閑話 矢を作る話7 プラスチックの矢筈
アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。オハナシの都合で3人の内、最初に喋る事が多い。
サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。オハナシの都合で2番目に喋る事が多い。
メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。オハナシの都合で3番目に喋る事が多い。
「モッツァレラ」
「カマンベール」
「さけるチーズ」
「カッテージチーズ」
「プロセスチーズ」
「とろけるチーズ」
「ゴルゴンゾーラ」
「ゴーダチーズ」
「もう〜チーズの名前なんて、知りません」
知っているチーズ名をどれだけあげていけるかというゲームをしながら歩く。自分たちのギルドまで、あと少しのところまで来ている。
牛3頭中2頭は落ち着いている。一番若い子牛は落ち着きがなく、走ったりするので多少大変だ。とりあえず紐に繋いであるが、ぐるぐると歩き回っている。
牛の匂いまで再現されているのが他のVRゲームにないポイント、良い意味でも悪い意味でも。味覚と嗅覚は料理には大事だし、レモンなど新規の食材も手に入ったから、弓矢以外にそっちもがんばりたい。
「メハシくんの負けね」
「今日の水牛の世話当番はよろしくな」
「そこは別に良いですよ」
他にも退屈しのぎに牛肉の部位名勝負、牛乳パックの商品名勝負などをしながら歩いている。帰り道の危険地帯は幸い襲撃もなく帰れた。今は林業担当のメンバーなどに柵や家畜小屋を作ってもらうように連絡してある。
「牛肉対決はしたけど、食べるのは無理よね」
「正直、荷物運びが楽になるだろうしな。いろいろやることは多いな」
「繁殖もさせないといけないですからね」
「ようやく帰ってこれたぁ〜」
「やっぱ人数増やして、自分たちでマーケットギルドやったほうが楽かもな」
「人の数を増やすところから始めないといけないのが大変ですね」
「まあ、そのへんは後でかんがえましょ」
「そうだな。まずは荷降ろしと」
「僕は牛を連れていきますね」
とりあえず色々な作業を分担などの打ち合わせをした後、その日はログアウトした。
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ちょっと不安であったが、無事に水牛の飼育自体は上手くいった。牛乳も取れるようになったのは良かった。リアルの水牛の牛乳は成分とか違うらしいが、ゲームの中ではいまいち味の違いまでは分からなかった。まあ、飲料としてのめているのは助かる。
レモンも植樹が上手くいってるようだ。とりあえず良かった。とはいえ、色々苦労もあるようだ。林業・園芸担当にいわせるとここは温暖なのは良いが雨が多すぎるので向かないらしい。そこで土を水はけの良いものにするとか工夫がいるらしい。
収穫も順調なのは助かっている。
「さて今日はチーズを作りましょ」
「おう、突然だな。発酵の菌はどうするんだ?」
「まあ、シカ狩りも疲れてきましたからね。気分転換にはなります」
正直、矢筈不足は解消していないので狩りに行く必要もある。そういう所はゲーム名に採集の名前を冠するだけあって楽はできない。
同じものをたくさん集めたりとかは苦行とも思える人も多いのでクソゲーとも言われる。
そういう訳もあって気分転換に料理だ。
「牛乳! レモン! 原材料はこれだけでも作れるチーズを調べてきたわ!」
「そいつは狙ったみたいに良く出来た話だ」
「そうですね。でも食事事情が改善されるのは歓迎です」
「カッテージチーズを作ろうと思うの。フレッシュチーズといって熟成しなくて良いものだから、難易度も高くないし」
「なるほどな。料理スキルもあげやすいってことだな」
「そういえば、そんな名前のチーズを先日言ってましたね」
と言うわけで牛乳を竈の火にかける。沸騰しないように火の勢いには気を付ける。
「うん、聞いたことはあるけど流石に作り方は知らなかったから、調べてきたわ」
「レシピがわかってるものは楽だよな」
「本当にそうですね。接着剤のニカワ1つとっても分からない物はたくさんありましたし」
だいたい60度位にするとレシピにはある。それだけ注意しつつ、2人にはレモン汁を絞ってもらう。爽やかな香りがするから柑橘類は好きだ。
「生産作業でも作り方を知っていれば、かなり楽よね」
「料理はレシピを調べれば出てくる事が多いしな」
「インターネットを使えば仮想世界に入り込めるようになった時代なのに、調べても出てこないことがこんなにあるとは思いもよりませんでした」
牛乳が温まったら、火からおろしてレモン汁と混ぜる。
「鉄にしても、接着剤にしても」
「弓矢も知らないことはたくさんあったな」
「鋳掛けくらいは出来ないと、このゲームはツライですからね」
かるく混ざったら、その間に2人にはザルを用意してもらう。またザルにうすでの布巾をかけてもらう。
「メンテできないといくらお金あっても無意味よね。このザルにしても作るの大変だったし」
「料理は、料理器具を用意するのが最大の試練だからな」
「料理器具といえば電子レンジの真似事ができる魔法が見つかったってウワサを聞きましたよ」
布巾とザルの中でゆっくりこしてた固形物のほうが目的のカッテージチーズだ。
「出来たわね」
「う〜ん、もう少し水切りしたほうが品質が良くなるぽくないか?」
「ちょっと試してみましょうか、3等分して、それぞれでやってみましょう」
チーズを鑑定したところ、品質表示がDとあり、改善の余地がある。そこで実験のために3等分して、それぞれで水切りしてみることになった。
「じゃあ私があさく水切りして、サダくんがキツめに、メハシくんが中間ね」
「おう。やってみるか」
「力加減より、時間のほうが適切じゃないですか?」
そう言いつつも、すでに2人共絞ったりして水分を減らそうとしている。水分と呼んでいるが鑑定によると【ホエー】という名前で、こちらも食品扱いらしい。
と、その時、外から叫び声が聞こえる。
『牛が逃げたぞ〜』
「ええ? じゃあ捕まえにいかないと」
「あ〜、囲いが急造だからな。飛び越えたか?」
「1頭は気性が荒いですからね。早く行きましょう」
まだ軽い気持ちで話していたら
ドカッと建物のトビラが弾き飛ぶように開くと、牛さんがこんにちわしている。
MNXooOOOOO!!!
そこからは大混乱だった。
叫び声が聞こえて、全員がおどろいて、ワチャワチャして、手にしたチーズが濡れた布巾にくるまれたまま竈に転がっていたのも気づかなかった。
ほぼギルドメンバー総出の大捕り物になった。疲れた。
「ハア〜〜〜」
「なんとかなったな」
「毎日が事件だらけですね」
そういうゲームじゃなかったと思ったけど、黙っておく。
「とりあえず片付けね」
「じゃあ、俺は道具類を洗ってくるから」
「僕はこっちにあるもの仕分けますね。アイハさんは火の始末をお願いします」
皆で分担して動き始める。で、竈の周りに落ちている物の中にチーズ、いや元チーズか、放置しすぎた物体を発見した。
さすがにもう食べられないだろうと思いつつ、布巾に包んでいたのだから何とかならないかと思って、鑑定を使用する。
表示名が【劣悪なカゼインプラスチック】になっていた!
「えぇ〜〜〜〜! どういうこと、なんでプラスチックが!?」
「どうした大声を上げて」
「また牛でも逃げ出したと勘違いされますよ」
いや、そんな事よりプラスチックだ。劣悪と表記されているので、そもそも作り方の作業の上手い下手ではなく、根本的に作業工程が足りないので、失敗作扱いになっている。
なってはいるが、プラスチックが出来ているらしい。
「こ、これは矢筈の材料に出来るかも!」
「どういうこった?」
「うぅん? おお! これはサダさんも鑑定してみてください」
どうやらメハシくんは先に鑑定スキルを使ったらしい。
「っていうか変じゃない? なんで牛乳からプラスチックが!?」
「こいつは? だが鑑定結果はたしかにプラスチックだな。面白いことになってきたな」
「ちょっと手分けして調べてみましょう」
そういうわけで私とサダくんがログアウトして、カゼインプラスチックについてネットで調べる事になった。
その間にメハシくんは、材料として必要なレモンと牛乳を集めてもらう。
その後、数日かかったがカゼインプラスチック製矢筈が完成した。
カゼインプラスチックは生分解性プラスチックとも言われ、現実だとピアノの鍵盤や麻雀牌などにも使われているらしい。まったく知らなかったけど。
また自由研究で作ってみようみたいなウェブページも有り、簡単に作れることが判明した。
最初、【劣悪な】表記がついたのは水分を飛ばしきれておらず、ボロボロだったのが良くなかったらしい。
作成方法は正直、カッテージチーズの作り方に成形すること、熱を加えて安定させること、水分を飛ばすことの3つを足すだけだった。
整形に関しては今まで培ってきた木彫りの技術で型をつくってそこに押し込むことで出来た。
また現実では電子レンジで熱を加えることが多いみたいだけど、それはゲームに持ち込めない。なので木炭制作用の大型炉の一部を使って適温で固まる場所を試行錯誤した。
これが一番苦労したが、逆に水分を飛ばすのも、ここで併用できたので良かった。
「矢筈のような細かい部品だから、熱は弱めでよかったのね」
「ヒョウタンからコマじゃないが、こんな偶然の産物だが売れまくりだな!」
「不安定な供給ではなくなった上に、今までより性能も良くなるんですから大ヒットですね」
いろんな生物の角は、それはそれで加工先があり矢筈以外にも使われていたため安定して確保が難しかった。それが随分と安定供給できるようになった。
その上、プラスチックは各種容器など使い道があったため、かなり儲かっている。
「フフ、これはずっと私のターン、生産チートってやつね!」
「あんま調子にのるなよ」
「まだしばらくは売れるでしょうから。もうけましょう」
って言ってたら、あっという間に作り方を調べられて、どんどんまねする人たちが現われてしまった。
「こんなに簡単に作り方がバレるなんて!」
「しょうがない。ネットで調べれば分かるからな」
「素材の入手難易度もそこまで高くないですからね」
「はあ、インターネットなんて無くなれば良いのに」
「オンラインゲームで何言ってんだ」
「そうですよ。僕らだって人のマネしてる物もたくさんあるじゃないですか」
そ、そんなアホな!
カゼインプラスチックは小説家になろうで取り上げられているのは自分は見たことはないんですが、
すでに大活躍する人気作があったら申し訳ない。
さて、じつは矢を作る話を書き始めた時は矢筈が1話目だったんです。
そこから色々と変遷があって最後になりました。
アーチェリーや弓道経験者なら矢筈が割れる苦労を一回はしていると思います。
そういう(?)思い入れもあって書くのに苦労しました。
これで閑話に関しては終わりになります。
すこしお時間を頂きますが弓を作る本編を書こうと思います。書き溜め作るのは苦手なので四苦八苦しながら投稿していきます。




