3話
アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。今回から指導教官をつとめる。
サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。かわいい女性が好き。
メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。
スタリフト:アイハ達のギルドに新規で加入したメンバー。教えて君気質なところがあり、いくつかのギルドをやめている
「ふう。よい休憩場所がみつかって良かったぁ〜」
「はぁい! 雨がまた降ってきそうですね」
乾いた地面が見つかってホッとした。ここならログアウト処理や、他にも作業ができそうだ。
「今日はトラブル続きだったね」
「うぅ、せっかく作ったクペちゃんが壊れてしまいました」
スタリフトちゃんが、このゲームでやりたいことの1つにアウトドアがあった。
それで今日は自作してもらった弓で狩りもやってみたいということで、ちょっと遠出してみた。自分で作ったものを使ってみると生産について気づくこともあるだろうという狙いもある。
が、自分の弓に名前をつけて大事にする! と勢い込んだが、残念ながら、その短弓は壊れてしまった。それがクペちゃん。
「じゃあ、ギルドの領土にするから、ちょっと手伝って」
「はい! わかりました」
ちょっとした高さの崖、2〜3メートルくらいだが、その下にいる。崖の上に張り出すように木が生い茂っているので、実際より高く見える。
崖と、その上の木のおかげで崖下の一部分は乾いている。
そこに今日のキャンプ地とすべく、ギルドフラッグを立てて簡単な杭とロープを張っていく。これで私たちのギルドのテリトリーとなり、安全にログアウトができるようになる。
もちろん他のギルドの人に攻撃されなければという条件がつくけど、このあたりは人がいない辺境だから大丈夫だろう。
「じゃあ、また明日ね」
「はい! 明日もよろしくおねがいしま〜す」
スタリフトちゃんと挨拶して、今日はログアウトする。翌日から数日は、ここで一種の野外生活を送る。だいたい1週間ほどの仮想現実アウトドアライフをするつもりだ。
最近は売るつもりの矢を作ったり、弓を作ったりしていたので、ちょっとばかり休暇?のような小旅行だ。
◆◆◇◇◇◆◆
さて翌日、ログインしたので周辺から薪にする木をとってくる。濡れた木では焚き火はできないが、このあたりはよく雨が降る。直前の準備では間に合わない。
木の枝を何本か愛用の鉈で打ち落とし、陽のあたる場所で焚き付けように細く縦に薪割りもする。
せっかく獲物が取っても火がないのはさびしい。火をたくのにも、こうして準備がいるのは面倒な反面、今の時代では一般人では経験できない貴重な体験かもしれない。仮想現実の体験は体験と言えるか、微妙だけど。
「最初の頃は木を切るのは斧だと思い込んでたけど、鉈について教えてくれたのは誰だったかな?」
ひとり仕事していると独り言が増える。
鉈は斧より持ち運びに便利だし、扱いが楽で、ヤブを切り開いたり用途は多い。ゴブリンが鉈を振り回している絵面から、どうしても抵抗があったけど、慣れるとドコに行くにも持ち歩いてる。
こんなに遠出したのは久しぶりだ。この辺は狩猟を楽しみにしている人もいるはずだが、今日は見かけていない。
サダくんによると、やはり馬が欲しい人が多く、狩猟系の人は西に向かっているとのことだ。馬の発見でグランドクエストというのが久しぶりに進んだのも大きい。
ゲームとしては王国でのチュートリアルを終えると、外に開拓してこいと放り出される。一応、これでグランドクエストってあつかい。その他にギルドクエストってのがあって、これは各集落ごとのクエスト、これをクリアするとNPCを雇えたりする、王国から放り出される新人を受け入れたりできる。
「さて薪割りは、こんなものかな。あとは水を補給しないと」
領地を広げてギルドクエストを進めたい人は多い。そのせいで相手の領土を奪い合う戦国時代だ。内紛をして競い合う人たちも多い。まあ、血みどろの戦闘が多いので戦国時代を嫌う人もいる。このあたりは人それぞれでエンジョイ勢とガチ勢、生産ゲームや箱庭ゲームをやりたい人と対人戦やギルドバトルを好む人で分かれている。
サダくん曰く、ゲームのデザインとしてスタート地点の近くのほうが新人を獲得しやすいのが問題の本質らしい。そこを奪い合いになるのはプレイヤーが悪いわけじゃないとのこと。
けどメハシくん曰く、所詮1つのゲームの中、1万にも満たない人の狭い世界で競い合ってるというより、実態は潰し合いと足の引っ張り合いだという。パイの奪い合いじゃなく、パイを拡大させましょうというのがメハシくんの主張。とはいえ、スタート地点から離れるとモンスターも強くなるから拠点作るのも簡単じゃない。
私なんかはランキングが公式サイトでみれる上位の人の努力はすごいとしか思わない。スゴイけど、そこで戦うよりやりたいことは他にあるって訳。弓矢の改良をしたりとかね。
他にも好きなようにやっている人もいる。
遠いところまでいくのを目標にしたり、幻想生物との戦闘をもとめたり、和風な集落を作ろうとしたり、色々。
パイの拡大をしているの? と聞かれれば微妙だが、グランドクエストの進展という意味では良かったのだろう。
拠点近くに小川があったので水を水筒につめて戻ってきたら、スタリフトちゃんがログインしてきた。
「アイハさぁん、今日は新しい弓を作りますか?」
「そうね。ちょっと前回の弓は短すぎたと思うから、ロングボウにしましょう」
「ロングボウって難しいんじゃないですか?」
「作るのは、ちょっと大変かも。でも扱いとしてはショートボウより楽だよ、壊れづらいし」
「そうなんですか!? でも私が前にやっていたゲームだとショートボウが初心者向きでしたよ」
「わかる、そう思うよね。でも普通のゲームの常識とこのゲームの常識は違うのよ。細かく条件は分かれるけど、基本は弓って長いほうが壊れにくい、というか沢山引いて大丈夫なの」
私が木をきるのに斧がないとダメと思っていたように、思い込みってけっこう恐い。短弓と長弓だと、どっちが初心者向け? となると実は長弓になる。
「前に教えてもらった引き尺ってやつですか?」
「そう、それ! 引いてくる距離、簡単に言うと押手と引手の距離かな。ゴムはなが〜く引っ張ると伸びちゃうでしょう? もとから長いゴムのがだめになりにくいじゃない」
「弓でも一緒って訳ですね。だからクペちゃんが壊れたのかぁ。んん? ということはアイハさん、クペちゃんが壊れるのは予想できたんですか?」
「ううん、もうちょい持つだろうと思ってたよ。このキャンプが終わったら、短弓を卒業してもらおうと思ってたんだ。作るのは簡単だったでしょ?」
「うぅ、そうなんですね。じゃあ、クペちゃん2世を作りますね」
「2号じゃないんだ。まあ、ともかく出かけた先で武器を自作できるのは大事だからね。いい機会だし、色々と作ってみましょ」
「色々といえば、弓って種類はどれくらいあるんですか?洋弓と和弓があるのは分かりますけど」
「うん、たくさんあるけど。基本は形状、作り方で分類で名前が違うんだ。まずは弓の縦の長さでロングボウ・ショートボウと区別があるけど厳密に160センチからとか決まってるわけじゃないの。全体の形から湾弓やリカーブボウのほうはちゃんと決まってるわ湾弓は弦を外した時に逆側にCの字を作る反発力の強い弓でね、リカーブボウは今、私が使ってるやつ、発射時に威力や安定感は抜群なんだけど発射音も大きいの。他に素材の分類ね、1本の木から削り出してるようなものを丸木弓、複数のパーツに分けてあるのを組み立てたのを合成弓、木以外にも素材を使ってるいるものを複合弓というの、あ! でも、これはゲームの中の分類だからね、どこでもそう呼ぶとは限らないわ。あとメインとする素材として角弓・骨弓なんてのもあるけど、ネタ武器に近いかな。ただこういう分類より普通は時代別、国別、民族別の分類した種類分けが一般的ね。やっぱり弓って合理的な判断じゃないとこで使い方が判断されてきたとこがあって、その地域の特性っていうか、使い方や使う人達、作る人達の社会的地位や宗教的な立場なんかで、形状が変わったり、むしろ変わって当然な状況でも変えなかったりとかしていたのよ、たえばね・・・・・・」
「分かりました! 理解できそうにないです」
「ええ!? どっちよ」
「私には分からないんだってことが分かりました」
「そんな哲学的な話だったけ?」
そんな話をしながら弓を作っていく。今は弓の元となるイチイの木を削ってもらう。
まあ、現物をみてないし、自分で作ってみれば分かるでしょう。今は、一本の木材から丸木弓を作っていくことよね。百聞は一見にしかずっていうし。
こうして夜はふけてゆく。
◆◆◇◇◇◆◆
今日はスタリフトちゃんと一緒に狩りをすることにした。まだ弓は出来てない。1つの武器を作るのに時間がかかってしまうのがProduct&Gathering Onlineの生産の大変なとこであり、楽しいとこでもある。
ただずっと同じ作業をしていると飽きるし、ミスもしやすくなっちゃう。で、狩猟体験、って言っても私の腕前では普通の動物を狩れたら良い方だけど。
でも運良くシカが取れた。すでに解体してあるから、見た目は肉だ。
今回は群れからはぐれたシカだった。現実に存在しないようなモンスターが出るほど遠くないエリアでは割りと大物だ。
「アイハさんの弓だけで、私は何も出来ないかと思ってましたが、意外と何とかなりますね!」
「武器がないなら作ればよいのよ、スタリフトちゃん」
Product&Gathering Onlineは良くも悪くも現実に近い。動物、シカとかウサギとかオオカミとか現実よりたくさんいるだろうし、狩りすぎて絶滅したという話は聞かない。だから普通のゲーム同様モンスターとして湧いてるんだろう。
でも現実と同じく遠距離攻撃手段を持たない。
わりと簡単に作れて威力もあるのは投石紐。弦の予備は持ち歩いてるし、クペちゃん1世の弦も残っていたから、それを使った。
紐に石をはさんでグルグルまわす、紐の一方をはなすと石が遠心力で飛んで行く。命中率は弓より低いけど、スタリフトちゃんは楽しくやってくれてるから良かった。
「前にいたギルドだと対人戦の練習になるからって剣を渡されましたけど、怖かったんですよ! でも投石紐って遠くから投げれてよいですね」
「距離をとって戦えるのは私たちの強みだから、でも、その代わりちゃんと距離の計算や風向きとか色々あるけどね」
動物は嗅覚が鋭い。風下にいないといたほうが有利、昔はアーチェリーの習慣でまっすぐに立って射っていた。というか、姿勢良くするのは視野が広いし、向きも変えやすいから利点もある。
あるんだけど。
「しゃがんで隠れて攻撃するっていうのも、スナイパーていうか狙撃みたいでかっこよいです!」
「立射じゃない方が当てやすいっていうのは私はゲームで始めて知ったけど、」
膝をついて、上半身は真っ直ぐにして射つやり方のほうが相手に発見されづらい、こういう射法も練習しておかないと意外とできない。
「私も早くクペちゃん2世を完成させたいです!」
「そう言ってくれてるのは嬉しいけど、もう1頭探してみましょうか?」
「はい! 次は当ててみたいです!」
「よしっ、がんばろー」
そうして歩いていたら、シカが歩いているのを発見する。
スタリフトちゃんに合図して、一緒にゆっくりと風下に回る。距離を計算する、あと枝や茂みなども確認していく。私はそこそこゲームをやりこんでいて、弓の扱いは上手い。でも1射目から当てるのは難しい。当てるためには下準備がいる。
矢は放物線をえがいて飛ぶから、下手に人の身長くらいのとこに枝が張り出していると、射線が通らないなんてことが普通にある。そういった射線や風、相手の逃げるだろう方向などなど確認しながら、移動していく。
「スタリフトちゃん、この辺が狙いやすいと思うわ。いけそう?」
「はい。やってみます」
いつもはハキハキと話すけど、さすがに小声だ。ちょっと緊張しているようでシカを見たまま目を離さない。手だけで投石紐に石をはめようと悪戦苦闘している。
こういう子にいきなり剣を渡すのはちょっと無理があるよねと思いながら、ゆっくり待つ。
スタリフトちゃんの準備が出来て投石紐を回し始めた。私も膝立ちになって弓を構える。そして、射ち起こし、弦を引き絞っていく。強く左腕を固定する、力が足りないと左手が引く力に負けて震えてしまって狙いがつけられないから、シカにむけて腕を伸ばす。
手順としてはスタリフトちゃんの投石攻撃を先にする、それが当たればよし。外れても、相手が逃げ出そうと方向を変えた所を私が狙う算段だ。
スタリフトちゃんが攻撃をするのを呼吸を整えながら待つ。
そうしていると遂に石が放たれた。
シカの胴体に当たった!
シカがよろめく、すぐさま私も矢を射ようとした時にありえないものを目にする。
大型犬ほどもある真っ赤なアリがシカに樹上から飛びかかったのだ。
シカの首に噛み付いたアリはとんでもない膂力(?)をもって、シカを振り回す。
遠くにいた私の耳にもシカの首の骨が折れる音が聞こえてくるようだった。
そのまま私たちの獲物を奪ったアリはシカを噛んで運んでいってしまう。
「横殴りされて逃げられた?」
思わず声に出して呟いていたらしい。
「えぇぇ! あれってモンスターですよね?」
これが私が、いえ私たち全プレイヤーが通常の動物しかでないと思い込んでいた場所での赤いアリのモンスターとの最初の遭遇だった。
こんな冴えない横殴り獲物強奪から、この時にはあんな大きなグランドクエストにつながるとは予想してなかったよ。




