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ヴァルラート戦記  作者: 結月 薫
第2章 フリーダム
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フリーダム53

 ダグラスのトラックは町外れの一角に止まった。そこは廃車置き場のようで、様々な壊れ方をした地上車が置かれている。

 運転席から降りたリョウは荷台に駆け寄って、ブルーシートをはずした。ジュリアたちが一人一人降りてくる。荷台は意外と高く飛び降りなければならないのだが、アリシアーナは躊躇していた。飛び降りることができずにいる彼女に、リョウが手を差し出す。アリシアーナはほっとした表情を浮かべた差し出された彼の手にしっかりと掴まり、彼に抱きつくような形で地面に立つ。

「大丈夫か?」

 リョウの気遣いにアリシアーナは小さくうなずき、

「ごめんなさい。迷惑ばかりかけてしまって」

「気にするなとは言わない。だが悔やむな。この経験を今後に生かしてくれれば、俺たちが苦労したかいもある。そう考えてくれ」

 アリシアーナはぱっと顔を上げた。考え方の転換だった。今までずっと、彼女が勝手なことをしたために、リョウたちは途中で作戦を中止することもできずにいたし、なにより戦闘になるだろう場所に彼女を連れてこなければならなかった。しかも万が一、何かあったら、リチャードが彼らのことを無事にすませるはずはない。今になってアリシアーナはそのことに気づいた。自分の起こした行動は自分とっては軽い気持ちであっても、彼らには違うのだと。


「リョウ!」

 運転席から降りてきたマーシアが何かを放り投げる。とっさに手を伸ばして受け止めたそれは銃だった。

「グラントゥールの最新式だ。おまえにやるよ」

 リョウは感触を確かめると、

「試作品か?」

 と聞き返す。それを聞いてマーシアが笑った。リョウがヒューロンでのことを思い出したように彼女も思い出したのだろう。

「心配するな。それは生産ラインに乗ったものだ。ただし非売品だけどな。帝国に売り込んでいるのは二代前のモデルだ」

「最新式のは売り込まないのか?」

「当然だろう。最新式はいろいろと不具合がでるものなんだ」

 マーシアから受け取った銃を確かめていたリョウはにやりとマーシアを見やる。マーシアも笑みを浮かべる。不具合が出るというのは建前だ。最新式の物は必ずグラントゥールが独占するのだ。その後で帝国やほかの者たちに売られていく。リョウはそれまで身につけていた銃をホルスターからはずしてエディに渡すと新しい銃を納めた。

「準備はいいか?」

 リョウはジュリアたちの様子を確認すると、マーシアにうなずいた。マーシアは廃車置き場の隅にあるマンホールのふたを引き上げる。

 汚水の臭いが鼻を突く。顔をしかめるジュリア。アリシアーナはあからさまな嫌悪の表情を浮かべて、

「ここに入らなければならないのですか?」

 と思わずリョウの顔を見た。

「ついて来たくない奴はついてくる必要はない」

 マーシアがにべもなく答える。ここに残ると言うことはこの惑星から脱出することはできないと言うことだ。そのことはアリシアーナも理解できる。彼女はやむなくジュリアの後に続く。最後尾はリョウだ。

 マーシアたち一行は警戒しながら、汚水の流れる脇を歩いていた。時折壁から水がしみ出ている。

 いったいどれぐらい歩いただろうか。マーシアが不意に立ち止まった。

「その先にかつて資材を置いていた場所がある。そこで待機していろ。私とリョウは外に出て、アーサーを連れてくる」

 最後尾にいたリョウがマーシアと並び立って、ジュリアたちを見つめる。

「心配はいりません。私がしっかりとみんなを守りますから」

 エディが安心させるように明るく応じる。リョウは彼にうなずいて見せ、

「ジュリア、アリシアーナを頼むぞ」

「わかっているわ。あなたも十分に気をつけて」

 リョウは大丈夫だというように笑った。

 そして彼らにくるりと背を向けると、マーシアを見た。マーシアがうなずく。

 リョウは外に出る梯子に手をかけた。


 マンホールのふたを押し上げ、外に出たリョウはプレハブの建物の壁に身を潜め、あたりを警戒した。周りに人影はない。リョウはマンホールに隠れているマーシアに合図を送る。彼女はすぐさま外に出ると、リョウと同じように身を潜める。

「資材倉庫のようだ。イリス・システムが探し出した下水道網の地図は正確だったな」

「イリス・システムはグラントゥールの誇る人工知能なんだぞ。彼女たちが聞いたら機嫌を悪くするぞ」

 リョウは声を立てずに笑った。

 マーシアは情報端末を取り出して、宇宙港の見取り図を確認する。彼らのいるところから効率よくアーサーのいるところにたどり着かなければならない。

「特務機関がどこを根城にしているかだな。ダグラスはなんて言っていたんだ?」

「はっきりとはわからなかったらしい。この宇宙港が閉鎖されてから、特務機関が密かに使用していて、時折非合法な活動が行われているということだけだ。ただアーサーがここに連れ込まれたことだけは確かだと」

「罠の可能性があるな。俺は捕まってもさして影響はないが、君が捕まるとまずいな。何しろ君はグラントゥールの人間だ」

「気にするな。そんなへまはしない。私を捕まえようと思うのなら、向こうが痛い目に遭うだけだ」

「あまりやりすぎるなよ」

 リョウはそう答えると、マーシアに管制室にいくことを提案した。

「帝国軍が管理する宇宙港だったのなら、離発着の管制だけをしていたはずはない。このあたりの基地司令部としての機能もある」

 そこで詳しい情報を手に入れれば、特務機関がいる場所も特定される。

「もちろん、そこに罠がある可能性もあるな」

 マーシアが心持ち楽しそうに言った。アーサーを囮として使うつもりなら、管制室に向かうのは予測できるだろうし、そこで待ち伏せも考えられる。

「だがどちらにしても向かう必要はある」

 リョウの言葉にマーシアが大きくうなずき、そして管制室のある建物に向かって走り出した。


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