ドアが開きません
しばらくすると、住職さんが、帰ってきました。
手には、通夜振る舞いの料理を折り詰めにしてもらったらしく、大きなビニル袋をぶら下げています。
「待たせたね。支度するから少し待っててね。」
「はい。」
優しい住職さんの言葉に、なんだか気持ちが、ホッとしました。
手慣れた仕草で、袈裟を脱いで、法具を片付け、あっという間に身支度を整えます。
「さぁ、できた。とりあえず今晩は家にくるといい。家内もきっと喜ぶよ。」
住職さんがにこやかに言いました。
「お邪魔じゃないのですか?」
私がそう聞くと、
「二人と一匹だからご心配なく…」と、返されてしまいました。
お言葉に甘えて今晩は泊めていただきましょう。
「では、悪いけど、ここに入ったみたいに出てもらえるかな?」
そう住職さんに言われ、あまり気乗りはしませんが、私は両手を壁につけて、ゆっくりと身体の力を抜いていきました。
一瞬の違和感の後、すっと、溶けるように、わたしの身体は壁の中を通り抜けていきます。
壁から少しだけ顔を出して周りに人がいないことを確認して、ゆっくりと外にでました。
「やはり、わたしは幽霊なんですね。」
改めてわたしが人間では無いことを感じました。
目の前には、住職さんの車が停まっています。助手席側のドアの鍵穴に人差し指を近づけると、指先が鍵の形に変形していきます。
鍵穴に指を差し込み、手首を回すと、ドアの施錠が外れました。
「……。」
幽霊の前では、壁も鍵もなんのやくにもたたないのですね。
今のわたしなら、怪盗○○とか、世紀の大泥棒とかに簡単になれそうですね。
「別にそんなつもりはありませんが…。」
一人呟いてしまいました。
「そんなつもりはありませんて…何がですか?」
「ひぇ…?」
突然後ろから、住職さんの声がしたので、驚いてしまいたした。
人間に驚かされてしまう、幽霊のわたしって…
もしかして、幽霊失格なのかしら、いろいろと考えてしまいます。
「幽霊失格とか、訳のわからないこと言ってないで、車に乗って下さい。」
あら、わたしは、独り言を言っていたようですね。
少し恥ずかしくなってしまいました。
恥ずかしさを隠すように、生き良いよくドアを開けようとしました。
バキッ!
「?」
左手にドアの感触がありません。
左手に目をやれば、ドアノブだけを握っています。
ドアはまだ閉まったままです。
「あの…ドアが開きません…ごめんなさい。」
申し訳ないと思いつつ、左手に握ったドアノブを住職さんに見せながら、そう告げました。
「……そうですか…。」
そう言って、住職さんは硬直してしまいました。
空は暗く雲に覆われ、今にも、雪が降りだしそうな、そんな夜でした。