ヒューロン25
ヒューロン25を改めて投稿しました。25話がなぜか26話の内容となっていました。詳しくは活動報告にて
『セレイド鉱石輸送船・スレヴェトーナ号、襲撃……セレイド鉱石強奪』
『ウェリントン商船団襲撃』
『惑星アーリス上の軌道衛星破壊』
ニコラスたちが関係したと思える先頭の記録が情報端末にはまだまだ映し出されていた。静かにその情報を読み込んでいくリョウの表情が次第に厳しくなっていく。それらの攻撃がいったい何のために行われていたのか、彼の思いはそこに行き着こうとしていた。概要を見ただけでも帝国に何らかの影響を与えるための襲撃とはとは思えなかった。
念のため『ウェリントン商船団』の項目を選んで詳細を表示させる。
「ウェリントン商船団――ユーシリア星域における商船団の組織。規模はヴァルラート帝国に登録されている商船団の中ではBランク。ユーシリア星域内では第二位の規模を誇っていた。ただし帝国歴482年3月、ヨハン・シュルツ解放戦線の残存部隊による度重なる攻撃を受け、その勢力は以前の三分の一に低下。ユーシリア星域内でのシェアを落とし、アルシオール王立商船団に吸収される。その結果アルシオール王立商船団はユーシリア星域内では第一位のシェアを手に入れる」
リョウは続いてスレヴェトーナ号のことも調べた。するとまたしてもアルシオールという言葉が出てくる。
帝国から星域間交易の許可を得ているスレヴェトーナ号は、ユーシリア星域のみしか交易できないアルシオール商船団にセレイド鉱石を売却する予定だった。しかしアルシオールが条件変更を持ち出したために、スレヴェトーナはセレイド鉱石を別の星域の商船団に売却することにしたのだ。そして新たな売却先に向かっている途中で、ニコラスたちに襲われたのだ。多量のセレイド鉱石は、ニコラスたちの艦では使いきれないほどだ。リョウはそのセレイド鉱石の行方を追えるかイリス・システムにアクセスする。イリス・システムは強奪されたセレイド鉱石と同じ成分の鉱石が、反帝国組織に高値で売られていたことを教えてくれた。アルシオール王国はそれによってかなりの金を稼いだことになる。
また惑星アーリスの軌道衛星の破壊は、惑星アーリスが宇宙へ出るための扉を閉ざしたことになる。惑星の多くは、軌道衛星に宇宙船を停泊させて惑星との往還にシャトルまたは軌道エレベーターを使うのが一般的だ。惑星アーリスでは様々な鉱物資源を輸出する代わりに、食料を手に入れている。その道が断たれるとなると、惑星に住む者たちはすぐに飢餓に襲われる。惑星アーリスは帝国から自治を認められているとはいえ、同じ惑星国家のアルシオール王国に従属していたのだ。だが近年アーリスはアルシオールの軛から逃れようとしていた。そこにニコラスたちの襲撃があったのだ。アーリスはそれがもとで政権が交代し、再びアルシオールの傘下に戻ることとなった。もちろんその条件は今までとは比べものにならない厳しいのだ。今のアーリスでは国民が自ら選んだ政府であっても、アルシオール王国の国王が認可しなければ、政府として成立することはないのだ。逆らえば必需品の供給が止まってしまう。
「まるでマリダスのようだな」
リョウは深いため息をついた。帝国は自分たちに逆らった惑星マリダスをほかの惑星国家よりも下になるようにいろいろな施策を行っている。その一つが教育だ。アルシオール王国はいずれ帝国が行ったようにアーリスを第二のマリダスのようにしてしまうだろう。そして時がたてば外の世界を知らないマリダスの人々と同じように、多少の不満はあるもののその境遇をあきらめ受け入れてしまう。
リョウはもう一つ、別の言葉を打ち込んだ。
アルシオール王国――ユーシリア星域内では第二位の勢力を誇る惑星国家。その政体はアルシオーネ一族による王制。現国王ラキスファンは百年前に移民してきたものたちの末裔で貴族の称号を与えられた人物。前国王の王女エリシアーラの夫としてお受けに迎えられ、前国王の死とともに王位につく。その直後からユーシリア星域内に勢力を広げ、現在に至る。なお子女は二人。一人はエリシアーラ王女との間に生まれた嫡出女子。もう一人は側室との間の庶出女子。
ざっと読んだだけでも、ラキスファン王がかなり野心家であることは明らかだ。マーシアがニコラスたちが利用されているといった意味はそこにあるのだろう。ニコラスたちは自分たちがラキスファン王の野望を実行するために、汚い仕事をさせられているということをわかっているのだろうか? ラキスファン王の行為は、帝国のやり方に反対し、新しいものを作り出すためのものではない。ラキスファン王は自分の目的のために力を行使しているのだ。汚い仕事はニコラスたちにやらせ、帝国が王を追求するようなことになった場合は間違いなく、王は自国の軍を用いて、ニコラスたちを壊滅させるだろう。
リョウは情報端末を閉じても重い気分のままベッドに横になった。彼らのかつての思いをこのまま歪めさせたくはない。リョウは惑星クレナシーで銃殺寸前のところニコラスやジュリアに助け出されたときのことを思い返した。尋問で傷ついた体を、ジュリアの隠れ家で癒していたとき、ジュリアは反帝国運動のことを熱く語り、その横ではニコラスがうなずいていた。だがどうしたらあのときの思いを貫くことができるのだろう?
リョウは未だ囚われの身だった。




