「う〜ん。だめかな? 誤射も恐いし、振り回すことに気を取られて、索敵を疎かにしちゃ駄目だしね」
「あ〜、アラーム音とかで、スキルが敵の存在を教えてくれるわけじゃないですもんね」
「そ、私たちはニュータイプじゃないからね」
「ニュータイプって何ですか?」
「う! き、気にしないで」
ちょっと|ジェネレーションギャップ《としのさ》を思い知らされた。
「あとね、耐久値の問題もあるから」
「ん? んぅ? 武器って使う時に消耗するんですよね?」
「そうよ。 あ! でも発射じゃなくて負荷がかかった時だから、振り回してる最中でもダメよ」
「え〜! じゃあスリングって長持ちしないんですか?」
「そうね。投石紐はそこも問題ね、でも弓矢も気をつけることはあるよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。たとえば弦と本体の耐久値とかね」
「え! 別々なんですか?」
「うん。しかも弦をたとえばワイヤーみたいな頑丈なものにすると」
「アイハさんの口調といつも使ってる装備からすると良くないんですね?」
「そうなのよ! 弓矢の発射の衝撃って、弦で吸収するんだ。けど硬い金属の弦だと本体の方に衝撃が行くのよ」
「あ〜、つまり切れやすい弦のほうが弓が長持ちするんですね。クペちゃん完成したら気を付けなきゃ」
「うん、でもあんまり切れやすいのもダメでね。イザって時に弦が千切れたら大変じゃない? だから糸の繊維が少しづつ切れるようなものにしないとダメなのよ」
「なるほど〜」
「そうなの……ん? スタリフトちゃん、あの木を見て」
「えっと、あ! いますね」
アリ、真っ赤な甲殻で、そこにいるかもと警戒していれば普通に見つけられる。犬ほどの大きさもある巨大なアリだ。3対の脚で器用に枝から枝へと渡っている。口に鳥だろうか? 何かを咥えている。
「ん〜? やっぱり動物も狩るのか」
「このまま行かせますか?」
「倒しましょう。スタリフトちゃん、練習代わりに攻撃してみて」
「分かりました!」
別にまた矢が刺さって抜けなくなったら嫌とか思ったわけではない。いや、ほんとに。
ちゃんと矢をノッキングして射る準備はしておく。実は狙った場所に投げるのは難しいのが投石紐の問題だからね、私はバックアップするのだ。
スタリフトちゃんが紐をグルグル振り回していく。
で、紐の一端を離した瞬間に石が飛んで行く。
バッギョォン、と何とも言いづらい音を立ててアリに当たる。
「うまいじゃない!」
「はい! 当たりました! でも頭を狙ったんですけど!!」
「たしかにお腹(?)に当ったね。まあ、結果オーライよ」
「はい! 終わりよければそれでよしですよね、倒せればオッケーです!」
スタリフトちゃんはテテテって感じでアリの所に行く。死亡確認はしたほうが良いかと思い、私もついていく。
「うん。死んでるぽいね」
「はい! シカは取られちゃったから、持って帰ろうと思います!」
「え?」
「これで遠距離武器でも狩りができる証拠になります!」
「うん? うん、そ、そうね」
「よーし! よいしょっ! あれ、思ったより軽い」
「そ、そうなんだ」
「持ってみますか?」
「え? むり」
「そうですか? 軽いですよ?」
私は手に触りたくないから、無理だ。何とか表情で伝えて歩きだす。
やっぱりスタリフトちゃんはちょっと変わってるな。
見る分には平気だけど、触るのはちょっと。よく観るとなんか細かい毛とか生えてるし。えっと、こっちに渡そうとしないでいいから!
◆◆◇◇◇◆◆
その後はアリの死骸がついてくる(ゾンビではないけど)ことを除けば、平穏無事に簡易拠点にしたキャンプ地まで戻ってこれた。
そうしてキャンプ地まで戻ってくると
「よう! 戻ってきたな。どうした? アイハ、さえない顔して?」
サダくんが出迎えてくれました。うるさいわね。
サダくんは新種モンスターの発見ということで、こっちに来てくれた。
「で、何しに来たの? 異常事態だし撤収かなと思ってたんだけど?」
「「え?」」
ここまでお読み下さりありがとうございます。
ちょっと実験的なルビの振り方してます。
基本、「できるかな?」でやってるので、読みづらいかも。。。
見に行くのも良くないということで行ってませんが、転載サイトではルビも取り込めているのかな?




