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VRMMOで弓削師〜弓矢のつくりかた  作者: 辻屋
押してダメなら引いてみろと世間では申しますが、両方同時にやってください
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閑話 矢を作る話6 部品の部品を集める話

アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。オハナシの都合で3人の内、最初に喋る事が多い。

サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。オハナシの都合で2番目に喋る事が多い。

メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。オハナシの都合で3番目に喋る事が多い。

QBA・リック:閑話では初出。主人公3人組とはゲーム初日にパーティをくんでいた仲。現在は造船ギルド・スタジオンに所属している。

「あ〜。矢筈(ノック)の素材を探さないと! どっかに角が生えたウサギとかいないかな?」

「ドラ○エにはいたかもしれんが、このゲームにはいないな。あきらめろ」

「ウサギに(つの)、といえば仏教用語で兎角(とかく)はそんざいしないって言う意味らしいですよ。それが元になって『兎に角(とにかく)』って言葉ができたんですよ」


「そんざいしないって言葉から、何がどうなったら、とにかくって言葉ができるの?」

「アイハ、現実逃避すんな。メハシも雑学の使い道まちがっているぞ」

「あぁ、すいません。とにかく存在しないって言いたくて」


「う〜ん、ちょっとは現実からはなれたくなるじゃない。なにかノックの材料なるものないかな?」

「現実からはなれてるから仮想現実でゲームしてんだろ。まあちょっと状況を整理しようぜ」

「サダさん、いつになくツッコミが哲学的ですね」


「状況整理って言っても。材料がないんだから、直筈(じかはず)にするしかないじゃない」

「おちつけよ。むしろ、いざとなったら筈の材料がなくても何とかなるってことだろ。むしろ、ここは他に今、出来ることを考えようぜ」

「そうですね。色々とチャレンジしてみましょう」


 (はず)矢筈(やはず)、ノックとも言う。弓道用語(にほんご)で矢筈、アーチェリー用語(えいご)でノックという。矢の最後部、(げん)に引っ掛ける部分の事をいう。

 現代(リアル)はプラスチックで出来たものを使うのが普通だ。

 素材の種類によって、木筈、竹筈、角筈(つのはず)がある。見たことはないけど、日本の文化遺産かなんかには水晶で出来た水晶筈なんてものもあるらしい。

 矢柄(やがら)本体に直接、切れきみを入れてあるものを直筈という。


「あぁ。やっぱ直筈か、木筈にするしかないかなぁ」

「出来れば避けたいな」

「ですね。最悪でも竹筈にしたいです。あとで竹を買ってきましょう」


「いっそ現実逃避じゃなくてゲーム逃避して、本物のアーチェリーのプラスチックノックにしたい。というか、プラスチック欲しい」

「言わんとする事は分かるが、お前は何から逃げるんだ。木筈とかだと射つ(リリース)時の失敗につながりやすいからな。それが当たり前だった時は我慢できたが今から品質下げたくはないわな」

「弦にカチッとハマって、射つときにもスムーズな素材は今のところ動物の角が一番ですからね。竹の他に鹿や水牛の角が出品されてないか探しましょう」


 (アイハ)はアーチェリー経験者だが、サダくんとメハシくんはアーチェリーも弓道も現実ではやっていない。なので、プラスチックのノックと言われてもピンと来ないだろう。

 ノックに必要なのは弾性だ。曲がっても元に戻る性質が必要なんだけど。直筈とかだとVの字に近い形になる。筈がハマってるというより指で押さえてる感じになってしまう。理想はCの字になっていて、手を離しても弦にくっついている状態にしたい。


 現代アーチェリーでノックの素材にプラスチックを使っているのは安いからだけではない。性能の問題だ。

 もし高くてもプラスチックより水牛の角の方が性能良ければ買う人は買う。趣味の世界でも、いやだからこそ高額で高性能なものを好んで買う人もいる。使いこなせないような物でもね。


 ぶっちゃけ矢の中で最も破損することが多いのが矢筈(ノック)だ。


「こんなに筈がないなんて」

「ま、このゲームやってると『こんなはずがない』とかの語源になったのが理解できるくらいには大事だわな」

「ですね。結局、矢とかもオーダーメイド品が多いのも筈と弦が合わない事があるせいですし」


「う〜ん。どうしよう」

「さて代用品の購入はさっきリストしたものくらいだな。今回のマーケットで安いものを探していこうぜ」

「そうですね。買えなかったと言わず、前向きに考えて他の物を買いましょう」


「じゃあ、私はここで留守番してるよ。ちょっと次に矢投げ対決しても勝てる物を考えてみる」

「おーけーおーけー。頼んだぞ」

「アイハさんはさきほど何か安いものや僕らのギルドで向いてるアイテムを見かけませんでした?」


「そうねぇ。シースルーの所で牛を解体する暇がないだけで、生きてるのなら安くするって言ってたよ」

「おう。いいじゃねぇか、荷車ひければ大分楽になるぜ」

「そうですね。牛の品種とかにもよるんでしょうが、こちらで育てて将来的に増やすのもありですね」




 そういう訳でしばらく持ってきたクロスボウの(ボルト)を売ったり、炭を売ったり、接客をしていた。


「ヤミーノ・ダークくんとヒダリテ・レフトくん、久しぶりじゃない。今日は矢の補充?」

「おう。ついでに弦の調子も見てくれ。そろそろ新調したほうが良いか? 北方に旅に出る予定があるんだ」


「ミド・ミチオさんにシャイ忍軍(にんぐん)さん、注文されてたのは出来てるよー」

「うっす、今度、うちのギルマスが遊びに行きたいって言ってたよ。あとアンデットタイプのモンスターの目撃情報はない?」


「おー、グレッグ・伊予柑(いよかん)さん、ひさしぶり。炭を買ってくれるの?」

「ああ。すまないが、今回も頼む。なかなか良い炉が出来ない。計算通りにならない。万物は理論通りにならないものだ」


 こんな感じで来てくれてるお客さんと雑談しながら商売している。


 今、流行っている別のMMOでは露店でもお客は店主と会話しなくてもよく、価格交渉なども『1.5K』『1.8M』など数字だけ示し、なるべく短時間で終わらせて、一秒でも早く商売を終わらす。そうして経験値になる戦闘や生産作業を繰り返す時間を確保するのが本当のゲーマーらしい。


 そういう風潮についていけない人が遊んでいるせいかProduct&Gathering Onlineでは妙な名前のキャラが多いし、変なこだわりがある人ばかりだ。

 弟に言わせるとキラキラネームの人ばかりで地雷プレイヤーなのか区別できなくて面倒らしい。


 結局、矢投げの事で落ち込んでる暇がなかった。

 人と競い合うから失敗して落ち込むこともあるし、顔の見える相手に商売してるから素材が足りないって焦ることもある。

 でも悪いことばっかりじゃないなと思える。


 そうこうしてる内にサダくんとメハシくんが戻ってきた。


「おかえり! 牛も買えたの?」

「ああ。セール品で安い時に買えたのは良かった。3頭いるが荷車とかを引くのは専用の引き具がいるらしくてな、帰りはまた人力っていうのが面倒といえば面倒だな」

「あとリックさんにも会いましたよ。防腐剤として樹脂を探しに行ったんですけどね」


「ん〜。だれだっけ」

「あれだよ。今は造船ギルドにいるQBA・リックだ」

「すごい偶然ですよね、シースルーさんにも今日会いましたし」


「あぁ!あのリックさん! 元気にしていた?」

「今は長期航海用の船に取り掛かってるらしくてな、うちにも手伝いというか投資を頼まれた

「投資と言っても怪しい話じゃなく、植林技術を見込んでレモンを育ててほしいとのことです。そのためにレモンの苗木を買ってくれとの事です」


「投資? レモン? ちょっと話が見えないわ?」

「ゲームとして壊血病みたいなのがあるらしくてな。対策にレモンとかライムを買いたいんだと」

「それで僕らが苗木を育ててたら、一定量のレモンの実を購入するから、代わりに苗木を買ってくれとのことでした」


「あーと? 壊血病ってたしか野菜とか足らないとかかる病気だっけ、脚気(かっけ)みたいなやつ? 貧血みたいな?」

「微妙に遠いが、そんな感じだな。長期の航海でビタミン不足になるってやつだな」

「それで保存がきいて、レモネードなど加工品にもできる果実が必要になるんです。温暖な気候で植林技術をもってる僕らなら育てられるし、四季成りというらしんですが収穫時期が長いんです。だから安く苗木を買えて売り先も確保できるなら新商品として悪くないと思うんです」


「なるほどね。レモンなら他の加工品も色々できそうだし、良いんじゃない?」

「あぁ、悪いな。そう言ってくれると思って先に買ってきてる」

「まあ、集落(ギルド)として特化してるかは微妙ですが、色々とやってみましょう」


「うん、レモンの件は分かったけど牛は?」

「あぁ。一応、水牛に分類されるんだと。気候的にこっちのほうが合ってる可能性がたかいだろうし、角もとれるけどな」

「当面は増やす方向ですね。市場の外周につないであるそうなので帰りに選ばせてもらいましょう」


「飼育方法とか調べないとね」

「そうだな。増やすなら普通の牛と混ぜるなって言われたぜ」

「交雑種は独特の強い種が生まれますが、繁殖できませんからね」


「それじゃあ、オスメスいないとね」

「ああ、3頭の組み合わせも選んで良いとさ、水牛も牛乳がとれるらしいからメス多めにしたいな」

「でも牛を荷車で運ぶのは大変そうですね」


「バカ言わないで! そんなことしたら規約違反で小説が削除(あかばん)されるわよ」

「そうだぞ! 歩かせるからな、子牛だとしてもドとナを連想させる歌とは関係ない」

「何言ってるんですか、お2人とも例の歌は市場に連れて行く歌で帰る歌じゃないですよ。問題ないです」


 そんなアホな!最近は歌や歌詞に厳しいから、ちょっとしたことでも削除されかねないんですからね!

 わざわざ別枠で注意項目がでるんだから!


モブの名前

ヤミーノ・ダークとヒダリテ・レフト:遠方に旅する戦闘力をもつ二人組。「あのライトじゃない方のヤツ」「光か右かどっちだよ?」が定型文。小説「闇の左手」より。

ミド・ミチオ、シャイ忍軍:恐怖の帝王とあだ名されるギルドマスターに率いられるギルド。ミド・ミチオはトム・ハンクスが看守の映画の原作から。シャイ忍軍はキューブリック監督の映画でドアを斧で叩き割ったりするシーンが有名な映画の原作より。

グレッグ・伊予柑:腐ったみかんならぬグレたイヨカンと言われる男、なお作者にも意味はわからない。万物理論などの作者名をモジッている。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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