11話
「聞きたいことかー」「いやぁ、さっきの話じゃないですけど、自分でも何を聞いたらよいか分かんないですよね。」とサダ君、メハシ君。
「なるほどねー。とりあえず何回か引いてみたら?」分からないことを言語化できないのは自分の体を動かしてないからかもしれないし。
二人が自分なりの姿勢で引いてる間に私は分からないこと聞いておこう。うん、二人共ちょっと変な射型だけど、とりあえず放置。自分の射型に納得できない内に他人にアドバイスしたくない。
間違ったこと教えたら嫌だしね。
「それで1984号さん、聞きたいことあるんだけど。このスリングショットってアンカーの位置はドコがベストなの?」
「うむ。アンカーは右目の横か、唇の横に持ってくるのが良かろう。そこ以外でも大丈夫だが、なにより毎回同じ場所に持ってくるようにな」と教えてもらう。
アンカー、アンカリングともいうが、要は弦を引く右手をどこに固定するのか?という話だ。スリングショットを実際に引いてみてサイト・照準器がないので狙いがつけにくい。その他にも右手をどこに持ってくるか悩んでいた。
競技アーチェリーの場合は弦が顎の真ん中にくるように引くのが良いとされる。と言うのは、そこに弦を引いてくれば毎回、同じ場所に引くことが出来る。
1984号さんの言われたとおりに、右目の横にアンカリングするように引いてみる。
この方が弦が視界にキチンと入るので狙いはつけやすいなぁ。
でも、ちょっと引きにくい。右肘が普段より上に来るせいか、違和感が大きい。
そんなことを思いながらリリースする。石が的に突き刺さる「ボスっ」という音が気持ち良い。
次に唇の横に持っていく。
狙いはこっちでもつけられるな。弦を引き絞るのに、こちらのほうが背中の筋肉を使えてる気がする。
当面はこっちの射型で練習しよう。
そうして3射ほど的を射抜くと携帯端末が震えて、
『!クエストクリアのお知らせ!
戦闘職がレベルアップしました。
ギルドの設立が可能になりました。首都の外への通行が許可されました。』
「あ!レベルアップしたみたい。」と言うと
「おお!早いな!射った数は変わらないはずだが、なんでだ?」とサダ君が答える。
「うむ。戦闘職は攻撃回数だけでなく、最大ダメージなどもレベルアップの条件になっている。サダ殿はアイ・ハ殿にくらべて最大ダメージが低いのだ。だからまだレベルアップできないですぞ。」と質問と判断したのか1984号さんが教えてくれる。
「なぬ?同じ武器使ってるのに、ダメージは俺のほうが低いのか?」
「え!という事は、強い武器を手に入れれば早く強くなれるということですか?」
とサダ君とメハシ君が同時に質問する。ちょ、同時に言われてもわからな、、、
「うむ。まずサダ殿は射型が悪く100点中40点ほどの射型であるから最大ダメージが低いのである。
またメハシ殿の言うとおり強い武器を手に入れるのが強くなる近道である。しかし、この世界では冒険しても強い武器は手に入らないですぞ。あくまで開拓と開発こそ強くなる道筋だと思いなされ。」
1984号さんは余裕で答えておりました。ポンコツだと思っていたがかなり優秀なのね。
うーむ、この辺はAIに出来て人間にはできないことなんでしょうね。私には自分の練習してたら他人の射型はみれないし、二人の質問を同時に聞くこともできない。でもAIなら出来る。
でも、さすがに弓や射型のことを私なしで話がすすむとちょっとさびしいね。
「開拓と開発、それは…」とメハシ君が言いかけるが、
「ちょっと待てぇーい。俺の射型は40点なのか?そんなに下手っぴか?どこがダメなんだ?」とサダ君が割り込む。
両方の質問を聞けるけど答える口は一つだから順番に答えてもらった方が私達、人間には助かる。開拓の事はゲームの本筋だろうけど、まずはキレイな射型でうてるようになるのが先かな。
「サダ殿は立ち方が良くないですな。的に対して垂直になるように足をそろえるところから始めなされ。今のままだとやや左足が前に出ているので80度くらいの角度になっているのです」1984号さんがアドバイスする。
「そうよ、スタンスが垂直になってないせいで引き絞るときに、左腕がつられて親指側に動いちゃってるのよ。それじゃあ、押しが弱くなって結局引く力も弱くなるわよ。もっとピシッとシャッキと立ちなさい」と私も言ってあげる。教官役がいるとはいえ、このくらい初歩のことは私でもアドバイスできるんだしね。
が、サダ君ときたら
「同時に言われても分からん!覚えきれん!一個づつ言ってくれ」と言い出す。
「NPCの1984号さんは同時に質問を聞き分けていたでしょ。あなたもがんばりなさいよ」と私も出来ないことは棚に上げて無茶振りにはっぱをかける。
「言ってくれるじゃないか!立ち方はこれで垂直か?」
そう言いながらもサダ君はまず立ち方を直し始める。
「僕はどこがダメなんでしょうか?」とメハシ君も聞いてくるが、
「え!ごめん。見てなかった、も一回射ってみて」
「うむ。メハシ殿は的を狙おうという意識が強すぎるのせいで左肩が『まけている』状態になっておるのです。近射、2〜3メートルの距離なら必ず的に当たりますぞ。狙うことより、左腕を前に突き出すことにより『引き分ける』感覚を覚えなされ。」
と言いながら、1984号さんが左肩だけ『肩をすくめる』ような状態で弓を引くマネをする。顔の横にバツ印の吹き出しまで付いている。この肩がすくんだ状態を『左肩がまけている』とか『肩がつまっている』という。
そこから吹き出しがマルにかわり、キチンと左腕が『前に押せている』状態で引くマネをする。
「あぁ、なるほど。メハシ君は、もっと左腕を意識したほうが良いのよ!ガッと、ググーっと前にね。」とさらに理解できるように私も補足してあげる。ここも初心者がつまづきやすいポイントだからね。誰もが悩むことを経験者としては解決してあげないとね。
なのに
「見てなかったじゃないのかーい!」とサダ君に突っ込まれ
「アイ・ハさんはちょっと何言ってるか分かんないです」とメハシ君にもダメ出しされ
「ハッハッハ。アイ・ハ殿は教えるのは下手ですな」と1984号さんにまで言われる。
「みんなヒドい!学生時代、後輩には教え方上手と言われていたのに!」
「お世辞だったんじゃないか?」とサダ君
「その可能性はたかいと僕も思います」とメハシ君。
「そんなアホな!」
お節介なアイ・ハさん
サイト、アンカー、押手、肩が詰まっているなど専門用語が多いです。
どうすれば分かりやすくなるのか




