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VRMMOで弓削師〜弓矢のつくりかた  作者: 辻屋
押してダメなら引いてみろと世間では申しますが、両方同時にやってください
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閑話 矢を作る話2

登場人物

・アイハ 主人公、女性。学生時代にアーチェリーをやっていた経験をいかし、ゲーム内で弓矢を作っている。お話の都合で3人のうち最初に喋る。

・サダ 主人公の仲間、男性。各種ゲーム知識が豊富で戦闘指揮、作戦立案を担当している。今回はお話の都合で3人のうち最後に喋る。

・メハシ 主人公の仲間、男性。実世界の歴史に詳しく、ゲームとの差異を考証、検証の担当をしている。今回はお話の都合で3人のうち2番目に喋る。 

「ぐへぇあ!!」

 サダくんが悲鳴を上げる。


「あぁ!矢が折れてる!?」

「うわぁー、もったいない!」

「まて!お前ら!矢よりも俺のことを心配しろよ!」


「はぁ、とりあえず折れた矢が変なとこに飛ばなくて良かった」

「暴発でケガとか、悲惨ですね。リアルでの銃だったら、もっと大変ですよね」

「お!おう、本当に俺に刺さんなくて良かった」


「そだ!弓は!?弓の耐久度も!」

「う〜ん、けっこー減ってますね」

「まて!弓より後なの!矢とかより、弓より、俺のことは!」


 サダくんが弓の練習をしていたら、暴発してしまった。銃ではないので厳密には暴発ではないけど。

 弓にも稀ではあるが事故はある。


「うーん。矢が腐ってしまっているわ」


 Product&Gathering Onlineは木材は腐ったり、かびたりする。とは言え、さすがにゲームではあるので、耐久度とか、状態とか、何かしら指針はある。だから今回も矢を射つ前に状態を鑑定していれば分かったのだが、一本一本にイチイチ私を含めそこまで毎回チェックしていない。


「矢が腐ると、なんで暴発するんだ?」


 サダくんが事故のときに、弦で強打された左腕に湿布を貼りながら聞いてくる。


 今回の矢の暴発をスロー再生すると、


1 まず引き絞った弓矢の弦を放す


2 矢にメッチャクチャ負荷をかけながら、発射の力が加わる


3 負荷に耐えきれず、矢が真ん中でおれる


4 矢が折れたため、弦が真っ直ぐにならず、スロー再生で見ると波打つような軌道になる


5 弦はサダくんの腕へ直撃。折れた矢の前半分は発射の力が上手く伝達されず落ちる。後ろ半分も本来の向きと異なり山なりに飛んだ




 という感じだと思う、イメージだけど。


「うーん。真ん中で折れるんですね?矢が弦に触れてる後方じゃなく」

「あー。その話は長くなるから私からはパスで」

 詳しく話すとアーチェリーパラドックスとか、ちょっと専門的な話になりすぎる。とりあえず今は真ん中が腐っていたか、矢は真ん中で折れるのがゲームの仕様であったと言うことにしたい。

 というかリアルで現実感があると言ってもゲームだ。ちょっと、そのへんの物理とか力学とかはデータ化されてないと信じたい。


「予防策がいるな。防腐処理が必要だな、なるべく安いやつ」

「ニスとか買ってきてみる?」

「それも一案ですが、現状のだと高くついてしまいますね」


 サダくんが対策の必要性を言う理由は、今回の矢がたまたま腐っていて、確認を怠ったから悪いとも言えないのだ。なので防腐処理がいらないという訳でなく、どうしたら安価にできるかという話をしていく。

 困ったことに私たちの本拠地は高温多湿・多雨なエリアで防水・防腐は大事だ。

 ちょっと深読みになるが、、、Product&Gathering Onlineはファンタジーゲームだ。かなり現実に近い物理演算をしているが、ファンタジーだ。現実に存在しない強酸を吹きかけてきたり、火を噴く魔物がいる。

 今後、腐食させる特殊能力を持った魔物も出てくるだろうし、将来的にも木材の防腐は必要だろう。


 高温多雨なのは偶然でもなく、木工製品を得意分野にする生産ギルドにすることを狙っていたのだ。初期メンバーである私ことアイハ、サダくん、メハシくんの3人にとって植林がしやすく、木がたくさんある場所にしたのは良かったと思っている。




 その後、良い防腐剤を探してみんなで色々実験することが決まった。


「ニス塗れば腐らないのは家具類でも証明できているので、効果は問題ないです。ただ値段が問題になってしまいますね」


 メハシくんがProduct&Gathering Online内で他のプレイヤーから購入できるニスをいくつか見せながら教えてくれた。ニスというか、要は樹脂(じゅし)のことだ、樹液(じゅえき)を煮詰めたり、蒸留させたりして作る。松脂は私たちのギルドでは一番馴染みのある樹脂(じゅし)だ。


 他にモンスター素材のニスがじょじょに発見されているらしいが、まだ数がないので今回はパス。

 そして最も防水用に適したものは造船用に使われており、ある程度、まとまった量を買うことは出来る。出来るが、問題は船などのように長期使用が前提のものは高い。消耗品に近い矢に使うのは難しいのだ。値段的な意味で。


「今回は俺が解決策をだしてやろう!」

「へぇ!なんか良い方法があったんですね」

「ま、サダくんがこまめに鑑定してれば暴発しなかったんだけどね」


 サダくんがあんまり自信満々にいうので、つい突っ込んでしまった。が、矢の長期保管で耐久度が下がりロスが出るのはもったいないので、良い解決策はありがたい。


「ふ!今回は防腐機能だが!うちのギルドの日用品代表!木炭の売れ行きも良くなる可能性があるぞ!」

 とまで言う。


「なんで木炭が?」

「あぁ。調べてみたんだがな、公園にある木製の遊具(アスレチック)とかって黒っぽいのが多いだろう?」

「え?うちの近くのは木の遊具なんてないよ」

「だいたいカラフルに塗らられていて分かんないですけど、アルミとか金属ぽいですよね」


「く!地域差か!ともかく公園とか、野ざらしの物を調べてみると合成樹脂は子どもが触るものだから使いづらいんだろうな。炭を粉末にして塗ってあるから黒っぽい事が分かった」

「へぇ〜。木炭で木製品の防腐処理できるのね」

「木で木を加工するんですか。面白いですね」


「まぁ。というわけで作ってみた矢だ。ちょっと鑑定してみろ」

 サダくんが作ってきた黒い矢を渡してくれる。ゲーム要素として矢の状態を色々知ることが出来る。さすがに実際に腐るかどうか野外実験とかしなくてすむ。


 鑑定すると普通のものより可燃性は高まっているのは分かった。が、防腐・防水機能があることが分かった。もともと矢は乾燥しているのを使うので燃えやすいのは問題ない。と言うか、しょうがない。


「なるほどねー。こういう矢が主流になれば木炭も売れるってわけかー」


 私たちの集落(ギルド)では豊富な木材を活かして木炭を作り、売っている。消耗品は爆発的な儲けは期待できないが、安定した売れ行きのある大事な資源だ。

 その売上も上がってウハウハというのはムリだろうが、少しづつ使用量が増えるだけでも積み重なると大きい。


「というわけで!墨塗りしていくぞ!」

「え!手で真っ黒にするの!」

「アイハさん、いつも矢の性能アップは喜々としてやるじゃないですか!」


というわけで全員で木炭まみれになりながら矢を真っ黒にする作業に従事したおかげで!


「あいつら、最近、呪われた武器を使っているらしい」

というウワサが広まり、

「暗殺部隊を編成したんだって?」

と友人には誤解され、

「PKに黒い矢を売るなよ」

と脅されたりしました。



「そ、そんなアホな!!ただの防腐剤なのに!」 


アーチェリーパラドックスに関しては、いつかネタとして小話書いてみたいなとは思いますが、、、

ちょっと物理と力学とかが難しい話で文字だけの説明はムリだろうと諦め気味です。


弓矢の矛盾って、直訳にするとすごく古代中国の武装ぽい。


2月9日句読点など細かい点修正。前書き追加


以下、書き直す前の話です。3月13日に移動しました。

まったく同じテーマの防腐剤として炭を使う話を書いた後、

手直ししていたら、ほぼ1話書き直すはめになりました。

その書き直し前バージョンもせっかくだし投稿しようと思った次第です。



「なあ?あの黒い矢は売ってくれるのか?君たちの専用品だからムリか?」


「・・・売るよ!むしろ!ぜひ、っていうか絶対、買って!」

「便利なんだぞ!呪われてたり、悪魔が憑いてたり、暗殺用だったり、そういうんじゃないぞ!」

「あぁ、やっと買ってもいいという人が!こうやって広まればPKギルドという濡れ衣をはらせます!」




「いや、濡れ衣というか・・・」


 私たちアイハ、サダくん、メハシくんで今、市場に商品を売りに来ている。

 それで常連の方に置いてある商品を見てもらっている。ずっと売れてなかった矢について問い合わせをしてくれて、3人共テンション上がりまくりだ。


 ずっと売れてなかった(いわ)く付きの『黒い矢』だが、見た目が黒いだけで変な物ではない。

 ないんだけど、ないはずなのに、、、売れない。


 イメージが悪いせいらしい。矢じゃなくて、私たちのだけど。


 まあ、これは不幸な偶然が重なった結果だ。偶然であって、呪われているわけではない。


 不幸な偶然、その一、私たちの集落(ギルド)は名前を『ポーリーポッド』という。私たちはあまりネーミングセンスがなく、ギルド名を決めるのに色々と案があって決まらなかった。意味は多脚、たくさんの人と一緒にいると言うような意味合いにするはずだったが。


 で、私の好きな食べ物、たこ焼きから発想して、あれやこれや変転して『ポーリーポッド』になってしまった。ここから、足がたくさんあることから、タランチュラというあだ名がついた。


 これについては反省している。もう決められなくて変なテンションになった末のことだ。 しょうがなかったのだ。

 けど、なんでか蜘蛛とか、クラーケンとか、何故かそういう風に取られている。


 あと私たちは対集落(ギルド)間の戦闘や、防衛戦の時に、この黒い矢の他に、『糸と紐』を愛用している。

 これ!これについてはちゃんとした理由があるのだ!


 私たちは弓矢による遠距離戦による戦闘を得意としている。逆に言うと接近戦に持ち込まれたら負けだ。そのため、罠などによる足止め、時間稼ぎが必須だ。


 他にも、あまり公言していないが、命中率をあげる工夫でもある。



 このゲームProduct&Gathering Onlineでは、遠距離の武器にオートで狙いをつけたり、追いかける(ホーミング)する機能はない。にも関わらず、私たちは命中率がとっても良い。


 戦闘になるとだいたいの敵は動いている。動いている的に当てるのが大変な理由は、相手との距離がずれて分からなくなるからだ。私たちが戦闘エリアに紐などで目印を作るの理由は距離をはかるためだ。


 たとえば相手との距離が現状で30メートル、背を向けて逃げているとしたら、35メートル先に射つ。相手は死ぬ、、、みたいにね?

 簡単に聞こえるかも?でも、相手の距離が30メートルって、どうやって割り出す?目視では、なかなか出来ない。


 先に目印を作っておけば良いってこと、だから『糸と紐』。決まった長さだったり、決めておいた距離ごとに目印を作るってわけ。


 転ばせたり、ひっかけたりする罠だと思っている人が多いけど、本命は巻き尺機能ってことね。

 で、矢が黒いのと関連が見えてこない?


 私たちのギルドは糸と紐、トラップを多用するあだ名が『タランチュラ』、さらに使っている矢が黒い。射たれた側からすると、罠にかかって慌てているところに黒くて呪われそうな矢が飛んでくるわけよ。


 ま、逆の立場だったら、そう、なんていうか、私でも怖いというか、狙われたくないというか、もう二度と戦いたくないというか、心が折れる。

 別にまっとうに戦って勝っただけなのに、PKギルドじゃないのかとか言われるわけ。失礼な話よ。




 矢を黒く塗るのを止めればよい?


 いやね、塗ってるわけじゃないし、これもちゃんとした理由があるの。矢は木製だからなのよ。


 私たちの集落(ギルド)は高温多雨な場所なのよね。弓矢や木工製品をたくさん作るギルドにするっていうのは最初から決まっていた。だから木材が取りやすい場所、砂漠とかじゃなく、雨がいっぱい降る場所に集落(ギルド)を作ったのね。


 それで木材はたくさん取れるし、植林も上手くいっている。けど、木材の保管には問題があるのよ。


 矢は木製よね?このゲームProduct&Gathering Onlineはね、木材は腐ったり、かびたりするの。

 当然、その辺は知ってると思うけど、ちゃんと対策すればほとんど腐らないし、カビないよ、ゲームだしね。


 でも矢は消耗品の木材よね?消耗品に防腐対策しない人も多いってのは分かる。私も弓の方は高価なニスを使って艶だして防腐してるけど、使い捨てのものは放置してる。


 けど、こっちは商売だからね、在庫を保管する必要もあるけど単価も抑える必要がある。ほかの集落(ギルド)より弓を使う人も多いしね。


 矢はたくさん作るし、たくさん置いておく。けど、つくった矢の全部にまでニスは使えない。


 じゃ、どうするか?

 防腐・防水の安価な方法は炭を使うこと。木炭を砕いて粉末にしたものを擦り付けるの。

 この処置をすると、矢は黒くなるけど1年位、野外においても腐らないってスグレモノ!




「うーん!なんかやっぱり恐いから普通のを買うよ」

「いやいやいや!何も恐くないでしょ?」

「その気迫?それが恐いよ」

「そ、そんなアホな!」

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