諦めの想い
戦があれば前線に出て人を何も思わず首を落とし殺めていた私が人に恋をした。自覚をしたのは本当に最近の話だ。恋をして自分の大切な存在が、他人に取ったら大切であるかもしれない人を私は殺めていた。それは悲しみの連鎖を生むものだと痛感した。だが、私はこの場所にここに生まれた。そんな彼らの死を心に留めこれからも生きていく。
私は、国王陛下に忠誠を誓う剣の家に生を受けたリステスルグ家当主が第二子ミリアリア。
戦場での忌み名は閃光の紅。敵となった相手を容赦なく殺していた私についた名だ。
「兄様よ、かの御仁に聞いていただけただろうか」
先日、私の兄ユリステア・サルバ・リステルグ次期伯爵に一つ頼みごとをした。
会ったら聞いておく、と快諾の返事を兄から聞いて早7日。今か今かと待っている私にいつもよろしくない返事ばかりを持って帰ってくる兄。
今日もいい返事は聞けないだろうと思いつつ逸る気持ちを抑えきれずに仕事帰りの兄を家の玄関ホールで捕まえて回答を待つ。
「お前はまったく。ただいま、聞いてきたよ。」
ため息交じりに外套を使用人に渡し、口角を上げて蒼い瞳を私に向ける。
「おかえりなさい。どうでしたか」
「虫も殺せないような、表に立って社交上手な方が好みだと。あと細かいことも言っていたがお前とは真逆なタイプだったな。聞いた限りでは」
「そ、そうですか」
兄に依頼したのだ。私の思い人、現国王宰相アルバート・カザルダ・ナッシェラルク侯爵様の女性の好みを聞いてくれと。
私は国を患わす虫を退治するのが仕事であるし
王国の隠密部分に所属している私は極力華やかな舞台からは遠ざかっている。
普段の生活ではドレスなど着ない、知り合いを呼んでお茶会なんてものも全くない。
私は、裏のリステスルグを継ぐ者。その名と共に生きていくことを誓った。
「後、今度お前と手合わせをしたいと言っていたぞ。俺じゃ強すぎるからお前相手が良いんだとさ。リステスルグの女傑様」
兄が嗤った理由がわかった。
どうせ、私なんぞは彼の視界にも入っていないと。ただの摸擬戦相手というわけだ。
「…いつも通り、ボロボロになるまで痛めつけてきます」
兄は騎士団随一の実力を誇る、そして表のリステスルグ伯爵家を繁栄させる責を負う身。
そして私は裏のリステスルグ家を継いでいく責を負う。
それがリステスルグの紅を瞳に宿して生まれてきた私の責務。
「ほどほどにな~」
そう一言いうと兄は書類仕事があるらしく、部屋に籠ってしまう。
「さてと、行きますか!」
私は恋する御仁の元へ馳せる。
この気持ちはただの気まぐれ。
そう思いたい
彼も兄が聞いた意味が分かっているから、諦めるようにと誤魔化してくれたのだ。
諦めなくては。
そう思った一瞬で、転移の魔法で宰相の執務室に着く。
彼の定位置執務室の机を見て、存在を確認する。
「アルバート様、私との摸擬戦をご所望だとか、兄に聞きました」
ニコリ。綺麗に笑えているだろうか。
「アリア、待っていたよ」
少し長めの前髪の奥から見える切れ長の慈悲深い笑みに今日もこの思いを消し去るのは難しそうだと、私は思う。
でも、今この時だけでも。
私は
彼と共に——――――――――――――――。
続かない、かもな物語。
突発的に思いついただけです。