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Ep-1 防衛部偵察課第17小隊 #1

ガンアクションが書きたかったんですよ。

あんまり撃ってない気もしますが。

戦人形ーコンバットドールー #1


"どうだ、ホノカ"

無線機の声に耳を傾ける。隊長、ケイからの通信だ。

「ここももうダメです。少なくとも、『ヒト』は居ません」

"だろうな"

少し自嘲的な声を聞きながら、ホノカはあたりを見回した。都市、というか、かつては都市であったところ、と言った方が良いだろうか。少なくとも、ここには人間の住んでいる建物はなさそうだった。

ここは「地上」、人類史上最大の投棄区画ーー15年前、どこからともなく現れた敵性体から逃れるため、人類はこの場所を離れて地下深くへ逃げ込まなくてはならなかった。投棄したとは言っても、ごく一部は地下世界に避難することを拒否し地上に留まったらしいが、その消息は杳として知れない。

"今日はサンプルは無いようだね?"

ケイの問いかけに、ホノカは少しむっとしたように答える。

「運がいいのか悪いのかは分かりませんけど、今のところ接敵はしてません」

"運は良いのさ、もちろん"

ホノカ達偵察課第17小隊の仕事は地上世界の偵察、そして『可能であるならば』敵性体サンプルの回収。主目的の関係で、『必ず帰還すること』が条件の任務ではある。しかし、実物としての収穫があった方がより良い……つまり、「接敵して撃滅した上で帰って来い」というのが少なくとも地下の学者の意見の一致らしい。それに反してこの部下思いの隊長は、隊員が死ぬよりはサンプルが無い方がマシだと考えているようだ。

"まあ何にせよ、『撃たれても死なないカラダ』でも何十発も撃ち込まれれば壊れるんだ。あんまり無茶するんじゃないぞ。じゃあ1700に帰投予定で変更は無いな"

「イエッサー」

ホノカは軽快な返事の後、通信を切る。そして、横に転がっている相棒に声をかけた。

「だってさ、レネ君」

「ううう、ダルい」

そうボヤくメガネの青年は寝返りを打つ。ダラダラとしながらも右手はライフルのグリップを握ったままだ。職業軍人としてせめてものプライドだろうか、とホノカは思う。


「やっぱり、ちょっと信じられないな」

街の中を歩きながら、ホノカは独りごちた。レネが耳聡く聞きつける。

「何が?」

「こんなところに、ほんの十何年前まで人が住んでた、ってこと」

まあ無理もない。その生い立ちの特殊さ故、ホノカは地上世界にヒトが住んでいた時期を知らないのだから。レネは眼鏡をずり上げつつ答える。

「逆に、人がいなけりゃこんな街もできなかったんだけどな」

「理屈では分かるんだよ」

ホノカは、拳銃のアイアンサイトを覗き込みながら歩き続ける。

「でもさ、私はこの街が人で溢れていた頃を知らない。15年前までは街だったってことは知ってるのに、何だか古代遺跡を見てる気分だ」

レネは妙に納得した。自分が地上で暮らしていたのは8歳までだ。その間の記憶があると無いでは、地上世界の印象が大きく変わる、というのもまあ分からないではない。


「あ、そう、忘れてたけど」

不意にホノカが振り返り、もと来た道の遠くを見つめる。

「なんか追っかけてきてるね。6体か7体くらい?ごめん、あと3分早く気づいてれば逃げられた」

「……それ、忘れたって言うかな。っていうか、逃げられないんだ」

「むしろレーダー機能があることを忘れてた」

「ド阿呆。帰ったらメンテに出してやるこのポンコツ」

何度もそんなこと言いながら本当に出したこと無いくせに。ホノカは小さく笑いながら愛銃のスライドをコッキングし、薬室に弾薬を送る。

「その前に、とりあえず帰るぞ。こんなとこでお前と心中なんてぞっとしない」

レネもライフルに装着したドットサイトの電源を入れ、初弾を装填した。

「心外だなぁ。レネ君より先に、私が死ぬなんてあり得ないでしょ」

レネには、未だこの屈託なく笑う少女が実は兵器であるという事実に納得できていなかった。おそらくこの先も、納得できはしないだろう。それでも、自分とホノカの命を守るために、生きて帰るために、レネは唱えなければならない。一人の少女を、戦士へと変える呪文を。

「第一種限定解除、コンバットモード。状況開始」

『As you wish. First limiter unlock,firing lock cancel』

何度も経験しながら、ちっとも耳慣れない「システム」としてのホノカの声。彼女は武器の二丁拳銃を構えた。

レネの推測が正しければ、リミッターを解除すると管制人格であるホノカの意思や表情はほとんど表に出てこない。おそらく、火器管制や姿勢制御に手いっぱいなのだろう。それにも関わらず、彼女は毎度毎度、つっかえながら同じことを言うのだった。

「レネく…ん、必ず…生…きて…帰ろ…う、ね…」

「当たり前だ」

おそらくホノカにはもう聞こえていないだろう。しかし、このやりとりは、「必ず生きて帰る」という二人の意志を、より強いものへと変えるための儀式だった。


双眼鏡を覗くと、向こうの方から、灰色の何かがかなりの速さでこちらへ向かってくるのが見える。

「来ます、6体です」

"そうか、気をつけろよ。とにかく生きて帰って来い。できればサンプルも"

「隊長、いまはコンバットモードだから聞こえてないと思いますけど、ホノカが聞いたら怒りますよ」

"いやあ、すまんすまん"

なんつー能天気隊長。

やがてそれは丘を越え、道を駆け抜けて姿を現す。一見すれば、狼か何かが灰白色の鎧を着込んでいるように見える。しかし、レンズの嵌め込まれた丸い一つ目と、駆けるたびにガシャガシャと鳴る金属音が、それらが有機的な何かで無いことを物語っていた。

敵性獣形金属機巧体、通称「機獣」、その赤く光る目をレネが肉眼で確認するのとほぼ同時に、その肩口に設置された機関銃が火を吹く。

「Charge(突撃)!」

合図でホノカが飛び出し、レネは後方で支援する。

機獣の群れに飛び込んだホノカの動きは凄まじかった。襲いくる5.62mm弾の弾幕をすり抜け、左手に握ったグロック18Cのフルオート射撃で足を止める。そして、左手のデザートイーグルから放たれたFMJ弾で頭部を破壊。世界最大の拳銃の威力は伊達ではない。

一方、レネも健闘していた。M4カービンをセミオートに設定し、ホノカの背後に忍び寄る機獣を確実に狙撃する。当然、レネも標的になるが、フルオート射撃でしばらく耐えればホノカの支援で先が見える。1年半と少しの共同生活で得られた最高のコンビネーションだった。

やがて、ホノカの正面から飛びかかろうとした最後の1体の前肢関節を5.56mm NATO弾が貫通、頭部を.50AE弾に吹き飛ばされて全ての機獣が動きを止めた。


「状況終了、限定設定。お疲れ、ホノカ」

声をかけると、戦闘中瞬き一つしなかった顔に急に表情が戻る。

「お疲れさ」

ま、と言おうとして、脇腹を押さえる。

「……被弾した」

ある意味当たり前だと思う。普通の人間なら死なないであの状況を切り抜けるのはまず無理だ。至近からのライフル弾の嵐を全く被弾せずに避けきるなど神業でも不可能である。

恥ずかしがるホノカを説得してシャツの裾を捲ると、右脇の擬似皮膚を切り裂かれ、内部の金属フレームが露出していた。

ヒューマノイドに擬似皮膚を被せ、人間そっくりの動きと戦闘技術をプログラムしたロボット兵器「コンバットドール」……それほど生産数は多くないらしい。他のロボット兵器と比べても、生産コストが高すぎるのだという。そして、兵器の仕様には100パーセント必然性と必要性が伴う。ここまで精巧で、ヒトに酷似していて、命令に背く危険性さえ孕んでいる高位の人格を与えられたヒューマノイドが、なぜ兵器として製造されているのか、レネはまだ知らない。ホノカ自信は、それについては全く語らない。話したく無いとも言っていた。そしてレネは、一人の「人間」としてのホノカの意志を尊重したいと考えている。

何にせよ、方面中隊長以下ホノカの正体を知るものが17小隊長とレネの二人しかいないことが、彼女の擬態の精密さをよく表している。

出来るだけ普通の怪我に見えるよう、包帯を巻いてやる。

「仲間を呼ばれてたら厄介なんだけど、大丈夫かな」

「少なくとも私のレーダーの観測範囲にはいないよ」

時々自分が機械であることを忘れるなんて、やっぱりホノカの人間味は異常だ。レネはそう感じた。

「生きて帰ろう」

レネは軍人として、仲間として、人間として、優秀な軍人であり、自分の仲間であり、また一人の人間であるホノカに語りかけた。

「うん」

その心中を知ってか知らずか、ホノカはうなづいた。




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