表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOで弓削師〜弓矢のつくりかた  作者: 辻屋
急がば回れと申しますが、前に進むと回転するんです。
29/31

4話

アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。スタリフトの指導教官をつとめる。

サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。かわいい女性が好き。

メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。

スタリフト:アイハ達のギルドに新規で加入したメンバー。教えて君気質なところがあり、いくつかのギルドをやめている

スレプニル:アイハたちのギルドの名前。八本足の生物が命名の由来。

 まさかのモンスター出現、まさかの横取り、異常事態になってしまった。まさかさかさまに狩られる事態になりかねない。困った。


「あの! 取られた! 何なんですか!」

「モンスターに狩りの邪魔されるなんて予想外ね」


 スタリフトちゃんがシカがいた辺りを指差し、次に私を指差し、最後にアリが逃げていった方向を指差す。上手く言葉になっていないし、口をパクパクさせて混乱中のようだ。

 しかし、どうしよう、本当に。


「すぐに追いかけましょう!」

「う〜ん、ちょっと危険かも」


 獲物を横取りでしたのがプレイヤーであれば話し合いの余地はある。けどモンスターだからなぁ。ゲーム的にはシカもモンスターではあるが、戦闘能力的に動物だ。けどさっきの赤いアリはちょっとなぁ。


「でも悔しいじゃないですか」

「そうは言っても正体が不明なのよ。出来るかぎり安全対策をしましょう」


 ここは最近は来ていないエリアだったとはいえ、あんなモンスターが出てくることは今までなかった。私が出会ったことのない種だし、行動範囲や生態は全くわからない。しかも謎はまだある。


「危険なんて! ゲームですし」

「追いかける。追いかけるから。大丈夫、落ち着いて、深呼吸、深呼吸」


 ピョンピョン飛び跳ねて抗議するスタリフトちゃんに気押されるけど、気になるのは私の索敵能力をすりぬけたこと。弓の問題点として狙いをつけた後は一点に集中するので視野は狭くなる。だから、その前に周囲には十分に注意を払っていた。シカとの位置取りにも周りの空間もしっかり確認した。

 なのに気づかなかった。

 追いかけたら、人間も食べるようなアリだった場合は不意打ち・奇襲で狩られる事もある。


「絶対! ゼッタイ追いかけましょう!」

「うん、追いかけるよ。でも荷物をとってこよう。相手はシカ一頭抱えて巣穴まで戻るはずよ。だから一旦戻っても時間的には余裕あるから」


 いや、正直、追いつくかは分からない。時間に余裕があるのは嘘。でも死んだりして装備とか壊れたら嫌だ。

 あとスタリフトちゃんは、現在の状況を危険だと思ってないだろう。そこは認識を共有しないと。


「一旦戻ってから追いかけるんですよね! 私が先に当てたんですから! ぜったい追いついて抗議します!」

「え? あぁ。うん、そうね、そうしましょう。せっかく良い所にヒットさせたんだから」


 そういえば生きている動物に攻撃を当てたのは今回が初めてだったんだ。それなのに持って行かれたから怒っているんだ。

 そりゃ悔しいよね。うんうん、ちょっと納得した。

 でも、方針は変えない。安全第一だ。



 ◆◆◇◇◇◆◆



 まずは手分けして準備する。私が荷物整理、ギルドメンバーに連絡はスタリフトちゃんに任せる。

 ログインやログアウトに使える携帯端末でやりとりする。何回、見てもこの端末は世界観をぶちこわしてる、中世人のコスプレをした人間が電話してるようにしかみえない。


 私は最初に作りかけの弓を紐で縛る、弾性を持たせるための処理だ。図にするとギリシャ文字のΩだ。これが弦を張るとまったく逆の形になる。まだしばらく使えないけど、拠点にはだれもいなくなるし、これも持っていこう。


 簡易的に作った拠点に戻って、アイテム類を整理する。

 大きなナタと解体ナイフと小ぶりのハンマー、彫刻刀と小型ナイフも少々、弓、水筒、予備の弦2本、火口、松脂、矢を作る専用のヤスリ、炭、バックパックというか背負子、矢筒と矢が10本、あと拾った黒曜石もつめる。


「連絡はおわった? 向こうは何か言ってた?」

 スタリフトちゃんにそう聞いてみると、


「はい! このへんでアリ型モンスターは見たことないって! 疑われちゃいました! でも他でも何かイベントがあるらしく王国周辺でNPC騎士団がうごいてるそうですよ?」

 との事。


「マジ? 思ったより大事かもね!?」


 ちなみに騎士団はゲーム開始地点を守っているという話だが、今まで出動したことは1回しかない。あるギルドがAI制御のNPCに勝てるんじゃね?って突撃した時だけだ。もちろんプレイヤーが全員死に戻りした。

 死ぬと装備ふくめて持っているアイテム全てに破損する可能性があるから、気軽に死ねないゲームだ。あと落とす(ドロップする)ことも多い。

 貴重品は拠点に置いておけば良いんだけど、誰もいない拠点は盗まれる危険性もある。

 さっきの作りかけの弓も置いていくのも正直こわいが、たぶん大丈夫とポジティブシンキングする。いや、だって、あれだ、この辺は誰も見かけないし。


「とりあえずアリと騎士団は関係あるか全然分からない。うん、準備も出来たし、行こうか」

「はい! サダさんはこっちに来るそうです。メハシさんはログアウトして外部サイトで情報収集するそうですよ」


 歩き出しながら話をする。


「今日も色々と事件がある日ね」

「騎士団って私、初めて聞きました」


「うん、私も見たことないや。あの赤いアリも初めて見たけど」

「ズルいですよねぇ。横殴りはダメって言われてるのに」


「まあ、モンスターに人間のマナーを言ってもダメだろうけどね」

「っていうか、アイハさんでも初見のモンスターっているんですね」


「イッパイいるよ? やっぱり社会人ゲーマーなんて時間が限られるし行動範囲は狭いからね」

「そういえばファンタジーゲームなのに、やってることは地味ですし時間かかりますもんね。ずっと作業したり、ずっと歩いたり」


「うん。やっぱり飽きる? このゲームは戦闘がすくないって言う人も多いもんね」

「そうですねー。私ログインして戦いが1回もないゲームって初めてでした。でも気楽ですけど。勝ち負けあると、責任とか課金するしないとか色々面倒でした」


「このゲームも領地や財産の取り合いはあるし、モンスターは生息数が多いところに行けば戦闘はあるんだけど。まあ基本は相手も逃げること多いから」

「アリも逃げてますもんね」


「う〜ん。あれはちょっとおかしいかな」

「ここにいるはずがないって事ですか?」


「それもそうなんだけど。現実で群れを作る生物は、このゲームでも群れるのね。狼とかサルとか」

「アリもたくさん出てくるってことですか!?」


「そうなのよ。戦闘になると矢がたりないかも」

「いや〜。アイハさん、それより見たくないですよ〜、ウジャウジャしてるのは嫌です」


「たしかに。でも矢の数も10本しかないから」

「あ〜。なるほど。無限には持ち歩けませんからね。矢を作るのって地味ですけど、持っていく分にはいくらでも欲しいですねえ」


「そうよね。実際、他のアイテム類もあるから30本くらいが限界かな?」

「スリングの石も持って歩くとなると邪魔ですしね」


「そっちも必要になると石がおちてなくて困るのよ」

「不思議ですね! 家に誰もいない日に家の鍵を忘れるみたいな」


 だらだら会話しているけど、アリの痕跡を追いつつ歩いている。

 おそらくシカを背負い(?)なおしたり、引きずった(?)ような所が見つかる。具体的には枝が折れていたり、下生えがぐちゃぐちゃになっていたりする。


「変だなぁ?」

「何がですか?」


「スタリフトちゃん、これがアリの移動した跡だと思う?」

「はい! 目立ってますもんね!」


「私もそう思うんだけど。シカを取られる前は全く気づかなかったくらい隠密能力あるのに、簡単に見つかるから、変じゃない? あのアリの能力が分からないと思って」

「でもでも、このゲーム、無駄にリアルじゃないですか? 持っている物を整頓してないとガチャガチャいうじゃないですか? アリもそうなんじゃないですか?」


「そうね。という事は今は1匹なのかも。2〜3匹で分担してれば痕跡ないだろうし」

「よぉし! たくさんにならない内に早く追いつきましょう」


 スタリフトちゃんはシカを盗まれたことへの怒りは消えたようだ。アリがたくさんの光景はみたくないらしい。

 痕跡があった時は最初は嬉しそうにしていたのに今はそうでもない。


 ◆◆◇◇◇◆◆


「うわぁ、困った」

「どっちに行ったんでしょうね?」


 追いかけている内に森を抜けてしまった。丘陵地帯にところどころ白い大きな岩が突き出している。

 このあたりは私は来たことがない。聞いた話だと、この先に川がある。川底が黒っぽいのでブラックリバー、もしくは黒川と言われている。


「丘に登って見渡して見つからなかったら、帰ろうか?」

「そうですね」


 という訳で、丘を登っていく。

 正直いえば、いないほうが助かるなと思っていた。動物より強そうだし。


 まあ、どんなゲームでも欲しいドロップアイテムほど出てこないのが普通だ。

 現実では、ないと困る物ほどないものだ、不思議と急ぐ時に携帯の充電忘れてたり、そもそもどこ置いたか忘れてたりする。

 絶対に出てこないで欲しいものほど、出てくる。


 よくある展開(はなし)なのかな?


「いたね」

「いましたね!」


 判断に迷う。アリは3匹いる。しかしシカは、どのようにしたのか影も形もない。

 どうしようか悩んでいると、


「アイハさん! 逃げましょう! じゃなかった帰りましょう!」


 とスタリフトちゃんが言い切る。


「え? いいの?」

「はい! うじゃうじゃ増える前に!」


 それもそうかと納得する。


「よし、じゃあ逃げましょう」

「いえ! 帰りましょう」


 進行方向を180度方向転換する。新種のモンスター発見という情報を持ち帰るための戦略的撤退しよう。

 冴えない偵察と言われれば、そうかもしれない。


 丘を下っていく。追いかけてきてないか、ときどき後方をふりむいて確認する。

 そうして半ば(クセ)になっている進行方向の右側も見ていくように振り返ること数回、丘を下りきった時のことだ。


 森と丘陵地帯のヘリに隠れている(プレイヤー)を見つけた。

 木に登って隠れる努力をしているが、私もノンビリ遊んでいるとは言え、そこそこ古参プレイヤーだし、発見索敵はそれなりに出来る。

 出来るけど。

 困ったなぁ。今日はよく困る日だ。一緒にいるのが古株のサダくんやメハシくんなら、相手に気づかれないように隠語で合図できる。ただスタリフトちゃんにそういったことは教えてないしなぁ。

 普通に行くしかないな。


「スタリフトちゃん、ちょっと止まって」

「んぅ。はい! どうしました?」


 まずガシッと右手で先をゆくスタリフトちゃんを止めたから変な声を出されたが、そこは無視。

 弓を左手に持ちなおす。今日は弦を張ったままにしてある。


 右手で矢に手をかけた時点で向こうから声がかかる。


「待て待て! こちらに戦闘の意思はない!」


 相手は慌てて降りてくる。

 知らない人だ。


「あんたはスレイプニルのギルドの人だろ。あんたのギルドの人間がツィッダーで、この辺で新種のモンスターの目撃情報を集めてるだろ?」


 かなり早口でまくし立てる。治安は良くないゲームだからかな、山賊と勘違いされたらたまらないと思ったのかも。


「そういえばメハシさんがSNSで情報集めるって言ってました」

「メハシくんのツィードを見たってこと? それともメハシくんのフレンド?」


 こちらからも話しかけながら、さり気なく左足を前にしてスタンス(かまえ)を取れるようにする。

 治安は良くないからね、警戒は大事。


「いやいや、俺はフレンドとかじゃねぇよ。つぅか、けっこー拡散されてんだよ、新種情報が。で俺も見に来たわけよ、野次馬だけど、便乗したいじゃん」


「そっか。なるほど、あの丘の向こうにいるよ」

「私たちは逃げ……帰るとこですけど」


 丘の方を右手で指して返事をしながらも相手からは目を離さない。


「そっかー、んじゃあ、俺も見てくるよ」


 と相手の男性が言った瞬間だった。

 今度は直前に気づけた。

 けど気づいただけだった。アリは上から降ってきたのが見えた。


 樹木の一番たかいあたりに潜んでいたのだろう。とっさに他にいないかを確認する。

 アリの牙が男性の肩に食い込む。


()ったぁぁぁぁ」


 うわぁ、私たちも冴えない偵察だったけど、男性プレイヤーのほうが冴えない結果になりそう。





ここまでお読み下さりありがとうございます。


誤解を恐れず言うと矢を30本は傘を6本くらい持つ感じかな、体積は。持てるけど邪魔だと感じる大きさ。

平安とか戦国の軍記物などでも、20〜30本くらいが1人の矢を持ち歩く最大数ぽいです。

スポーツとしてのアーチェリーだとルールと実用性から最大12本しか持ち歩かないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ