ーーー校外ーーー
-授業-の追加を朝から工藤先生に宣告され、どうしようもなく気分が乗らない。
さらなる精神的負担を自分に掛けないよう、
今日1日が平和に静かに終わってくれる事を祈った。
しかし、それをあいつが覆した。
蓮が、俺達より早く学校に着き椅子に座っている。
そして、カッコつけて授業の準備をしているがらチラチラこっちを気にしている。
なんて可愛いんだろう。
俺はとりあえず無視してみることにした。
翔「みんなおはー。」
椅子に座って身を瞑った。
ものの10秒後だった。
蓮「ねーえ、翔くん翔くん?お、は、よ。」
翔「フフ、ハハハハハ!ふざけんなよ!」
蓮「お前‼︎ワザとしかとしやがったな‼︎ふざけんなよ!」
翔「ハハハハハ!いやーだって可愛いんだもん!たまに早起きした姪っ子みたいでさ!で、どうしたんだよ急に!」
紗季「あっ!蓮だ早いね!ビックリ!」
蓮「あー!シミュレーション通りいかねーなーったく!
なんだこの笑える空気は⁉︎なんなんだ!」
翔「なんだよ。なんか言うことあんなら話せよ。」
蓮「俺さ!警察官になるから!」
翔&紗季&工藤先生「はーーー⁉︎警察官⁉︎」
翔「ってなんで1人増えてんだよ!」
工藤先生「ハハハハハ!担任が自分の受け持ってるクラスにいて何か問題でもあるのかな?」
翔「あーもー!俺は今日平和な1日を過ごすって決めたのにちくしょー!蓮!で、さっきの話の続き!なんでなんだよ!」
蓮「まぁさ、なんつうか昨日翔と話した後に色々考えてさ、大学行く予定だったけど、記念受験して合格した警察官にそのまま入ることにした!」
翔「ふざけんなよ!お前ぜってー無理だって!」
蓮「まぁ、詳細はまた河原でな!」
翔「また河原?まぁでも分かったよ。大切な仲間がした一大決心を聞かない訳にはいかないしな。」
工藤「河原ってどこの河原だ⁉︎何時に行けば良い?」
翔「お前はくんなっ!」
やっちまった。
本当に心から申し訳ないと思った。
蓮の親は従業員が数百人いる会社の社長だ。
せっかく大学に合格した跡取り息子が、将来子供に
「パパは警察官にもなることが出来たんだぞって。」
って自慢するためだけに受けた警察官になるなんて。
その事だけを考えて、あっという間に放課後になってしまった。
工藤先生のいる職員室に向かおうと立ち上がった瞬間。
教室のドアが開いた。
ガラガラッ
工藤「翔!行くぞ!」
翔「うわっ!来たし!しかもまたかよー。」
俺が工藤先生に生意気な口を聞いて呼び出される時の三回に一回は、
寂しがり屋の工藤先生と郊外を一緒に走る。
仕方ない。すぐに着替えを済まし校門に行った。
工藤「遅いぞ翔ー!早くゆっくりストレッチして!行くぞ!」
翔「どっちだよ!教室でやってきたから大丈夫だよもう。」
工藤「そうか!それぢゃあ今日は佐藤商店折り返しの右回りな!行くぞ!」
翔「うわー。12kmコース。今日は負けねーかんな!」
工藤先生は学生時代にレスリングで国体準優勝を成し遂げた怪物。
歳ではあるがとにかく早い。
俺が2年前自衛官になりたいと先生にだけ打ち明けた時から、
この郊外ランニングは始まった。
ラスト1kmは2人で勝負をする。
最初はボロ負けだったが、最近は五分五分にまでなった。
年明けからの戦績は6勝7敗。
今日は大事な一戦でもあった。
残り1kmに差し掛かるまでは、少し早いペースで会話をしながら走る。
工藤「翔ー!もう悔いは無いのか?」
翔「悔い?何が?」
工藤「自衛隊に入るまでにやりたい事は全部出来たかって意味だ。」
翔「あー。特にやりたい事はねーかな。ってかなんだよその質問!」
工藤「ハハハハハ!俺も社会人になる前にな、言われたんだよ。でも別にやりたい事なんか無いからな、無いですっ!って言ったんだ。でもな、実際社会人になると、学生時代にやっておけば良かったって事だらけだったんだ!良いか、お前に本当に伝えたい事は悔いがあるか無いかぢゃない。
必ず悔いは残る。だからなるべく探すんだ。「今」しか出来ないことを。」
翔「今しかできない事か。探してみようかな。あ!でも1つ見つけた!」
工藤「お!良いぞ!なんだ?」
翔「先生に1kmで勝つ事!」
工藤「お!威勢が良いなぁ‼︎それぢゃあ勝負だ‼︎」
翔「うっしゃぁぁぁぁ!」
紗季「翔って、走り始まるまで本当に面倒くさそうだけど、走り始めると本当に楽しそうだね。」
蓮「あぁ、そしてなんだろう。仲が良い。とにかくあの2人、俺と翔のペアより仲が良い。凄く、ムカつくよ。」