Ep-3 首都第1111街区 #1
12月某日。2人あわせて休暇を取ったレネとホノカは、地下世界の首都1111街区「ニューヨーク」のとある屋内射撃場にいた。レネの構えたベレッタM93Rから撃ち出された9mm弾がターゲットのほぼ中央に丸い穴を開ける。
「なんというか……待ち合わせ場所って感じじゃないんだよね、毎回思うけど」
ホノカがボヤく。
この射撃場はガンショップに隣接して建造されたもので、その店主が2人にとっては縁のある人なのだ。
「ま、しょうがないさ。彼女がやりたいことは多分こんなところでしかできないし」
彼女、というのは、士官学校でホノカの同級生にしてレネの後輩であった、現在は東部の街で保安官をしているここのオーナーの娘。まあそれだけで普通の女の子でないことは明らかだが、彼女は「いろんな意味」で変人と言われている。
レネが再び、ターゲットの中心に照準を合わせた時。
「せんぱーいっ、ホノカーっ」
扉がバタンと開く。レネは嫌な予感がして抜弾、銃をホルスターに格納した、その瞬間を丁度狙ったように。
「お、ひ、さ、し、ぶ、りぃっ」
ホノカではなく、わざわざ銃を持っているレネに飛び付いてきたのは東部勤務の赤髪保安官、エミリナだった。変人ポイントその1、過剰を通り過ぎて過激なスキンシップ。いつものことすぎてホノカは苦笑してしまう。
「元気そうね、っていうか元気ね、エィミィ」
一方、エミリナに押し倒された形になっているレネは。
「……なあリナ、僕、今、銃持ってたんだけど。危ないからホノカの方にしとこうとかちょっとでも思った?」
「微塵も思わなかったです先輩。反省してます」
わざとらしい敬語でビシッと敬礼。レネは呆れ返った様子でホノカに視線を送る。
「なんでこういう安全意識の乏しいのが保安の現場で生き残ってんだろ」
「さあ」
思わずホノカもくすりと笑った。
「……で、やるんだな、今回も」
「もっちろん」
エミリナが帰省するたびに、レネたちを呼びつけて行う行事。それが、
「第4回、火器検!」
一言でいえば、車検の銃版。父親と同等かそれ以上に豊富な銃の知識を持つエミリナが、レネやホノカの銃を点検する、というものだ。変人ポイントその2、極度のガンマニア。実はこの行事、偵察課の2人にとっても、エミリナの薀蓄が聞ける貴重な場だったりする。
これにはもう慣れっこで、ホノカは抵抗せず二丁の拳銃を差し出す。
「まずは、デザートイーグル .50AE、と」
1982年に発売されたときには、エミリナ達保安官に支給されているS&W M19と同じ.357マグナム弾が使用されていたが、薬莢の形状の問題で使用弾薬を変更した。1992年に.50AEバージョンが発表され、「世界最強の自動拳銃」と言われている。
「……これ前回も言った気がするんだけどさ」
手にとったエミリナ、自分が母親から言われたセリフをそのまま返す。
「年頃の女の子が50口径弾なんて片手でぶっ放すもんじゃありません」
「45口径だって18歳の女の子がガンガン使うもんじゃないと思うよ」
エミリナの使うガバメントの弾薬も、強力で有名な.45ACP弾。ホノカの.50AE弾には敵わないが、それでもやはり「成人男性でも、扱える人は限られる」はずだ。
「なんでそれをホノカが言うのよー。私は体も大きいし、体力だって男子に劣らないくらいはあったでしょう?それにひきかえ」
きつい表情をしたエミリナはホノカをびしっと指差す。
「体力はともかく、身長150cm15歳の女子士官候補生が、偶然手が大きくて握れたからって理由でデザートイーグルを試し撃ちしたってだけで充分怪我するかもしれないのに、それが無事撃てちゃったからってそれを仕事で使うって一体どういうことよ!しかもあんた片手撃ちしてるんでしょ!いつか絶対怪我する」
「お前に「エィミィに言われたくない」と思うぞ」
タブルツッコミに唖然とするエミリナ。
「……なんというか、コンビネーション向上してない、先輩」
「そりゃまー、同僚でパートナーだからな」
エミリナ、大きな溜息。なんというか、銃を前にすると人が変わる気がする、とレネは思った。普段のほわほわとした雰囲気はどこからも無くなっている。
「ま、いいや。つづき、つづき」
そう言ってデザートイーグルを分解し始める。
「ふうん……丁寧に手入れしてるのね。強いて言えばオイルの量がちょっと多いかなぁ」
「自分でやってるんだけど、割とうまく行ったかな」
ホノカ、Vサイン。
「さて、次はグロック18C……プラスチックフレームってどうしても好きになれないんだなーこれが」
この銃の原型となったグロック17は、1983年に軍用の「Pi80」として公表された拳銃が、1985年アメリカで民間用に発売されたもの。その後フルオートを実装した18、改良型の18Cが開発されたが、この二機種は当初軍や警察などの公的機関にのみ販売されていた。機獣の襲来後民間にも販売されるようになったが、恐ろしく高価で有名な拳銃。
「ま、グロックがもともと銃メーカーじゃないのは知ってるし斬新なデザインは私は好きだよ。プラフレームだってきっと好みの問題じゃない?」
ホノカのコメント、実はパートナーのレネもそんなに好きでないことを知った上での発言だ。
エミリナがスライドを外し、内部を点検。
「ありゃ、なんかやたらと綺麗だな」
ひょっとしてオーバーホールとかしてる?と問う銃整備士に、18歳(設定)の偵察兵は苦笑しながら答える。
「やれたらいいんだけどね。さすがにそこまで器用じゃないよ」
まあその銃は私の生命線だから、マメに整備に出してる。ホノカはそう言った。
ははあ、道理で。唸りながら一通りの点検を終えると、エミリナはグロックを机に置き、レネの方を見た。「さあ、出してください」無言でそう言われているようだ。レネは諦めて、ホルスターからM93Rを取り出した。