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ヴァルラート戦記  作者: 結月 薫
第3章
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マーシア34

 要塞の街区の脇を通り、リョウとエリックは要塞の本体部分に向かっていた。そこは街区とは違って、戦闘前の戦闘艦の内部のように静かで重厚な雰囲気に包まれている。

「空気が一変したな」

 リョウはエレベータから通路に出ると思わず呟いた。

「街区は惑星の街とほぼ同じなんだ。こちらは要塞中枢区画だからな。要塞の運行などに関係する直接のスタッフは、こっちの居住区域で生活しなければならないんだ。たとえ街区に家族がいたとしても、休暇の時にしか会えない。街区にいる者たちは主に入港してくる艦の関係者か、それらを整備点検する者たち、空港事務などに関係している者がほとんどだ。もちろん街区は一つの社会を形成しているから、子供達のためには学校もあるし、レジャー施設もある。それらを運営していくために従事してる人たちもいる」

「小さな惑星がそのまま移動している感じだな」

「まさにその通りだ」

 エリックは笑った。


「ところでアランは何しに来たんだ?」

「気になるか?」

「徒然だろう彼はとても親しげにアリシアーナに応対sていたが、それが本心ではないだろう。彼の目には剣呑な光が浮かんでいたぞ」

「ウィロードル商船団の一番のお得意様はアルシオール王国なんだ。そこの王女に最大限の礼を尽くしても悪いことはあるまい」

「俺の問いに答えているようには聞こえないぞ」

「自分の目で確かめればいい。どうせ行くところはあのお姫様達のところだ。今後のことを彼女達に知ってもらわないといけないからな」

「グラントゥールは随分と親切なんだな。君たちなら有無を言わさず彼女達を排除すると思ったが」

「私はそれでもいいんだが、マーシアはそこまで非情になれないだろうし、これには政治的思惑も絡んでくるからな」

「政治的思惑……」

 エリックは頷く。

「グラントゥールでは地位が上がれば上がるほど、軍事的才能、政治的能力、領地経営、一族の統率力が必要とされる」

 リョウは呆れたようにエリックを見る。

「グラントゥールのトップになるということは、超人でなければならないということか。そんな人間が一体どこにいると思っているんだ?」

「少なくとも現在この宇宙には二人ほど存在している。一人はフェルデヴァルト公爵のレオス卿だ。そしてもう一人は……」

「マーシアか……」

 リョウは最後まで言わせなかった。彼は自分の顔が渋くなるのを感じた。

「我々が認めたのだから、彼女にはなんの問題もない。だからすべての権限を与えられているんだ」

「俺が言いたいのはそういうことじゃない。彼女は普通の人間なんだ。俺には君たちが求める理想を体現するために、無理をしているように見えるんだ」

 エリックは足を止め、リョウな内面を射抜くような強い視線を向けた。リョウは真正面からそれを受け止める。不意にエリックは視線を和らげ歩き出す。

「お前はそれでいいんだ。私たちとは違う。だから彼女は狂わずに済む」

 リョウはその言葉の意味を計りかねた。

「トップに立つ者の側には必ず補佐官が付いている。そして補佐官には自動的にトップに対する銃の携帯許可が出るんだ。トップが正気を失った時にすぐに射殺できるように。それだけその地位は重圧なんだ。ましてやグラントゥールでは逃げ場がないからな。補佐官に射殺されるケースは意外と多いんだ。私にも補佐官はいるしな。私が重圧に負ければ、彼が私を殺す。そのために腕のいい男を補佐官にしたんだ。君が銃の携帯許可を持っているということは、レディは君に自分を殺すことを許したということだ。君なら許せると」

 一度言葉を切って、ここにはない何かを見つめながら、

「だから私たちは、本当の自分を見せることのできる相手を大切にするんだ。自分が狂わないためにも必要な存在なんだ。君の補佐官のロンドヴァルトにとってダレスがそうであったように。彼はダレスと一緒にいる時が本当の自分で入られた。伯爵家の次期当主ではなく、ただのロンドヴァルトで入られたんだ。だが今は君の補佐官であると同時に、伯爵家の次期当主だ。誰もがそう見るし、そう生きることを望むだろう。そしてグラントゥールとして生きていくなら、彼はそれに応える義務がある」

 グラントゥールでは地位が上がれば上がるほど、その役割を演じなければならないということらしい。

 リョウはマーシアを思った。やはり彼女は無理しているようにしか見えない。

「レディは次期当主の地位を受け入れた時から、彼女の名前を呼ぶことはしない。今名前を呼べるのは君だけだ、リョウ。私たちは彼女を利用している。もちろんそのことはレディも承知だ。だからと言って、菅もに不幸になって欲しくはないんだ。矛盾しているし、都合のいい考えだとはわかっているけどな。軍事面でも政治面でも私は彼女を支えることができる。だが……」

 言葉を濁らせ自分を見つめるエリックの視線をリョウは受け止める。

「俺は君たちのやり方を受け入れることはできない。そしてマーシアを守るために、ニコラスと袂を分かったんだ。マーシアのためにならないとわかったら、君たちとやりあう覚悟はできている」

 エリックは分かったというかのように頷くと手を差し出した。リョウはその手をしっかり握る。ようやく対等になれたのだ。


「ところでアランは、いや、ウィロードル商船団はグラントゥールなのか?」

「なぜそう思う?」

 逆に聞き返されたリョウは肩をすくめて、

「似ているんだ。ハーヴィヤフリーダムに潜入中だったエディに、なんとなく雰囲気がな。あれは自分の正体を隠しているときのものだ」

 エリックはにこりと笑うと、

「自分で確認するといい。私の口から話すと彼に恨まれそうだ」

 そういうと、エリックは警備への立つヘナのドアを開けた。


 そこは応接室のようで、ソファーが置かれ、テーブルには飲み物が用意されている。一番の上座にはアリシアーナが座り、優雅にティーカップに口をつけている。だがリチャードもニコラスも警戒しているのが、リョウにはありありとわかる。ジュリアが不安そうな目でこちらを見る。だがリョウには彼女を安心されることはできなかった。何よりそれが辛かった。

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