ーーー河原ーーー
紗季と俺の間を自転車が横切った。
翔「蓮!どした?」
蓮「どうしたもこうしたも家へ帰る道中で同級生を見つ
けたらそりゃ声をかけるだろうが!」
翔「ま、まあな。」
蓮「そんなことよりさぁ!河原行こうぜ!」
翔「は?河原?この時間に?」
紗季「行くー‼︎」
翔「お前はうるせー。なんで河原なんだよ⁉︎さみーよ」
蓮「理由はたった1つさ!せいっしゅんをしに行く!
それだけさ!」
紗季「青春サイコー!」
翔「だからお前はうるせー。まぁ、青春したい気持ちは
分かる。ちょっとだけ行くか。」
中学の頃からずっとそうだった。
三人が集まれば必ず河原へ。
出発してから到着まではものの数分だった。
蓮「とうちゃーーーく!さてさて、今日は何の話で盛り上
上がろうか!」
紗季「はい!」
蓮「はい!紗季さんどうぞ!」
紗季「翔はなんで自衛隊に入るのかを教えてもらおうと
思いまーす!」
翔「なんだよ。またそれかよ。」
蓮「翔頑なに教えてくれないからなー。」
翔「別に教えねー訳ぢゃねーよ。つまんねー理由だから
教える必要ねぇって思っただけだよ。」
紗季「ぢゃあさ!つまらなくて良いから話して。」
翔「ったくめんどくせーなー。分かったよ!
2年前に家で夜テレビ見てたんだよ。
そしたら自衛隊の特集をやっててさ、内容が海外派遣
の話で、そこで自衛官が難民に食事を与えたり、
怪我人の治療をしてたんだ。
それがなんか、スゲー不思議でさ。なんつーか。
しかも、隊員の年齢が22歳とかの人もいてさ、
とにかく上手く言えないけど、ただでさえ、
家を離れて駐屯地とかで暮らしてるのにさ、
海外とかに何ヶ月も行ったりして人の為に頑張ってる
若い自衛官の姿を見て、思ったんだ。
自分の5年後を。
普通にサラリーマンだったとしたら、五年後の自分は
きっと電車に揺られて、社会の荒波に揉まれて、
真っ直ぐ前を見続けることが出来なくなってしまう。
凄く簡単に想像出来たんだ。
でも、自衛官としての自分は全く想像出来なくて、
そしたらワクワクして来ちまったんだよ‼︎
5年後もしかしたら俺もあの画面の向こう側の人に
なれるのかなって。
人に助けられっぱなしの俺でも、誰かを救えるの
かなって。
だから、2年前から決めてたんだ!5年後に誰かを
救うことの出来る人間になるってさ!」
蓮、紗季「・ ・ ・」
翔「なんだよおめーら!お前等が聞いてきたんだろーが」
蓮「分かった。分かったよ。」
翔「あ?なんだよ。」
蓮「俺もう否定しない。」
紗季「私も。」
翔「なんだよ!気持ちわりーよ!」
蓮「普段さぁ、翔ってあんまり自分の話ししねーからさ、
なんか、分かんなかったんだよ。不安だったし。」
翔「不安?」
蓮「うん、不安だった。なんか、俺たちから離れたいから
自衛隊に入るのかなって。」
紗季「こんなに毎日一緒にいる大切な存在がさ、
いなくなってしまうのは寂しい。
けど、翔に向いてる仕事だと思う!
翔、困ってる人のために頑張るの好きだし!
凄い寂しくなるけど、でも応援してるね!」
翔「離れたくはないよ。離れたくはない。
けど、もう意思は固まったからさ。
やるって決めたから。
まぁ、そういう事だからさ!今日は先に帰るよ!
また明日!」
本当は、朝が来るまで一緒に居たい。
毎日毎日飽きるまで一緒に居たい。
けど、それが俺の意思をブラしてしまいそうで怖いんだ。