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Ep-7 公安部保安1課第5395小隊 #2

休日、しかも夜に仕事で呼び出されるのはよくあることで、その点はエミリナにとって何ら違和感のあることではない。むしろ事件の中身が異様なのだ。

被疑者は拳銃で住人を脅し、金庫の中の金およそ3万リパブリックドル(1リパブリックドル≒1ステイツドル)を奪って逃走。まあ共和国でよくあるレベルの強盗事件なのだが。

「あー、……撃ってますねー、これ」

手袋を嵌めつつつぶやいた彼女の視線の先には、天井に空いた弾痕らしき穴があった。

強盗犯は普通、銃は撃たない。銃声を聞いた近隣住民に通報される恐れが少なくないからだ。撃つときは住人を殺して逃げる時、のはずなのだが。

「こりゃあ、サプレッサーを使ったな。流通ルートも特定せにゃならんのか、面倒なことになったぞ」

隣で刑事班長のローも頭を掻いている。

このような住宅街で銃声がすれば、犯行が終わる前に周辺住民に気づかれてしまう。撃っている以上、何らかの減音措置をとっているのは明白だ。

ただし減音器は民間での流通は禁止されていて、製造業者も数える程しかない。かといってハンドメイドでは実用に耐えるものはできないので、おそらくはこういった兵器を犯罪者に流す闇の市場があるのだろう。

というかその存在自体は知られているのだけれど、今までその市場特定の手がかりが全くなかったというのが実際のところだ。

(まあ……マフィアがでるかヤクザがでるかといったところだけれど)

時代遅れの犯罪組織の名前をいくつか出してみたところで、共和国にはその片鱗さえも残っていないものがほとんどでさほど意味はない。

「まあアレですよね、独立から15年も経てば地方でマフィアの真似事を始める連中もいますよね、そりゃ」

正直な話、手がかりが見つかったからと言って手放しで喜ぶことはできない。被疑者がサプレッサーを使用しているなら、おそらく容赦無く撃ってくることだろう。銃撃戦になってしまえば無傷での逮捕は難しいのだ。

「人を殺してるわけじゃなし、殺害許可は万に一つも出んだろう。誤って犯人を射殺した、とかで部下の手が後ろに回るのもあんまり気持ちのいい話じゃないな」

ローが悩むのも当たり前の話だった。

「でも、もしこの事件が解決したとして、裏にある組織が全国規模だとしたら……2課のお出ましですかね」

「そうだな、そうなっちまえば俺らの出番は無い」

煙草に火を付ける。

「ただ、それまでの捜査はこっちの仕事だ。きちんとカタつけて、あとのところは2課に回す。それが俺たちのやらにゃならんことさ」

ローはそう言うと手袋をしっかりと嵌め直し、現場検証をしている鑑識に歩み寄った。



「まあ、気づいた人なんかいませんよね、屋内でサプレッサ使ったのに……」

カマとミコは周辺の聞き込みにあたっている。

「そうね、でも不審人物の目撃情報くらいはあるかも。ま、やるだけやっときましょ」

ミコさんは仕事はきっちりこなすタイプだな、とカマは思った。でも、彼女は地方中隊で採用されたノンキャリア保安官のはずで。

「ミコさん、こんなことを聞くのも失礼かもしれないですけど……仕事場での先輩後輩関係とかを除けば、ミコさんは年下のエミさんの部下で、さらに年下の僕と同じ階級なわけじゃないですか。テストひとつ余分に受けて合格しただけなのに、なんだか肩身がせまいなって」

「なんだ、そんなこと気にしてたの?」

ミコは何も気にかけないような声で答える。

「そりゃね、私は共和国公務員試験を受けられるほど頭はよくなかったし、いまも多分頭脳だけだったら勝ち目はないと思う。そういう意味で、私はエミリーを心から尊敬してるよ」

思いの外控えめな回答に、少し戸惑ってしまう。

「でも、現場の経験と勘なら負ける気はしないわ。むしろそれを使って、エミリーを助けてあげなきゃね」

本当にエミさんを尊敬してるんだな、とカマは感じた。

「……僕、ノンキャリアの人たちはみんなキャリア保安官を妬んでるものと思ってました」

「ひどいなぁ。そんなことないよ、少なくとも私はね。それに」

ミコは指を立てて、悪戯っぽく付け加える。

「運がいいことに、班長もエミリーもわりと良くしてくれるし、ここで活躍しておけば昇進のチャンス、ってね」

ウインクするミコに、思わず苦笑いをしてしまう。10近く年上の真面目な同僚の呼びかけに応じて、カマは職責を果たすことにした。


現場の状況は混迷していた。

「出ませんねー、手がかり……」

被疑者はどうやら周到な用意をした上で犯行に及んだらしく、指紋や下足痕の欠片さえも出てこない。

「やれやれ。こりゃ相当な手練れだなぁ」

殺し屋か、とローが呟いた、その瞬間。

2発の銃声が鳴り響いた。減音器など使わない、拳銃弾を打ち放したらしい乾いた音。

(近い……外に、カマちゃんとミコさんが!)

思わず、エミリナは外へかけ出していた。


「カマ!頭ひっこめて!」

何が起こったのかわからないうちに、カマはミコに押し倒されていた。先ほどまで自分が立っていた位置のすぐ横にある壁に、2発の弾痕が刻みつけられる。

倒れこみながらも、ミコは腰のホルスターから銃を取り出していた。隠れた植え込みからそっと顔を出し、様子を伺う。

「銃撃……誰だ⁈」

カマがようやく事態を理解したころには、すでにミコのリボルバーから放たれた第一射が暗闇に浮かぶフラッシュライトの光へと直進していた。直径0.357インチの鉛の塊は、しかし素早く回避されむなしく空を切る。

植え込みの中に引き込まれたミコの頭があった位置を、再び銃弾が通過した。

(埒が明かない……!)

何にせよ、立ったまま物陰に隠れて撃つことのできる敵と一発ごとにしゃがまなければいけない自分たちでは、ハンディキャップが大きすぎだ。ミコはカマにナイトビジョンを装着するように促すと、自分も赤外線ゴーグルをかける。

(カマ、左の柱まで走れ。私は右から行く。そこからは様子を見て撃っていこう。頭と心臓だけには当てないように)

小声でそう伝えると、ハンドサインでカウントダウンした。

(3、2、1ーー)

ダッシュを始めた2人がいた場所を、また2発の銃弾が突き刺す。


カマはミコの指示通りにコンクリートの柱の裏へ隠れると、半身になって襲撃者を狙う。突然2方向からに変わった射撃に警戒しているのか、なかなか顔を出さない。カマはその影に向けて引き金を引くが、弾は壁に阻まれてその目標へたどり着くことはなかった。

(えいくそ!)

もう一度柱の陰に隠れる。ミコの銃声もまた不発に終わった。殺し屋の弾もまた、柱に弾痕を残すばかりだ。

こうして、銃撃戦は膠着する。


「ミコさん!」

エミリナの叫び声が後ろから聞こえた。

(しっ。敵は1人、そこの壁の裏。わりとしつこい)

敵に聞こえぬようハンドサインで状況を伝えると、エミリナは人差し指の先をこめかみにあてて目を閉じる。

(あんまり長い時間ここで銃撃戦を続ける訳にはいかない……どうすれば?)

エミリナの思考の停滞する、その時彼女の肩を叩いたのはミコだった。

「エミリー、私に考えがあるんだけど」


エミリナは殺し屋の潜む壁、その反対側にぴったりとはりついていた。銃撃の音に紛れ、柱からここまで移動したのだ。

まだ左右の柱にはミコとカマが潜んでいる。エミリナは2人にアイコンタクトを取ると、小さく頷いた。ミコの銃を握った腕が上がり、引き金を引く。

6発の銃声の後、今度はカマも続けざまに引き金を引いた。合計して都合12発の.38Spl弾が、壁に、その切れ目に、地面に弾痕を穿つ。

止む銃声。息をひそめる2人の保安官。

(出て来い……!)

エミリナはそう願い、銃把をきつく握り直した。

そのとき。

突然に止んだ銃声に、2人を仕留めようと思ったのだろう、男の半身が壁を超えてエミリナの立つ側へ出てくる。引き金が引かれ、撃鉄が落ち、銃口からは鉛玉が直進して標的の息の根を止めーーなかった。

すぐ横に潜むもう1人の保安官、彼女の右手に握られた拳銃から放たれた45口径が引き金を引く前の銃を男の手から吹き飛ばし、そして左手に携えられたもう一挺のM1911が男の側頭に添えられている。

「公務執行妨害罪で現行犯逮捕します」

冷たい女の声に絶望したのか、男はその場で両手を上げた。


その後、銃声を聞きつけた住民の通報で駆けつけた刑事2班に男を引き渡し、エミリナ達は強盗の事件現場に戻ることになる。

「やれやれ、今日もひと騒動だ」

嘆息するエミリナにミコが声をかける。

「エミリーが2丁拳銃で本当に良かったわ、武装解除と犯人確保を同時にできる人なんてそうそういないもの」

あらかじめ疑ってはいたが、男はもう1挺の銃を持っていた。もし、ミコがあの作戦を実行していたら、きっと銃を弾いたところで男が左ポケットにいれていた予備の銃で撃たれていたに違いない。

「あそこまで粘ってくれたミコさんのナイス判断ですよ」

「……あの作戦も賭けだったんだけどね、敵さんが顔出してくれるとも限らなかったし」

一瞬の沈黙。

「……グッジョブ」

ミコは驚いた。エミリナが年上に向かって砕けた言葉遣いをするのは珍しい。でも、なんとなくそれが、彼女の心からの賛辞に思えて。

「……グッジョブ、ユートゥー」

エミリナも、驚いたように顔をあげる。後輩上司と先輩部下は、思わず顔を見合わせて笑った。








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