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Ep.8 公安部保安2課共和国広域刑事局捜査7係 #2

はあ、模擬戦って書くの大変ね、、、

というわけで間が空きましたが。


RWC勤務5日目。

転属前に短期講習である程度の訓練は受けているのだが、当然現役メンバーに敵うほどの実力は無いわけで。

2課ビル3階のトレーニングルームにて。カシーの左ストレートを躱したカオルはその喉元に軽く突きを入れる。が、カシーがカオルのしたいようにさせてくれる訳も無く、いつの間にか引っ込めた左腕で突きは体の内側にいなされた。

しまった、嫌な予感しかしない。腕が自分の内側にむけて避けられたということは、カシーがいるのはカオルが手も足も出せない身体の外側ということで……

案の定、カシーの右手、中指の第二関節がピンポイントで脇腹にめり込む。

「痛ったぁ」

臍の横のあたりを抑えて転がってしまった。

「寸止、め、って、いった、のに」

「あああああ、ごめんカオル」

日本の古い武道に伝わる尊いルールを完全に無視したカシーは手を合わせてこちらを見ている。


「おーい、そろそろ時間だぞ。出てこーい」

午後1時50分、アミがトレーニングルームの入り口のドアをガンガンと叩く。部屋の中にいる隊員は、アミ含め全員戦闘服にタクティカルベスト、各種防護パッドを身につけた突入時の装備。

そう、今日のメインイベントは、7係発足初の部署対抗模擬戦なのだ。


「突然だけど、明後日の午後、捜査3係との模擬戦が入った」

朝のブリーフィングでアミがそう言ったのは二日前のこと。

「なんせこのチームはほとんどが新人だから一応説明しておくと、今回の模擬戦はペイント模擬弾を用いた防衛戦になる。特に捜査係は制圧権も持ってることだし、かなり本格的な銃撃戦になると思っといてくれ」

試合概要を並べると、

・会場は2課ビル2階屋内フィールド

・RWC捜査7係(9人、攻撃側)対捜査3係(20人、防衛側)

・ペイント弾使用、被弾し次第試合から除外

・防衛側は制限時間30分を逃げ切るか攻撃側陣地を制圧すれば勝利、攻撃側は30分以内に敵チームの対象A、Bを確保すれば勝利

「……これ、恐ろしく不利」

爆発物のプロフェッショナル、クロが呟く。それはそうだ、兵力差は2倍以上で、しかも攻撃側のこちらのほうが勝利条件は厳しいのだから。

「ま、本当の事件で機動課の力を借りれなかったらこれくらいの人数を相手にすることもあるからな。いいだろう、本場さながらの状況」

さらりというアミの言葉を聞いて、狙撃組の二人は顔を見合わせている。

「さて、でも用兵の基本は『相手より数を揃えよ』って言うことだし、正面からかかっても勝てる気はしてない。だから、戦術で勝負するしかないな」

アミはホワイトボードに9人分のネームプレートを貼ると、それぞれの行動を書き込み始めた。


「で、私も数に入ってるんですよね、そりゃ……」 7係チームのエリア、アカは慣れない銃を手に苦笑いしている。普段は通信管制と交渉を担当するアカだが、試合に際し人数不足を補うために戦闘要員としてサブマシンガンを扱うことになってしまったのだ。

「ま、拠点防衛は私とショウさんもいるし、そんな緊張するこたないさ、アカ」

そう笑うアミ、そして同じく拠点に残るショウの手に握られているのはH&K MP5、世界随一の対テロ性能を誇る短機関銃である。とはいっても実銃ではなく、ペイント弾専用の高圧ガス銃だ。

「前線の4人がとっとと片付けてくれたならそれだけアカの負担も減るってわけだ。ま、長くても30分だしそんなに困らんとは思うがねぇ」

ショウの視線の先では、前線突入組の4人がそれぞれ準備を続けていた。


『正攻法でかかって勝てるとは思ってない。重要なのは、いかに敵と戦わずして勝利条件を達成するか』

アミのセリフがカシーの頭をよぎる。

『せっかくカオルとカシーっていう高機動のハンドガンナーがいることだし、敵前戦はスルーしてとっとと目標確保するといい』

と、いうことで、カオル、カシー、クロ、そしてユキの手にはペイント弾が装填された拳銃がある。

「と言っても俺たち爆弾が専門なんだがね……」

「模擬戦で爆弾使うわけにはいかないでしょ。文句いわない。あと私の専門建築で爆破じゃないから」

クロとユキのやりとりを横目に、カシーは配布されたフィールドマップの最終チェックを行っていた。

「私とクロさんのツーマンセルはスタート後左方から敵戦線を迂回してフィールド後方へ」

「んでもって僕らの組は右側から、と。……多分、目標が潜伏するのはフィールド中ほどから奥にかけての部分だな」

カオルが地図を覗き込みながら発した言葉を、首で肯定する。

「ハンドガン戦に慣れてる私たちが後方の警戒を担当することになると思う」

カシーはマガジンをチェックすると、再び銃に収めてスライドをコッキングした。

「まあそうなるよね。……って、カシーは自分の銃使えるんだったな。羨ましい」

支給されるペイント弾は9×19mmPraberam仕様弾のみ、そのため普段はS&W.38Special弾を使うカオルはめったに使わない支給品のワルサーP99をガンロッカーから出してきたのだ。

「今日びリボルバーなんて使うからそんなことになるのよ。1課ではペイント模擬弾なんか使わないからね」

不満げな顔のカオルは何か言おうとしたが、支柱のスピーカーから流れる音声にかき消された。

"スタートまで残り10秒です。各チーム出撃準備をして下さい"

それを合図にカシーとクロ、カオルとユキはアイコンタクトを交わす。

"5、4、3、2、1"

「Move(行動開始)!」

アミの指示と共に4人が前方へ飛び出していくのを、自陣後方のスナイプタワーの上からユータとチヒロは見ていた。

「んじゃ、こっちもやるか」

ユータは既に組み立てられているスナイパーライフルL96A1を手にとる。

「おー、早速ユキさんの方が敵さんに突き当たってる」

双眼鏡を覗いたチヒロがユータに報告した。


「ああもう、こんなとこで」

ユキは早くも敵に接近していた。壁の向こうには敵がいる。まだ気づかれてはいないが、気づかれればそれだけでリスクが増すというものだ。

屋内戦を想定した狭い通路で逃げ場は無い。こんなときのためにーー

「狙撃班、お願いします。コーナーS-01」

カオルがハンディ無線機に声をかける。

"見てますよ。Fire(撃て)"

その言葉とほぼ同時に、高い銃声が自陣の方向から響く。

"Hit(命中)"

その声に恐る恐る壁の向こうに首を突き出すと、そこに待ち伏せていた3係メンバーの銃から手首にかけて、赤い顔料がぶちまけられていた。

「うっわぁ……ナイスショット」

"どういう反応ですか、それ。ちゃんと武器狙ったのに"

引きぎみなユキの反応に、ユータが苦言を呈する。


戦列を組んで接近してくる敵の集団を、居残り組の3人で捌くのはかなり苦しい、とショウは考えていた。特に、その3人のうち1人が銃の扱いに慣れない者ならばなおさらだ。

と、思っていたのだが。

その「慣れない者」であるはずのアカは、ショウの予想以上に射撃を命中させていた。

そもそも、H&Kの高級サブマシンガンであるMP5はクローズドボルト・ローラーロッキングでセミオートでの精度を重視した銃ではあるのだが、アカはその性能を活かしきった射撃をすることができていたと言えよう。敵戦列をなぞるように銃口を動かし、敵の姿と交わった瞬間にトリガーを引く。

「ほう、結構当てるじゃないか」

感心するアミの言葉にニヤニヤと笑う。

「狙撃にでも転向するかね?アカ」

「……無理…ですよっ。射撃の……成績は、悪く無いんですけどっ」

バリケードから頭を出したり、引っ込めたり忙しい様子。

(ダメだこりゃ……全く余裕が無いな。ま、しばらくやってりゃ慣れるか)

ショウはセレクターをフルオートに切り替えると、後輩通信手への期待をこめて弾幕を叩き込んだ。


同じ頃、クロとカシーも3係の守備陣と接触していた。お互いバリケードに身を隠したまま、ひとしきり銃撃の応酬を交わす。

(さてさて……のこのこ出てきてくれる訳もないし、こっちからしかけるしかないか)

カシーはスタビライザー付きの愛銃を構え直す。

「クロさん、援護お願いしていいですか。至近距離射撃で一気に仕留めます」

「……マジかよ。了解だ、死ぬなよ」

クロは半ば呆れたような顔で言うと、覚悟を決めたように頷く。


「じゃ、いきますよ」

3、2、1。

ハンドサインでのカウントダウンを終えたカシーは、敵の潜む壁の裏へと走る。敵の足元をきっちりと抑えるクロの援護に感謝しつつ、狩人は獲物を捕捉した。

その距離、約2m。

もちろん抵抗されない訳はない。しかし、男がサブマシンガンの引き金を引き絞った時にはもう、カシーはその銃口より近い位置に踏み込んでいた。

M92FSを握った右手を突き出す。スタビライザーの全面に取り付けられたくさび形のフレームが男の体に食い込み、嫌な音を立てる。

「ひっ……Hit(被弾)!」

[銃口を押し付けられたら被弾判定]というルール通り、男の半ば悲鳴のような声を頭の片隅でキャッチしたその時、カシーは既に次の身の危険を感じていた。ヒットした男のすぐ後ろ、おそらくはツーマンセルで動いていたであろう背の小さい女性のサブマシンガン、その銃口がすでにカシーに狙いを定めていたのである。

(撃たれる!……でも避けられなくはない)

意を決して右に倒れこんだカシーの頭上を数発の9mm弾が通り過ぎた。

「頭下げとけ、カシー!」

怒鳴り声が聞こえたのでそのまま頭を抱えて待っていると、単発の銃声がいくつかと女のヒット宣言が聞こえる。

「ほれ立て。全く、アタッカーが捨て身の突撃してどうすんだよ」

おとなしくクロの説教を拝聴したいところだがそういうわけにもいかず、クロも今日ばかりはそれ以上何かをいうこともなかった。そう、目的はいち早く対象を確保することなのだ。





カオル、ユキの現在位置は、ユキの予想した目標位置までおよそ10m。

「さすがにガッチリ固めてきますね、ここまでくると」

身をかがめるカオルが隠れるバリケードにはペイント弾が休みなく打ち付けられている。

「私が回り込もう。不意討ちで撹乱する」

ユキの発言に、カオルは少し驚いた。

「できるんですか」

「私が見取図覚えてなかったらそれこそ問題でしょ」

ユキはニヤリと笑うと、立ち上がってそろそろと動き出した。

"先にカオルが気を引いて、立ち上がったところを私が狙う。OK?"

「了解です」

短いやり取りのあと。

"場所についた。カオルから敵集団を見て11時方向にいる"

フィールドの構造上、ユキが隠れていそうな場所はそう多くない。カオルは見当をつけると、新しい弾倉を押し込み、スライドストップを解除する。

「じゃあ、いきますよ……3……2……1……」

ゼロ、の声と同時にバリケードから半身を出し、ウィーバースタイルで連射する。頭を突き出していた1人を仕留めるが、あとの3人にはきっちりバリケードで身を守られ、成果を上げたといった感じではない。

"オーライ、カオル"

しかし1秒後、その隠れたはずだった男たちの側頭部に紅い顔料が叩きつけられる。

"そのまま撃ち続けて。二正面に持ち込む"

保安の部隊はその業務上、基本的に囲まれるのに慣れていない。バリケードの配置から、少数でも敵を一点に釘付けできる位置からの不意討ちを可能としたのは、無論ユキの記憶力と戦術だ。

「クリア」

"クリア"

ユキの新たな一面を知ることで、カオルはまた7係の実力を身に染みて感じることとなった。



保安の部隊はその業務上、囲まれることに慣れていない、というのは確かな事実だが、苦手かどうかは別問題だということを7係ディフェンス勢は証明していた。通常業務なら通信管制に徹しているアカが、アミやショウの予想だにしない打たれ強さ、もとい囲まれ強さを発揮していたのだ。

アカは肩から上をバリケードから出すと、正面に潜む敵を狙う。様子を伺って頭を出した瞬間に、敵のヘルメットにゴム状のペイントが付着していた。

"ホントに初心者かよ。こんなに当たらないぜ、普通"

ショウのコメントは聞こえている様子がない。一方アミはアカの状態に危機感を覚えていた。

普段戦闘をすることのないアカがストレスで銃声ノイローゼ気味になっていることは火を見るより明らかだ。珍しいことにそれが(戦術的には)いい方向に働いているのだが、この模擬戦が終わったあとの彼女の精神状態のことを考えると芳しくはない。

「ショウさん、一旦アカを下げましょう。あのままだと明日から主にメンタル面が心配です」

「……だな。俺が行く」

ショウが無線を通してアカに呼び掛けた。

「アカ、聞こえるか?無理すんな、下がれ」

無反応。アカは表情1つ変えず、敵を撃ち続ける。

"畜生め、狂ってやがる。被弾するまで撃ち続けるぞ、こいつ"

実を言えば、ショウの表現は的確ではない。むしろ「被弾しても撃ち続ける」可能性が高く、仮にそんなことが起これば、レギュレーション違反で7係の反則負けである。その暁には、アカの気性から考えて銃声ノイローゼによる心的外傷に留まらず「自分のせいで係が負けた」という自責の念に駆られるのは目に見えていた。アミにしてみればアカのような優秀な人材にそんなつまらない理由で辞められてはたまらない。指揮官としてのエゴである。

「アカを止めます」

"だと思ったよ。援護する"

ショウとアイコンタクトをとったアミは、銃撃の合間を縫って、アカのいる前方へと走りだした。



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