閑話 矢を売りに行く話
アイハ:主人公、女性。現実で学生時代に洋弓・アーチェリーをやっていた経験がある。オハナシの都合で3人の内、最初に喋る。
サダ:主人公の仲間、男性。3人の中で色んなゲームに詳しく、戦闘指揮もする。オハナシの都合で2番目に喋る。
メハシ:主人公の仲間、男性。3人の中で現実の歴史に詳しく色々と考証したり、検証する役割がある。オハナシの都合で3番目に喋る
「ゼィゼィ」
「ふぅふぅ」
「ハァハァ」
私たち3人共息切れ中です。がんばって商品満載の大八車を押しているんだけど、すでに限界。今はアイハ、サダくん、メハシくんの3人で市場に商品を売りに行く途中だ。正直3台運ぶのに3人は無理があったと後悔中。
荷物の重さや、日差しがキツイこと、汗をかいてジットリするところとか、やたらとリアルで正直、いやになる。
「ゼィゼィ。人力ってキツイ」
「ふぅふぅ。馬力って言葉があるが、やっぱ人間じゃ限界あるな」
「ハァハァ。次はアイテムボックスのあるゲームをやります。それか馬に乗れるゲームか」
「馬といえば、騎射って憧れよね、ゼイゼイ」
「ふぅ、やっぱな。ふぅ、最強のイメージあるよな、ふぅふぅ」
「ハァハァ。なんとかしたいですね。というかそろそろ休憩予定の場所では?」
私たちがやっているゲーム、Product&Gathering Onlineは直訳すると製造と採集。
色々なものを自作したり採ってきたり、それらを交易・交換したりして、領地を発展させるゲームだ。文明のレベルは中世か近世くらい。
けど現実の中世と比較した時にないものがいくつかある。ううん、正確に言うと現実の地球と、ゲームの舞台と比べると、いうべきかな。こっちにしかないファンタジー物体とかもあるし。
1つは硫黄だ。これは現代知識で火薬を作ることを防ごうとする運営の意図を感じる。ついでに言えば石油も見つかってない。
これは私を含めて多くのプレイヤーが納得していることだ。現実と同じくらい文明を発展させたければ、別のゲームがある。あと私も含めて、手作業で何か作っていくのが楽しいのだ。それが1本の矢でも、大きな家でもね、自分たちで作る実感がほしいのだ。
ま、納得いかなくて、硫黄を探しに旅してる人たちもいるけどね。
「そうね!予定の場所よね、このへん。休憩にしましょ。はやく馬の群生地とか見つからないかな〜」
「モウコノウマなら見つかっただろ。あぁ〜筋肉痛になりそう」
「疲れましたねぇ。そういえば、リザードマンって乗れるんですか?尻尾じゃまですよね?」
「あれは見つかったって言えるか微妙じゃない。遠すぎて捕まえにいける場所じゃないわよ」
「リザードマン用の騎獣も欲しいな! やっぱドラゴンとかか?」
「ドラゴンでも尻尾問題は解決しないような気がします」
大きな丘が見えてきたあたり、その少し手前で休憩する。
そして存在は確認されているけど、なかなか大規模に広まらないのが馬だ。一応、他の家畜動物、鶏、牛、羊、豚などはそれなりに見つかっている。今度、牛・豚を中心に飼育している集落と取引しにいく予定もある。
「なんかラプトルとか、そういう恐竜ぽいのなら乗れそうじゃない?すくなくとも人間とは別のタイプの鞍がいるんでしょうね」
「あぁ。そういう小型竜も良いな」
「まずは騎乗できる生物を飼育できないと、机上の空論ですけどね」
「やっぱり私たちも馬探しの旅でもするべき?」
「火薬制作願望のある奴らと違って、アテはあるんだがな」
「見つかっている場所、1か月かかるって話ですから遠いです。でも1〜2頭の馬を入手すれば馬車つくれそうですよね。そしたら右側問題はマシになりますね」
「まだまだ解決したい事、やりたい事たくさんあるわね。新作の矢ももっと色々と試したいし」
「やることが面倒なゲームより、やることない方が引退する理由になって、過疎になるからな」
「やることと言っても僕はゲーム内ランキングで上位に賞品とかだとやる気にならないです」
「そうね。どうしても最強チームと、そのマネしてる人ふえちゃうし」
「最強廃人になるまでゲーム漬けってのを否定するつもりはないが、プロスポーツ選手と同じで楽しいからじゃなくて、負けたくないからやる感じになるよな」
「プロスポーツと一緒にしたら怒られますよ。ファンの人に」
「さて、そろそろ行く?」
「そうするか?風向きもバッチリだしな」
「ではアイハさん、最初の右側警戒まかせました」
雑談と休憩を終えて、私たちは丘にむかって歩きだす。あの丘のふもとの道を通ってゆく。
ここが私たちにとって一番危険な場所になる、3人共それが分かってるから、その前で休憩をとったし、風向きを確認していた。
弓矢使いの弱点は何か?
ゲームがVRを採用する前、その更に前の3Dになる前から、弓矢とか遠距離攻撃をする人の弱点は近づかれたらダメってのがあった。
高さがあるゲームだと、弓矢は高所をとったほうが強いし、相手より高いとこを取るという戦術もありだった。
VRになっても、この辺は変わらない。接近戦NG、相手が高い所にいるの苦手っていうのは変わらない。もっとも崖の下とかにいるのを狙うのも、かなり大変なんだけどね。
付け加えるならVRになって、弓使いには時計回に近づくのがセオリーになった。
弓使いの右側に(出来れば見つからずに)近づくのが必勝法だ。
理由?
弓を左手に持つからだ。
右にいる敵には一拍、反応が遅れることになる、こういうのを私たちは右側問題と呼んでいる。
左側に敵が現れれば射撃体勢になるのに、左腕を上げるだけですむ。
進行方向だと、そっちに半身になる必要があり、
向かって右側に現れると、左手を向けるのにクルッと回る必要がある。
この辺はゲームの仕様にもよるんだけどね。
両手のどっちでも弓矢を扱えるゲームもあるし、システム画面で装備した手にしか武器を持てないゲームもある。弟がやっているゲームは弓を構えた向きに関係なく、敵に向かって自動で矢が飛んで行くヌルさだ。
弟に言わせるとマルチロックや、追尾機能がないなんてクソゲーらしいけど。
リアル志向のゲームになると、右は弱点になる。
前提として弓を持っている人が移動してるというのもあるけどね。防衛戦とかになると、ほとんどの場合、弓をかまえてる相手に突っ込む訳だし。
さらに、そんなに細かい物理法則まで再現してほしくなかったという要望多数のProduct&Gathering Online特有のめんどくさいこともある。風向きとかね。
で、現状は私たちはとても不利な場所に行こうとしている。だから警戒レベルをあげる必要があるってわけ。
不利な点
・荷車があるので、道から外れる訳にはいかない(周りはデコボコだらけで徒歩で移動できるが車輪はムリ)
・道は丘のふもとを通っているので、丘の上に伏兵がいると高所を取られる
・丘は向かって道の右側にあり、敵の発見が遅れると何も出来ない内に接近される。さらに下り坂で接近速度は速いと思われる
風向きは有利だし、新型の矢もあるから、あとはキチンと準備していけば大丈夫。
弓の組み立てもばっちり、弓弦も張ったし、矢筒の確認もオーケー、いつでもどんと来い。
「これだけ準備して何もなかったら、逆に悲しいよね」
「フラグ立てんな!」
「同じようなオチを繰り返して良いのは2回まですよ!」
そんなアホな!ふ、フラグじゃないってば。
硫黄なくても火薬は作れるんでしょうか?作者は火薬については、ほとんど何も知らないのです。銃器や大砲が大量生産されていくと話を書いていくのが大変だなと思った次第です。




