学生アザレア
ここから先は、僕の領域
「どうでもいいけど、僕、君が嫌いだから」
僕、九頭竜王歌は告げた。
残酷に。
非情に。
冷徹に。
それが、全ての始まりだった。
僕、津浪央会の一日はまず寝ぐせを直すことから始まる。
「……全然直らない」
不機嫌につぶやき、整髪料を取り出す。
シューっと音を立てて整髪料が頭に吹きかかる。
「……」
整髪料でなんとか見た目をまともにすると、次は朝ごはんの支度だ。
それが終われば自学自習。
昼ごはんを食べ、ゲーム。
晩ごはんを食べて、寝る。
僕の一日は、無価値だ。
そんな毎日を過ごしているのにはわけがある。
「魔術回路・入力」
右手に青い線が走り、光が辺りを包む。
そして、現れたのは大剣。
それを一通り眺め、つぶやく。
「可も不可もなし、だな」
僕は魔術師だ。
周りとは違う。
だから、人と違う生き方をする。
それが、逃げだって分かっている。
でも、変える努力はしていない。
昔、偉い人は言っていた。
人生は坂道だ。
凡人は下り坂を選び、偉人は上り坂を選ぶ。
なら、僕は凡人?
問いかけは中に消えた。
夜。
就寝時間。
「誰か、僕の日常を壊して」
そんな願いは、これから七時間三分後に叶うことになる。
「……ここは、夢?」
明晰夢を見ていた。
ここまでは、全部僕の妄想。
魔術師なんて嘘で、自学自習なんて嘘。
全部嘘で全部泥だらけ。
津浪央会なんて居なくて、ここにいるのは、九頭竜王歌だけなのだから。
「……ん、朝か」
僕は起きた。
名前以外はごく普通の家庭で育った僕は、今年で中学三年生になる。
周りより大人びた性格だった僕は、受験勉強をせず、アクビを咬み殺す。
学校。
「おはよう」
「おはよー」
「……」
僕は他人と違う。
中身が違う。
大多数の異常者は自身の異常には気づかないが、僕は気づいている。
生まれつきの異常者。
だから、今日も人間に擬態する。
「おはよう、王歌」
「おはようー! 今日もいい天気だねー」
作り笑顔。
筋肉が引きつる。
ああ、友達ごっこなんてつまらない。
さっさと大人になって、搾取される側から搾取する側になりたい。
そんなことを知ってか知らずか。
世界は、僕にチャンスをくれた。
授業中。
「……」
背中を突つかれる。
「?」
振り向くと、後ろの席の子から無言で紙を渡される。
「なに?」
紙を開く。
それはラブレターだった。
僕は、それを破りかけ、躊躇して、結局破った。
放課後。
二人以外誰もいない教室。
そこに僕と彼女はいた。
「王歌くんっ! わたし、あなたのことが……」
セリフをさえぎる。
「好き。知ってるよ。手紙見たから」
「なら……」
「本当に僕が好き?」
「はいっ!」
「なら……」
僕はニヤリと笑う。
『この学校は占拠されました』
そんなアナウンスが流れる。
これは、ほんの暇つぶし。
僕の僕による僕のための暇つぶし。
「さあ、ようこそ、僕の領域へ」