重たいものでした。
住職さんに後部座席のドアを開けてもらい、車に乗り込みました。
赤信号で車は止まりました。
しょげて、小さくなっているわたしに、住職さんは優しく声をかけてくれます。
「そんなに落ち込まないで、…壊そうと思った訳ではないでしょうし…。鍵をかけないでいた私も悪いのですし、…」
「そうなんですか…。」
わたしはなんとか言葉に出しますが、声がデクレッシェンド(段々弱く)していきます。
思考回路はセーフモードに突入しそうです。
「鍵開いてたんだ…開いてたんだ…閉めちゃった…言ってくれれば良かったのに…。」
やっぱり、ほう・れん・そう は大切ですね。などと、わたしは呟いた後、考えていました。
すると、
「どうやら、降ってきましたね。」
「…」
わたしは、住職さんの声に、一拍おいてから、ゆっくりと反応し、窓の外に目をやりました。
「…ゆ…き…。」
暗く黒い夜空から、真っ白な小さな雪が静かに降ってきました。
「積もらなければ良いのですが…。」
そう言って、住職さんはゆっくりと車を走り出させました。
小雪の舞うなか、車は街を抜け小高い丘に差しかります。
すると、車は右にまがりました。
「もうすぐ、着きますよ。」
住職さんは、ルームミラー越しに、こちらを伺うように、声をかけて下さいます。
「はい…。」
まだ、セーフモードのわたしは、返事をするだけでした。
「そんなに大切に持ってなくてもだいじょうぶですよ。(笑)」
わたしは、左手にしっかりと、握られたドアノブに目をやり、あわててシートの上に置きました。
「えっと…。」
無理して何か話そうとしましたが、何も思い付かず、言葉を濁してしまいました。
そんなようす知ってか知らずか、にこやかに話を続ける住職さん。
「おや、今日は珍しくお出迎えがいるようですね。」
そう言われて、外を見たのですが、何も見えませんでした。
「こんな寒い夜に珍しいですね。」
「さぁ、着きましたよ。」
暗くてよく見えませんが、数寄屋造りの立派な建物の横に車が停まります。
わたしがドアを開け降りようとすると、何かが生い良いよく飛び込んできました。
「きゃ!」
小さく短い悲鳴を上げてしまいました。
見れば、丸々した黒い猫がこちらを見ています。
『ヌァ〜』
猫らしからぬ泣き声です。
…ちょっと、可愛くないかも…そんなことを考えていると、ツカツカ歩みより、デ〜ンと、わたしの膝の上に乗ってきました。
大きなオハギのような、それは温かくは、ありましたが、それなりに重たいものでした。