10話
結局、教官のNPCにも教わりながら戦闘職のレベル上げすることにする。自分よりうまい人がいるのに見本をみせるのは恥ずかしい。帰国子女に英検2級もってるよ☆と自慢しちゃったみたくなってる。
教官の人に自己紹介したところ教官役もNPCのようだ。SK-1984号さんというらしい。エスケーツーという化粧品を母が使っているが、それの最終進化形態みたいな名前だなぁと思う。
 
そもそもアーチェリーのフォーム、射型は分かるが、それ以外は全然わからない。
たとえば戦闘のシステム、開拓するゲームということは知ってるが戦闘の扱いが分からない。普通のRPGなら、敵をたおしてレベルアップして、より強敵との戦いに挑むのが流れ。だけど、このゲームの場合はストラテジーゲームだから戦ってばかりとはならないだろう。
大枠のシステムだけじゃない。肝心のフォームについても実は困ったことがある。
 
競技アーチェリーと弓道の違いの一つは的中にこだわる事にある。基本、弓道の場合は的のなかにどこにあたっても当たってれば的中になる。アーチェリーの場合は的のなかに点数があり、10〜1点に別れていて、当然、的の中心部ほど点数が高い。
ハイレベルの大会、全国大会とかになってくると10点、9点以外はミスにちかい。プロボウリングではストライクをほぼ毎回とるのは当たり前になるように、1点の差がでるような試合になる。
で、だ。
ここまで命中率が良いのは理由がある。一つにはサイトと呼ばれる照準器がついているから。
これで毎回、同じところを狙うことが出来る。伝統的な弓だと感覚に頼るところを、道具でおぎなうのが現代アーチェリーの良いところ。
でも便利な道具に慣れると出来なくなることもある。正直にいって、どうやって狙いをつければよいのか戸惑っている。
今回は的まで2メートルほどの近射だから、問題なかったけど。他のゲームのように適当な狙いでもシステムが補助してくれたり、シューティングゲームのように照準が中空に浮かぶわけではないので、どうにか慣れないと。
 
「ふぅむ。アイ・ハ殿は洋弓をやられていたのか。弓手の重要性を理解しておられるようですな。」と教官NPCのSK-1984さんに言われる。弓手とは弓を射つ人のことではなく弓を持つ手の意味で、ユンデと読む。弓道用語でアーチェリーでは押手と言う。運営さんは弓道経験者に配慮したのかな?
 
「わしは教官役ということで、やや高度な会話にも対応できますぞ。どんどん質問してくだされ。また射型を100点満点で点数化する機能も搭載しておりますぞ」
「カラオケか!?」とサダ君が突っ込んでいる。
「うむ。カラオケは歌を歌う施設のことですな。弓に関する質問ではなさそうですな」と律儀にツッコミに答える1984号さん。ポンコツな感じがする。
 
「1984さん、質問があります」とメハシ君。
「なんですかな」
「スリングショットの射ち方の質問には答えてくれるけど、教えてもらえるわけではないんですね?」と、またよく分からない質問をしだした。メハシ君はやっぱりちょっと変な子だ。
 
「うむ、そうですな。わしは質問に答える事はできますぞ。ですが、分からないことが分からない場合は何も出来ませんな」と答えているが、何やら哲学的な話になってきた。
「メハシ君は何が分からないの?」と聞いてみる。
「つまり検索エンジンみたいな使い方をしてくれって事だろ。」とサダ君が答える。
 
「あぁ、質問内容が『わからない』ときは、どうしようもないって事ね」ちょっと分かってきた。検索エンジンに『わかりません』と入力しても欲しい答えは返ってこない。
うぅむ。サダ君は変態だけど頭は良いみたいね。いやメハシ君の目のつけどころがよかったのか?
 
「はい。教官のNPCは何人もいるみたいなのに、スリングショットの射ち方、射型はみんなバラバラだなぁと不思議に思ったんです」
言われて周りを見渡すと私と似たような射型をしている人もいるが、腕が曲がっている人、しゃがんだ姿勢で射っている人などいる。スリングショットを持っていない教官のNPCと思われる人もついてるのだが、アドバイスは求めているのだろうか?
たぶん本人的にはカッコよく射っているつもりなんだろうけど、引尺がとれていない人が多い。
 
引尺というのは弦をどのくらい長く引けるかと言うことなんだけど、これが2〜3センチ違うだけで弓の威力はかなり変わってくる。
 
アーチェリーや弓道にかぎらず世界中の弓矢の構えの共通している点に左手を横に突き出し顔だけ左を向いて射つ姿勢になる。これには当然、理由がある。それが人体の構造上、引尺が一番、効率よく長く取れるのだ。
 
このことを知ってる人、知らなくてもどうすれば威力をあげられるか教官に質問できる人はキチンとした射型になると思う。
でも『わかってない事をそのままにしている』人、『人の意見を求めずカッコよさだけを求める』人はおかしな射型のままで練習を続けてしまう。それではいつまでたっても的にあたらないし、威力もでない。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥
ゲームだけでなく現実のアーチェリーも同じだ。自分の射型は決して自分の目では見れない。ビデオに撮るか他人に教えてもらうしかないのだ。人の意見を素直に聞けない人はうまくいかない、自分の力だけで上手くなろうとしても弓は決して上手くならない。
 
ゲームなんだから単純に練習量が多ければ上手くなる方が良いだろうに。その方が多くの人が簡単に楽しめるだろうに。
ここの運営は誰もが時間さえかければ強くなるように設計して『ない』のだ。最初の序盤も序盤からゲームの入り口でふるいに掛けているのだ。ゲームに合わない人、NPCのセリフを聞きながすような人は強くなれないようになっている。
なぜだろう?それはたくさんの人を楽しませるゲームの役割を放棄してるのに嬉しく感じる。
 
「ほんとうにアホみたいな運営ね」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、なんでもないわ、1984号さんに色々と聞いていったほうが良いってことがわかったんでしょ。二人は聞きたいことは他にある?」
ゲームとしてはリアルでアホな仕様。ほんとにあきれる運営だけど、楽しめるなら楽しまないとね。
評価ポイント頂きました。本当にありがとうございます。
ずっと読み専門だったので評価いただけるとは思っておらず、本当にうれしいです。
6月21日
一部にルビ追加。その他、てにをはがおかしいトコ修正
 




