彼女と僕
目を開けるとそこには人形になった彼女がいた。
体はまだ温かいけどこれはれっきとした人形だった。
僕は本当にこれでよかったのかわからなかった。
〜三ヶ月前〜
僕は高校二年生。
何処にでもいる普通の高校二年生。
このころは寒かったが雪は降らなかった。
12月の空模様はどんよりしていてなんだか僕を追い詰めているようだった。
今日は冬休みだというのに登校日でだれもかれもやる気がなかった。
でもひとりだけ活発的に活動する女がいた。
彼女はホームルーム長(HR長)で僕の彼女だ。
彼女とはもう六ヶ月も続いていた。
ちょっと小柄で髪は短く真っすぐでかわいかった。
少なくとも僕はそう思っていた。
告白したのは僕からだった。
故意的に彼女と仲良くなってメルアドを聞いて。
それにしても今日はとくに元気に振る舞っていた。
何か隠すようにわざとらしかった。学校が終わると僕は暇つぶしにどっか学校の近くをぐるぐる。
彼女はバイオリンをやっていた。
彼女の部活が終わるまでそんな感じで学校の近くをぶらぶら。
そんなことをずっとしてこられたのは多分ずっと彼女が好きだったからだ。
部活が終わるのを待ってそれから二人で帰った。
彼女はどうだか知らないが僕はそれがこの上ないしあわせだった。
大晦日になった。大掃除やらなにやら仕事が多かったが僕はそれ所じゃなかった。別に紅白歌合戦が楽しみなわけじゃない。
明日の初詣が楽しみでしょうがなかった。
正直僕はこの日に彼女とヤル計画一人で進めていた。
そして紅白は見ないで大晦日の夜、何も知らない彼女とあった。
でもちょっと彼女は具合が悪そうだった。
寒い?と聞いても大丈夫と答えるので僕はこんなこと忘れてしまっていたけど。
初詣は町で1番でかい神社にいった。
結構階段がきつくたくさんの人が列を成していた。
ここで煩悩を掻き消すのかと思って108つの鐘の音に僕も彼女も聴き入っていた。
その時ふと思い出した。
今日この山に紛れて彼女とヤルつもりだったのに。
どうしよう。
ここはこの鐘の音に免じてあきらめるか、そんなこと気にせずにヤっちゃうか。
妙なところで真面目なぼくは階段を上りながら考えた。
彼女はキョロキョロあたりをうかがっていた。で、僕は決めた。
今日はヤらずに帰ろう。
お参りのときに今年中に彼女とできますようにとお願いすればいいやて思って財布に隠して置いたコンドームをその辺に捨てた。
今日は日曜日。
冬休み最後の日。
宿題はほとんど手付かずでさすがにこれはまずい、来年は受験生だし、と思い無理いって彼女の家に来た。
もちろん宿題を写すため。
彼女は真面目だったので宿題は1月始め頃には終わっていたらしい。
彼女の家は大きかった。
彼女の部屋もひろかった。
そして上品だった。
僕にはあわないとずっと思っていたがやっぱりあわないと今日も思った。
太陽の光がやけに部屋を白く照らしていた。
だけど今日は無理をいって突然家を訪れたため彼女の部屋にしてはちょっと散らかっていた。
今日の彼女はちょっと元気で自前のバイオリンを僕のために弾いてくれたりした。
夕方には宿題も写し終わり二人で外に出た。
近くの公園に行ってちょっとしゃべった。
キスもした。
高校生らしいキス。
僕は恥ずかしくてやるのが苦手だけどその瞬間はとてつもなくしあわせ。
ただただ、しあわせなのだ。
3学期が始まった。
僕は代わり映えのしないいつもの高校生活をおくっていた。
この状況を変えなければとつねに思っていたが行動に移すことは今までになかった。
そう思ったので、とりあえず何をすべきか考えた。
考えて、考えて、考えた。
結局いろいろな案が出たが勉強を頑張ることにした。
目標は彼女の成績を抜くこと。
まあ目標は高いほうがいいかと思ってそうした。
ちなみに彼女の成績は1位から20位までのどこかには入るという優秀なものだった。
だが僕は彼女をびっくりさせてやろうと頑張ることにした。
そのために彼女の手はかりずに勉強してることも極度に隠した。
3学期の試験は一度でそれが成績になるので、一度きりのがんばりだと思って僕は必死になった。だが所詮は僕だった。
僕は僕のままだった。
勉強なんて三日しか続かなかった。
僕はやっぱり・・・。
そう思わざるをえなかった。
言い訳はしたくない。
自分に言い訳なんてそんな格好悪いことはしたくなかった。
それにしてもなんて僕は格好悪いんだろう。
あっという間に試験の日が訪れあっという間に終わった。
赤点をとった。
数学が24点。
後はまずまず。
多分成績は中の中くらいだろう、とおもった。
いつもとまるで同じだった。
でも彼女はいつもと違った。
いつもはかなり上位なのに今回は僕よりやや上くらいの成績だった。
そういえば最近の彼女といったらいつも調子が悪そうだった。
なんかあったの?と聞いてもなんでもないという。
怪し過ぎる。
彼氏なんだから話してくれてもいいじゃん。
バカな僕はその時の彼女の状況を知るよちもなかった。
その日の帰り道公園によった。
辺りには夜が今にも降りそうだった。
赤く憂鬱な光が二人を照らした。
ブランコに座る二人の影が針のように伸びていた。
「なあ、・・・。なんかあったろ。」
最初は優しく言った。
「・・・別になにも。」
彼女はしたを向いている。
「なんかあったんだろ。言えよ。なんなんだよ。」
僕は怒鳴ってしまった。
彼女は無言だった。
その後数分ふたりはだまったまま。
沈黙を壊したのは彼女のほうだった。
「銀河鉄道の夜って知ってる?」
僕はびっくりして彼女を見た。
「え?」
すぐ彼女はしゃべりだした。
「ううん。なんでもない。ふたりでどっか行っちゃおうか。・・・なんて。じゃあね。」
そういい残して走り去って行った。
すかさず僕は彼女のなまえを呼んだ。
彼女は笑顔でちょっと振り返った。
そして遠くへ行ってしまった。
それから彼女は学校にこなくなった。
僕は学校でいずらくなった。
女子たちの睨み付けるような視線が怖かった。
ある女子がこう言う。「あんたルーム長になんかしたんでしょ。」
僕は何もしてないと言う。
でも僕の言葉は多分どこのだれが聞いてもウソにしか聞こえなかった。
すごい教室がいづらくなっていった。
味方だと思っていた男どもも正直に言っちまったほうがいいなどと言いやがる。
オレが何したってんだよ。くるってやがる。
ウソが真実と認識される。
毎日のように僕は彼女の家に行ったが彼女は出てこなかった。また教室での僕は居場所を失っていった。
イジメっぽいことが始まった。
しかも女子から。
やつらはすごい。
きっかけがあればそれでいいのだ。
完全に僕は標的になった。でもまあシカト程度ですんだのでよかった。
でも彼女はいつまでたっても出てこなかった。
僕はなんかしたのかな?
本を読んだ。
彼女の最後の言葉からなにかの糸口が見えるんじゃないかと思って。
銀河鉄道の夜を読んだ。
でも彼女が僕に伝えようとしたことがよくわからなかった。
その日もいつものように彼女の家に行った。
銀河鉄道の夜を読んだと言った。
すると彼女はひとが変わったように家に入れてくれた。
彼女はちょっとおかしくなっていた。
最後にあったときの彼女とは別人のようだった。
彼女はいきなりとんでもないことを言った。
「私クスリやっちゃった。」
「は?」
つい言葉が漏れた。
「ウソだろ。」
僕は意味がわからなかった。
「ウソじゃないよ。」
そういって彼女は泣き出した。
僕がなんで?ときいても彼女は泣いたままだった。
その瞬間僕はわかった。
僕は彼女のなにもしらなかった。
今日も夕日が僕らを照らしていた。
僕は泣いている彼女を抱きしめた。
どうしたらいいかわかんなくて。
だからきつく抱きしめた。彼女がつぶやいた。
「こんな世界いやなのよ。だから・・・、だから・・・」
彼女の抱える闇。
僕はなにもしらなくて僕も泣きたかったがこらえた。・・・
・・・
・・・
・・・
外に出ようかと僕が言った。
彼女は頷いた。
僕らはいつもの公園に行った。
彼女の手は震えていた。
だから手を繋いだ。
彼女の抱える闇があることはわかってる。
それがなんなのかはわからないが。
でも聞き出すことも出来ない。
ふたりは無言のままベンチに座った。
沈黙を破ったのはやっぱり彼女だった。
「なんでなんにも聞かないのよ。」
「・・・だって。・・・話しづらいんだろ?・・・聞いたら前みたいになっちゃうかなぁって・・・」
「バカ・・・」
また沈黙が続いた。それから彼女が一方的に話始めた。
自分の生い立ちから彼女は話始めた。
酒によった父親にひどい虐待をされていたこと。
小学校でイジメられたこと。
中学受験に失敗したこと。
高校受験も失敗したこと。
ルーム長のぐち。
親からの勉強のプレッシャー。
どいつもこいつもわがままでこんな世界から逃げたいためにクスリに手をだしたこと。
もちろんクスリに手を染めた人がどうなるのか知っていた。
けどもうどうでもよくなっちゃった。
と彼女は僕に話してくれた。
迷惑かけたくないから僕には話さなかったらしい。
全部話せて彼女はスッキリしたらしい。
「ねえ。私と一緒に死なない?」
彼女は言った。
僕は言えなかった。
死なないでと言えなかった。
そんなことで彼女の意志を変られないと悟っていたから。
彼女はもう後戻り出来ないとこまで来ていた。
「もし一緒に死んでくれるなら一週間後の夕方にここにきて」
そういっていつかとおなじように走り去って行った。公園の出口で振り返ってやっぱり彼女は笑った。
僕は帰宅した。
なんだか僕は疲れたらしい。
そのまま眠ってしまった。夢を見た。
そこはいつもの公園。
彼女と僕。
ふたりだけがそこにいた。僕は彼女としゃべっていた。
彼女は言う。
「来てくれたんだ。」
すかさず僕は言った。
「ごめん。オレは・・・死にたくない。・・・ごめん。」
彼女の顔を見ながらしゃべることは出来なかった。
彼女がどんな顔をするか考えただけでもつらかったから。
「・・・別にいいよ。じゃあ・・・。」
彼女のこえは震えていた。そして明るさを取り繕っていた。
彼女は続けた。
「じゃあ、私を殺して。」僕はなにも言えなかった。彼女は続けた。
「私が好きなら殺して。」僕は彼女が好きだ。
好きだけど答えなんて出ていた。
彼女を殺すことなんて出来ない。
彼女は僕の言葉を待っていた。
この時間が永遠のように感じた。
僕はようやく話を頭でまとめて言葉にした。
「・・・死ななくてもいいじゃん。」
なに言ってんだろ。
だけど僕の口はとまらなかった。
「もしオレが君を殺したらオレは犯罪者になっちゃうよ。もちろん僕は君が好きだけど殺すことなんてできないよ。てゆうか君が死ぬことなんてないじゃん。そんな過去なんて関係ないじゃん。クスリだってまだ大丈夫だよ。そうゆうの治す病院だってあるって聞いたことあるし。明るい未来があるかもしれないじゃん。だから死ぬことなんて止めろよ。悲しむ人がいっぱいいるから・・・。だから止めろよ。」
彼女の顔は暗い。
みなくても雰囲気でわかった。
「・・・なんちゃって。」
僕は付け足した。
意味のない言葉を。
それからまた沈黙が続いた。
長い沈黙だった。
彼女は死んでしまったように動かなかった。
僕はどうすればいいかわからなかった。
彼女は今何を考えているんだろう。
でもこれはわかった。
彼女は死ぬ覚悟だ。
何とかしようと僕は言葉を出してみた。
「寒くない?」
彼女はちょっと笑った。
よかった。
空気がちょっとなごやかになった。
「ありがとう。前にも言ってくれたよね。本当にありがとう。」
彼女は明るかった。
「もう行かなきゃ。」
彼女はセッティングを始めた。
どうやら首吊りらしい。
止めたい。
彼女を止めたい。
でも僕はベンチに座りながらしたを向いていた。
「ありがとう。」
真後ろの木から声がした。
僕は直ぐさま立ち上がり後ろを見た。
僕の脳裏にはこの世の終わりゆく様が鮮明に映し出された。そして彼女が死んだ。
残酷がそこに残った。思わず僕は目をつぶった。その出来事が信じられなくて。
とてつもない時間が過ぎているような気がした。
目を開けるとそこには人形になった彼女がいた。
体はまだ温かいけどこれはれっきとした人形だった。
僕は本当にこれでよかったのかわからなかった。
はっと起き上がった。
正夢になりそうな夢だった。
これが現状の未来なのだと思った。
午前3時。
どうきがいつまでたっても止まらなかった。
あまりにもリアルな夢が僕を闇に閉じ込めた。
いつまでたっても朝が来なかった。
猶予は一週間。
僕はそこまで追い詰められなくてもいいのにと彼女を批判的に感じた。
彼女の告白から一日目。
僕は学校を休んで自分の部屋のベットの上で丸くなっていた。
それからずっと彼女を生かすべく手段を考えた。
だが何も出てこなかった。
アイディアが降ってこない。
彼女の意志は岩のようにかたい。
いや、あれは鋼だ。
彼女はいつも真っすぐだった。
それはもう気持ち悪いほど。
ああ・・・。
なんでなんも出てこないんだよ。
と、悩んでいるときに一通メールが来た。
彼女からだ。
無題。
たすけて、とだけ書いてあった。
なにがあったのかはわからない。
だけど僕が行かなければという謎の使命感がどこからかふってきた。
彼女の家までチャリでぶっ飛ばせば10分程度だ。
寝巻のスウェットのまま家を出た。
そして無我夢中でチャリをこいだ。
11時のまちはほとんど誰もいなかった。
そして家についた。
インターホンを押した。
でもそのとききづいた。
親がでてきたらどうしよう。
ちょっと頭がパニックになった。
しかし全然人が出てこない。
開いてるのかな。
そう思いドアノブを引いてみる。
ドアは開いた。
が家の中は静寂だった。
彼女さえいないかもしれないと思った。
無意識に足音を消しながら彼女の部屋まで行った。
ノックをしてみる。
「入るよ。」
鍵は開いていた。
扉の向こうは乱雑になった彼女の部屋があった。
本棚は倒れているしカーテンも床に落ちて壊れた部屋がそこにあった。
壊れた彼女もそこにいた。
ベットの上に小さくなり震える彼女。
「・・・おい。」
僕が彼女にこえをかけると彼女はこっちをむいた。
だけどそれは彼女の顔をした獣だった。
獣は僕に向かって飛び掛かって来た。
僕はやられるがままやられた。
そのくらいしか僕には出来なかった。
攻撃がいつまでも続いた。
それで僕は攻撃が一瞬止まるのを見計らって彼女を抱きしめた。
暴れる獣が彼女にもどるまでずっと。
すると獣は暴れるのをやめ急に泣き出した。
泣いている彼女は言う。
「殺して。」
小声で何度も僕につぶやいた。
彼女はいつもの彼女にもどるのだろうか。
それがすごく怖かった。
けどちゃんと戻った。
そして僕の手をほどいて机のなかの怪しげなクスリを飲んだ。
そして彼女は普通の状態の彼女に戻って行った。
ベットにすわって彼女は言った。
「私、死にたくないよ。」
彼女はそのままだらんとよこになった。
僕はずっと同じ場所に立ち尽くしたまま。
お昼を知らせる音楽が鳴る。
「ねぇ。」
彼女の声。
「私を抱いて。」
僕はどうすべきかもわからなかったから彼女の言葉に従った。
こんな昼間に学校休んで僕は彼女を抱いた。
彼女はやっぱりまだ生きていた。
生きたいと彼女の体は訴えているようで僕は辛かった。
あたりは宇宙。
なのに僕は浮いていない。
列車のホームのようなところにしっかり足を着いていた。
向かいのホームに看板がある。
どうやらここは星空駅らしい。
僕はここで何してるんだっけ。
知らない場所で目が覚めた。
僕は裸だった。
彼女が隣にいた。
彼女はまだ寝ていた。
彼女も裸だった。
どうやら汚いラブホっぽいところ。
そうだ。
先週ふたりで町を出て都会に出て来たんだ。
少ない所持金とクスリをもってあてもなくふたりで町を出たんだ。
とりあえず一週間こんなかんじで過ごそしてた。
コンビニやファミレスで飯を食べていろんな話をして知らない町をぶらぶらして。
いろんなことをふたりでした。
ずっと一緒だった。
そんな日々が今日おわる。今日僕たちは帰る。
そして死ぬんだ。
町へ帰るぼくたち。
電車には車輪の音がうめつくされている。
ふたりはだまったまま。
昨日までの生活はもうかえらない。
走馬灯に写すために作った二人の思い出。
本当にもう戻らないのだろうか。
彼女の意図が最近よくわかって来た。
銀河鉄道の夜にこうしてふたりで飛び立ちたかったんだ。
ふたりならどこまでも行けると君はずっと思ってたんだね。
だからふたりで死ぬんだ。
ボックスに向かい合っていけるように。
長椅子にふたりならんでいけるように。
ぼくは彼女に隠れて買った安物の指輪を出した。
「結婚しよう。」
ぼくはいった。
恥ずかしいからしたを向きながら言った。
でも彼女は無反応。
そっと彼女の顔を見ると眠ってしまったようだ。
だからぼくはそっと彼女の指に起こさないようにそっとつけた。
白い光が不良少年少女を照らした。
太陽の光は僕たちを許すように温かくふたりをとかした。
なんとか探されることのなかった僕たちはもどってきた。
我が町に。
探されなかったのはちゃんと連絡をしていたから。
僕の家は余裕だったが彼女の家は大変だった。
でも彼女のお父さんは会社員で外国へ単身赴任でお母さんをOKと言わせるだけだったので何とかなった。
流石に連絡の取れる子供の捜索はされなかった。
そうやってつくった一週間のふたりぼっちの世界もそろそろ終わり。
僕らが町に着いた頃には日は暮れていた。
僕は日が暮れても彼女と歩いていた。
ただ彼女がそこにいればよかった。
そして僕らはあの公園まで歩いた。
いつものように僕らはベンチに座っていた。
だけど心臓の波打つ速さはいつもよりはやかった。
最初に彼女が口を開いた。
「・・・やっぱり私、・・・死にたくないよ。・・・」
彼女は今にも無くなりそうな声で意外な事をはなしはじめた。
「私生きたい。・・・でももう遅いよね。」
これはチャンスだ。
一週間頑張ったかいがあった。
馬鹿な僕は思った。
そして言った。
「そんなことないよ。」
強めに言った。
「君が生きたいって思うなら生きなきゃダメだ。」
長いトンネルを抜けてやっと光が照らした。
僕らはもう溶けることはないんだ、と僕は思った。
そして続けた。
「君に死んでほしいなんて思ってる人なんていないんだし。それに辛かった過去は過去だよ。僕らにはちゃんと明るい未来が来るんだよ。未来は明るいはずだよ。今日は銀河鉄道の夜なんかじゃないよ。君とオレはまだ生きるんだから、」
彼女は泣きそうだ。
それで僕は言った。
「だから生きよう。」
彼女は泣き出した。
泣きながらいっぱい頷いた。
空は星がキラキラ燃えていた。
彼女が僕に抱き着いた。
「大好き。」
僕は宇宙のまんなかで彼女を抱きしめた。
僕は久しぶりに家に帰った。
そして死んだように眠ってしまった。
彼女が死ななくて本当によかったという安心感から爆睡してみまった。
また宇宙だ。
星空駅のホーム。
駅員が僕になんか言っている。
僕はベンチで眠っていたようだ。
「お客さん、もう列車いっちゃったよ。」
どういうことだろう。
「それにしても冷たいねぇ、お客さん。連れの女性はいっちまったよ。あんた挨拶くらいすればいいのに。馬鹿みたいに眠っちゃって。まあいいんだけど。お兄ちゃん早く帰りなよ。こんなところで眠ったらしんじまうよ。」
やっぱりわからない。
連れの女性?
もしかして!
目が覚めた。
午前3時。
窓を開けると3月の風が僕を包む。
そんなことより。
僕はさっと家を飛び出しいつもの公園へチャリでぶっ飛ばした。
嫌な夢。
嫌な予感。
嫌な汗。
でもとりあえず公園に行くことだけで頭がいっぱいだった。
いつもの景色は夜だからというわけじゃなく不気味な雰囲気を出していた。
そうしてるうちに公園が見えてきた。
チャリを乗り捨ててベンチの方へ走った。
僕はベンチの後ろに不気味な影を見た。
「・・・ウソだ。」
ゆっくりゆっくり近づいてその顔を見た。
彼女だ。
「ウソだあああああ・・・。」
夜中の3時に僕の叫び声が無情に広がり消えた。
地面に膝を着いて僕は泣いた。
そしてまた叫んだ。
泣きながら立ち上がり、彼女の頬を触った。
彼女はひどく冷たくなっていた。
僕は震えながら泣きながら真っ白く冷たい彼女にキスをした。
「・・・ごめんね。・・・さよなら。」