3話
新しいゲームを始めるときはいつもドキドキする。この楽しさはちょっと他に代えがたい。本や映画の楽しさとは違う種類のワクワクがある。弓矢についてどんな変更があるのか公式からくわしく発表はなかった。おかしな変更でないことを祈ろう。安くないお金出してゲームを買ったのだから。
そうPGOのβテストがおわり正式版がリリースされた。他にもVRゲームの大作がリリースされたばかりということで売上ランキングは3位になっている。世間の話題になってないけど、私は待っていたのだ。
今日はデータのインストールから初期設定やアバターの作成などが出来る。正式にサーバーがオープンして遊べるのは明日からになる。そして明日は土曜日で月曜日は有給消化でお休みだ。ゆっくり遊ぼうと思う。
弓について調べてはいたが、仕事の合間でもあり他のことはよく知らない。種族設定やアバターの作成は今日これからじっくり考えたい。βテストでは種族は人間のみだったけど、正式版では3種族から選べるらしい。
今、考えているのはファンタジーの世界観にあわせてエルフの弓使いだ。現実ではアーチェリーをやると最低限の筋力がつくくらいには鍛えられる。また実際の中世では弓矢は筋骨隆々のオッサンたちが使っていたはず。美しい弓と美の女神は幻想だろうけど。
しかし、それはそれ、これはこれ。自分でやるからには美人で華奢なアーチャーでもよい。いや、そうじゃなきゃ嫌だ。華奢は譲っても美人じゃなきゃね。
ファンタジーでエルフは必須だろう。美貌のエルフが巨大樹の枝の上から弓で敵を射つ、そして枝から枝へ飛び移る。
「う~、憧れる。」
まぁ現実には足場の悪い木の上で弓を引けないだろうな。ただでさえ下に射ち下ろすのは意外と難しいらしい。
PGOがどこまで現実にあわせてくるのか分からないが、弓使いを楽しくプレイできればよいと思う。
問題は現実に合わせすぎた場合はどうするか。PGOはレベルなしの職業とスキルの併用制になっている。ゲーム開始の時に最初に生産スキルを一つ、戦闘用の職業を一つ取得する。職業は前衛職・中衛職・後衛職の見習いのどれかだ。職業とスキルのレベルを育てるだけになる。
ステータスで筋力とか器用さもないため、ゲーム開始の時点では悩む必要はない。けど育成方針が間違っていた場合はやり直しに時間がかかるのが難点だ。
βテストでは初期スキルも数多くあったようだけど、正式サービスは初期スキルは生産系それぞれ3種類にしぼったようだ。公式は情報を出し渋っているのか、それが何かはまだわからないが拠点を発展させる開拓ゲームなので生産スキルは必須だ。
「それにしても最初に一個づつしかとれないって今時、珍しいよね。」と弟のマサシに聞いてみると
「だね。エンダゲエムオンラインは100種類以上の中から5個は選べるらしいし、課金ガチャまわすと、レアスキル取れるらしいし。シンプル通り越してダサいよね。」とバカにされるくらいには珍しい。おじいさん世代の携帯ゲームのように三種類のモンスターから一つを選ぶシステムみたいだ。正直、今の世では「誰得」なシステムだろう。
ただPGOではスキルは進化・派生していく。スキルレベルが11になると進化して、新たなスキルに変化する。その時に進化先がだいたい3つくらいに分かれる。3を3乗していけばスキルはあっというまに100を超える。総数では他のゲームに負けていないだろう。
PGOの運営会社の変人思考を考察はこれくらいにしてゲームのインストールも終わったし、初期設定を始めていきましょう。
まず3Dディスプレイでアバターの作成と種族やスキルを決定していくようだ。
アバターは現実と全く違う姿にしても良いらしい。夢の高身長モデル体型も可能だが現実とそう変わらない160cmくらいに、体重も現実と同じくらいにしよう。と、思っていたら体重の項目はないようだ。3Dのヴァーチャルなので重さは体積依存で、こちらでは設定しないらしい。身長と横幅とかから自動的に計算されるらしい。
「ねいちゃん、身長は160な、、、、なんでもありません」
私は160cmだ。それ以下ではないということを弟に無言で視線で伝えておいた。
顔は現実よりやや鼻を高くして、ほんのすこし小顔にする程度にする。髪色はややあかるめの茶髪でショートボブに落ち着いた。あまり長いと弓を引くのに邪魔になるからまとめないといけないのでショートヘアーの中から選んだ。現実ではポニーテールにしていたがゲームの中でも結んだりするのは手間だから止めた。
ほんのちょっぴりの変更ではあるが2時間もかかるとは予想外だった。弟は女性のお風呂と化粧についてなにやら哲学的考察するらしく、どこかに行った。
そのあと職業とスキルの選択をすることに職業は弓を使いたいので後衛の初期職である見習い投手を、スキルはすこし悩んだが弓矢の自作ができるように「手作業」という生産スキルを選ぶ。
どうも私はPGOにおける生産スキルを勘違いしていたようだ。物作りというより経済活動全般のようだ。初期スキルは「荷物持ち」「手作業」「観察」になっている。荷物持ちは商人の、観察は生産の基礎となる技術の研究開発をするための初級スキルになるみたい。「手作業」は弓矢だけでなく、色々な生産作業の初歩をアシストしてくれるらしい。
さて最後に種族をきめないと、、、
「そ、そんな、ア、アホなの運営は!」
思わず3Dディスプレイで種族選択画面を怒鳴りつけてしまった。
種族に、種族に!エルフがないじゃない!!
待って、落ち着いて、よく見てみよう。ファンタジーの世界観なのだからといってエルフが必ずあるわけではない。精霊族とか森人族とか名前を変えてある可能性もあるんだし。。。ない。なかった。
ないだけならまだしも種族の選択肢が人間・ゴブリン・リザードマンって!
「そんなアホな!」