閑話 矢を売りに行く話2
この話はややご都合主義の要素があります。ご了承ください。
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アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。オハナシの都合で3人の内、最初に喋る。
サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。オハナシの都合で2番目に喋る。
メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。オハナシの都合で3番目に喋る
「やっぱり相手が長距離戦に慣れてなかったのは助かったわ」
「いや、どっちかというと判断に迷ったんだろうな、弓矢の撃ち合いを続けるか、高所を捨てて接近戦にするか、悩んだ時点で全滅コースだったな」
「どうでしょうね。相手の有利なポイントは人数が多いということです。それを活かして挟み撃ちにするとか手はあったと思いますよ」
「うーん。高所からの誤射があるから? そういうの含めて慣れてない感じよ」
「分かってねぇな。慣れないなら慣れないなりにシンプルな作戦をとって悩まずに手と足を動かしたほうが強えぇんだよ」
「考えるのも必要ですよ。自分たちの強みを分析して相手の弱み、今回であれば人数と機動力を発揮してれば結果は変わったでしょう」
まったくこれだから男は。
「そんなんだから2人ともモテナイのよ」
「ふ、ふざけんな、それは関係ないだろ」
「そうですよ。話が違いますよ」
「違わないよ。相手の話に条件反射的に否定から入ってるじゃない。そうゆうのはモテナイ男の特徴よ。なんでもかんでもハイハイ言えって訳じゃないけど、俺の意見が正しい! って頭から信じ込んでるから、人の話に素直に同意できない、まず自分が正しい信仰の時点でカッコ悪いけど、さらに人の話まで調子に乗って否定するとことか超絶カッコ悪いんだけど、そんで相手が合わせてくれようとしてくれてるのにも気付かないで、ご高説たれてくれちゃって、聞いてないばかりじゃなくて、相手の顔も見てないじゃない。サイアク通り越して、マジ害悪だし。そんなんだからキャバクラくらいでしか話を聞いてくれる相手が見つからなくなるのよ。だいたい作戦とか、どう戦うのか分かってないことを、まとめると慣れてないって事じゃない……」
「お、おう。悪かった。反省する」
「すいませんでした」
ちょっと戦闘の振り返りをしていたら、話の方向がズレてしまった。
「ふぅぅ。まあ、いいわ」
「ぉぉ、いごきをつけるよ」
「チョーシのってました。ごめんなさい」
すこしだけ言い過ぎたかもしれない。軌道修正しないと。
そうだ、軌道といえば、矢の軌道、飛び方について話そう。
「襲ってきた彼らは矢の飛び方知らなかったのかな? まだ矢飛びって広まってない?」
「あ、あぁ。矢飛びな、あれはな〜、俺もアイハに口で説明されても最初は信じられなかったぜ。向かい風の方が有利とはな」
「そ、そうですよね! どうしても空中を飛ぶ以上は風上のほうが矢がよく飛びそうなイメージ持っちゃいますよ」
矢飛び、矢の飛ぶ軌道のこと、銃で言えば弾道というか、どのように矢が飛ぶかって話なんだけど。
風下にいる、つまり向かい風で発射する方が命中率などが良くなる。これについて、ちゃんとした知識がないと『嘘だ』と思ってしまうのは無理もない。
けれど事実として向かい風の強風のほうが矢飛びは良くなる(ちょい専門的ないいまわし)。
これを相手が知らなかったために、さっきの丘での戦闘は勝てたと思う。
さっきの戦闘を最初からふりかえると・・・
まず大八車を3台のうち、1台は止めておく、それを引く人は周囲を警戒しておく。主に死角になりやすい右側に注意する。
そして、私、サダくん、メハシくんの順番で見張りを交代していって、私の二回目の見張りが終わってサダくんに代わった時に、ちょうど敵を発見した。
「そこに隠れている奴ら出てこい! 出てこないなら攻撃する!」
サダくんが警告を発する。私たちは台車を盾にするように移動する。
状況的に攻撃されるだろうし、
「チッ、見つかったか! 我ら光宙騎士隊! 積荷を全てよこせば命は助けてやる」
「山賊と交渉する気はない!」
私が断っていたら
「ブフッ! こ、こうちゅうきしたい、そんな変な名前でさ、さ、山賊してんのかよ」
とサダくんが笑い出した。
「カッコイイ名前なのに山賊っていうのはムリですよ。ここはせいぜい丘ですから『山賊』じゃなくて丘賊ですよ」
メハシくんもどうでもいいことを注意した。
「て、てめえら! 状況分かってないようだな! 高所もとってる! 風も丘からの吹き下ろしで俺らに追い風だ! お前らに勝ち目はない!!」
そういって伏せていたのだろう10人ほどが立ち上がる。パっと見、近接武器5人、遠距離5人だ。
当然と言うか近接武器、剣とか斧とか盾とか棍棒を持って走ってくる組と、弓やボウガンで狙ってくる人に分かれる。
「じゃあ私は後ろから射っていくね」
そう告げると、2人も答えて
「おぉ。頼んだ、こっちも近寄らせやしないぜ」
「僕らは前からですね」
そういって攻撃を開始する。
私はアーチェリー、より専門的な分類でいえばターゲットアーチェリーをやっていた。そのクセが無意識に出るのか、原因は分からないけど、サダくんメハシくんより動いてる物に当てるのが下手だ。
けど2人より遠くの的への命中率は高い。
そんな訳で集中攻撃じゃなくて各個撃破するときは適材適所って感じで分担する作戦をサダくんが考えた。今回もそうしたわけだ。
矢をつがえる、弓を構える、
原始時代に弓は空を飛ぶ鳥を狩るためにうまれた、この程度、まったく、もんだいない、あいての、すがたより、っすこしうえ、、、
「よし! 当たった!」
1射であたるとはやっぱりツイてる。刺さった黒い矢を抜こうと焦ってるのか、転げ回っている。
しかも腕にあたっている。戦闘の継続は困難だろう。1人脱落だ。
どうでもいいが最近はあんまり無心にはならず、色々と考えながら射っちゃう方だ。
気づいたら鼻歌歌ってるときもあるし。
2本目の矢をつがえる。かまえる。やっぱり射角をとると言うか、上に狙う時は左肩に負担がかかる。この重さ、水平射撃より、斜め上に構えるほうがズット重い、でも荷物運びの重さとは違う、緊張感は心地よい、、、
「よし!」
(2射目もあたったけど、騒いでないで射たなきゃなね)
そんなこと考えていたら、相手が騒ぎ出した。
「くそ! なんで当たらねんーだ! ずっけーぞ! 後衛チームしっかりしろ!」
「やってんだよ! そっちこそビビってねぇで走りやがれ!」
「毒矢か!? 黒い矢が飛んでくるぞ、気をつけろ!」
相手は私が3本目の矢を準備する間に10本近く射掛けてるのに当たっていない。もちろん荷車に刺さってるのはあるけどね。
矢を放ちながら心の中で返事をすることにする。
弓矢にとって風は味方にも敵にもなる、そして向かい風は味方だ。
いきなりだけど飛行機でシートベルト着用の義務が出るときって、離陸着陸の他に乱気流に巻き込まれた時があるの知ってるだろうか?
飛行機は前に進む事で翼に風を受ける。その時、受けた風を一定量、飛行機の下に運ぶ、これによって飛行機は浮くことができる。
すんごい乱暴に言うと、これが揚力だ。
つまり飛行機は前に進み続けないと揚力が発生せず、墜落してしまう。
そんな飛行機に後ろから風が当たったら、どうなる?
揚力が弱まる。
だから飛行機は乱気流を嫌うし、シートベルト着用するようにアナウンスされる。べつに揺れるから立ってると危ないってだけじゃない。
矢は飛行機と同じで空気抵抗を利用して、揚力を発生させている。ただし、それは矢を水平より少しでも上に向けて射った時に限る。むしろ墜落する飛行機と同じで揚力が逆転して矢を押し下げる力が働く。
下方に向かって射つと、矢が最初から斜め下を向くことで飛行機でいえば、翼を下に向けているようなものだ、つまり揚力による射程ボーナスがない。だから水平より下に射つ時は、狙う角度がすこしズレるだけで大きく飛距離が狂う。
また飛行機と違い、矢は推進装置がついていない、代わりに矢羽がついてる。そして矢羽も空気抵抗を利用して矢の安定性を増している。
ジャイロ効果、これも回転数が増えた方が良い、そのため無風より逆風はかえって矢の安定を増し、命中率をあげる。
そして追い風は向かい風の逆の働きをするだけでないんだよね。
逆風により矢のジャイロ効果を弱めるだけでない。
後ろから当たる風は矢羽周辺に複雑かつ変則的な気流を発生させる。(自然発生する乱気流ではないため乱気流とは呼ばないけど、おんなじイメージだ)
これにより矢の軌道がブレる。
見たことないと何言ってるか分からないかもしれないが、サッカーのブレ球と似てる。けど、違うのは失速するし、命中率下がるし、威力も下がると全く良い事がない。専用の矢羽を作って、微風なら追い風でも飛距離は延びるけど、今回の山賊さんたちにそういった工夫は見られない。
結局、敵の矢は1本も当たることなかった。
男性陣の方も脚にあてたり、防具の薄い場所に命中させることで相手側の脱落者を増やしている。あんまり時間をかけすぎると応急処置をして復活する
相手は残り1人だ。親玉は周りを見渡して叫んでた。
「ああぁ! 大損害だ、こんちくしょう!」
「コンチクショウとか久しぶりに聞いた」
「馬鹿っぽいけど盾の使い方が上手い油断するな」
「味方も盾にしてましたけどね。名前負けしてますよ」
最後に残ったのが光宙騎士隊と自ら名乗っていた人だ。正直、騎士ぽかったのは名乗りのシーンだけで、あとは小者の山賊にしか思えない。
けど、そっちをメインに相手していたサダくんが警告するくらいにはゲームは上手いんだろう。証拠に盾に何ヶ所か凹みがあるから、上手く防いだのだろう。なかなか良い処理がされた高級品らしく表面の硬皮を射抜けていないようだ。
メハシくんがソッと動き出す。盾は二方向に構えられない、挟み撃ちにするつもりのようだ。
「ここまで近寄れば後は、こっちのもんだ! ぶったぎってやるぜ」
過激なことを言いながらも盾を慎重に構えて敵も走ってくる。
「アイハ、牽制してくれ! トドメは俺が」
とサダくんが言う。実際はトドメはメハシくんが持っていくんだろうけど、私とサダくんで牽制と足止めをするってことだろう。メハシくんは黙ったまま相手の右側、盾で防ぎにくい方へ動いた。
普通の矢を打ち尽くした私は新兵器をこっそり使うことにした。
最近まで開発してきた矢の集大成だ。
鏃は鋭く尖っている。錐のような形状の鎧通しと言うタイプ。
矢羽は少し大きめの三立羽だけど、普通のものと違って螺旋をえがくように、ちょっとづつ矢羽をズラしている。ズラし過ぎると正面からの空気抵抗が大きくなりすぎて失速する、絶妙な角度が求められる。
矢柄には高価な炭を細かく砕いた粉をつけて、うっすらとニスもぬってある。
「へ! いくら当てるのが上手くても防げれば意味はねぇ!」
左腕をまっすぐに力の限り肩が負けないように伸ばす、右肘は地と平行にし同時に背中に回すように引きつけるように腕ではなく背中の力を使って弦を引き絞る。
相手の円形の盾が的のように思えてならない。
矢を放つというけど、本当に矢は束縛から自由になったかのように飛びかかっていた。
洋弓の射撃音って初めて聞く人は意外とうるさくてびっくりするんだけど、相手が驚いて騒ぎ出したのは、そのせいじゃなかったみたい。
「いってぇぇ! なんでだ! ぐ! いてぇ。なんで貫通してやがるんだ、このやろぉ」
低く鈍い音がしたかと思うと、私の矢は盾を貫き手の甲に刺さっていたようだ。相手が盾と手を振り回すもんだから、よく分からかなった。
でもそんな風だったので、すぐにサダくんとメハシくんの矢が当たって、相手は静かになった。
という訳で回想シーンは完全に終わって反省会の続きだ。
「やっぱり矢の飛び方含めて、まだまだ知られていないこと多いのかな」
「って言うか、アイハ、お前勝手に新作の矢を使ったな」
「そうですよ! 僕らの新兵器、ブラックスパイラルピアッシングドリルアローを軽々しく使っちゃダメじゃないですか」
「え? なにそれ」
「おい? ちょっと、それは長いし? 嫌だぞ」
「ブラックスパイラルピアッシングドリルアローですか? さっきですよ?」
「長いとか? 他にも直すべき箇所があるでしょ!?」
「いやいや、無断使用した人に決定権は渡さん」
「フフ。これは僕に決定権があっても問題ないですね」
「えぇ!?」
「そうだぞ、理由を聞かなきゃ納得行かないぜ」
「さきほどアイハさんが反射的に『いや』で返事するのは良くないって言われて反省するはずだったのに、今もサダさんは否定から入りましたよ! そんなイイカゲンな人に命名権は渡せません!」
「ああ!たしかに!」
「おい!納得するなよ」
「ブラックスパイラルピアッシングドリルアロー、なかなか良い名前をつけられました」
はっ!ちょっとせっかく中二病騎士団に勝ったのに、そんな名前になるなんて!そんなアホな!
矢飛びの話は納得いかないって方は質問してくだされば、もう少し詳しく説明出来るかもしれません。
ただ究極的には「物理法則がそういう風に出来ているから」って回答になります。
また筆者もアーチェリーの試合で強風を経験したときに命中率(点数)が高かったです。
ブラック(中略)アローですが、もっと威力たかい方が良いという方にはすいません。
伝説的弓の使い手とかだと鎧を貫通する逸話とかあるんですが、この話はややご都合主義です。
(前略)ドリルアローですが、盾を貫通とかムリじゃね?って方にはすいません。
実際には矢羽で回転上げるより、鏃を重くしたほうが威力は高かったと思いますが、この話はややご都合主義です。




