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ヴァルラート戦記  作者: 結月 薫
第3章
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マーシア35

「こういう待遇をするということは、俺たちを客人として扱ってくれるということか?」

 ニコラスの言葉にアランが振り返ってエリックを見る。

「君たちにそれほどの価値はない。ただの捕虜だ」

「捕虜というには随分と待遇がいいな。もっとも後で俺とジュリアは別のところに移す予定とは思うがね」

 ニコラスは嫌味のこもった口調で言いながら、エリックを睨む。

「その心配はない。私たちは君たちを一つものと考えている。それにグラントゥールは捕虜収容所というものを持ってないんだ。運営するのに人手と金と時間がかかるからな。だからよほどの事情がない限り捕虜を取ることはしない。捕虜は殺すか、直ちに解放する」

「直ちに解放する?」

 ニコラスがエリックを睨みつけた。

「この状態でそれを言うのか?」

「君たちを返したくても君には艦がないだろう」

「あんたたちが奪ったからな」

「あれは君たちのためだ。レディにあの艦は必要なかった。私が常に後ろにいたのだから」

「なんだって⁉︎」

 思わずニコラスが腰を浮かせた。

「知っていたのか?」

 問いが向けられた先にはリョウがいた。壁にもたれていたリョウは顔を上げて、

「気が付いたのはフリーダムのブリッジでエリックの顔を見た時だ。いくら開発中の戦闘機の試験だと言っても、一人で長い時間、宇宙にとどまっていることはできない。それに彼女は忙しいんだ。いつだって書類に埋もれているからな。本来なら、彼女がフリーダムに乗り込む時に気づくべきだったんだ」

「だがなぜそれが俺たちのためになる?」

「マーシアがいることで、フリーダムはグラントゥールの指揮下に入ったとみなされたんだ。実際マーシアは指揮をとっただけだ。しかも容赦なく帝国軍を叩き潰した。それにもかかわらず帝国は報復をしてこなかった。いつもの彼らでは考えられないことだ。彼らが報復をしなかったのは、マーシアがフリーダムにいたからだ。報復すればグラントゥールに宣戦布告をされてしまう。だから報復をするわけにはいかなかった。帝国はグラントゥールの力がいるんだ。そうだろう、エリック」

「ご明察」

 もはやニコラスたちに反論する材料はなかった。だがそのことが不本意であることは、顔を見ていればわかる。


「それに姫様、あんたたちはグラントゥールに感謝すべきだな」

 アランが紅茶を一口喉に落とし、アリシアーナを見た。

「何故ですか? グラントゥールは私の国を攻撃したのよ。それに感謝をしろというの?」

「お姫様、間違っちゃいけない。眠っていた獅子を、ずっと眠り続けていたいと思っていた獅子を、無理やり叩き起こしたのは、あなたのお父上だ。今まで忘れ去っていたのだから、そのまま永久に忘れていれば、何の問題もなかったのにな」

「獅子というのはお姉さま‥‥いえ、マーシアのことね」

 言い換えたと同時に、アリシアーナは手にしていたカップをソーサーに戻した。少し手が震えていたのだろうか、カチャカチャと音がした。

「でもそれと私たちが感謝しなければならない理由がわかりません。グラントゥールによってアルシオールは多くの施設が破壊され、国民は困難な状況に置かれています。それがわかっているのに、あなたたちに感謝しなければならない理由はありません」

 強い口調のアリシアーナに、アランがニヤリと笑う。

「理由は充分にあるよ。今、王都は大混乱だ。惑星中で暴動が起きているんだ。何しろ食料備蓄倉庫のほとんどを失ったからな。それだけじゃない。水道施設も破壊された。そして彼らはなぜそうなったのか知っているんだ。グラントゥールが本当のことを宣伝したからな。だから彼らの怒りはグラントゥールではなく、王家に向いたんだ。わずかに残ったアルシオールの軍隊は暴動を鎮圧するのに追われている。だがお姫様、あなたはここにいる。グラントゥールがあなたを捕虜としているから、暴動の巻き込まれることもないし、同じ国民同士が傷つけあう姿を見ることもない。だからグラントゥールに感謝すべきだと言っているんだよ」

 アリシアーナは悔しげに唇を噛んでエリック達を睨み付ける。リチャードの手がそっとアリシアーナの手に触れる。アリシアーナはハッとして我を取り戻す。

「暴動は心配ありません。しばらくすれば参加の惑星国家から物資が届きます。そうなれば民は落ち着きを取り戻します。しかもウィロードル商船団は、契約した以上、そこがどれほど過酷な戦場であろうと、物資を届けることを自らの矜持としています。物資は必ず届きます」

「リチャード……」

 アリシアーナはホッとした表情を浮かべた。そして少し恥ずかしそうな顔で、アランを見る。

「先ほどはお見苦しいところをお見せいたしました。どうかお許しください。そして改めて、お礼……」

 アランがアリシアーナの言葉を遮るように、片手を挙げると

「謝罪も礼も不要だ」

「不要?」

「ああ、なぜならアルシオールに外からの物資は届かないからだ」

 それは静かな爆弾宣言だった。

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