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ヴァルラート戦記  作者: 結月 薫
第3章
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マーシア33

 フリーダムと接続しているチューブを出ると、衛星軌道上にある宇宙この到着ロビーのような雰囲気に、思わず足を止める。頭上からは到着した艦船の名前が読み上げられ、出口ゲートが告げられる。またロビーのあちこちではコーヒースタンドがあり、そこかしこで談笑している士官たちがいる。中には整備士らしい男と書類を広げながら打ち合わせをしている者もいる。

「すごい光景だな。だがグラントゥールらしい」

 量はこの光景に驚いたものの、すぐに納得する。彼らはグラントゥールなのだ。身内には情が厚く、敵には容赦ない酷薄さで応じる。

「機動要塞は、艦船の修理や補給の他に、乗組員たちの休養を兼ねています。何よりこの要塞一つが、惑星の代わりをしているようなものなんです」

 ロンドヴァルトの言葉を証明するかのように、

「パパァ」

 と幼い声のする方を見たリョウは、出口ゲートから今にも入っていきそうな様子の女の子がしきりに一人の男に手を振っているのが見える。

 男たちはリョウたちとは離れたチューブから出てきたようだ。フリーダムに乗っていたものではない。

 男は幼い声に気付いたようで、顔を上げると、少女の姿を見つけて、にっこりと笑い駆け寄った。そんな二人を見守るように女性が優しい笑みを浮かべている。


「あんなに小さな子供までのているのですか?」

 アリシアーナのつぶやきには非難がこもっていた。ロンドヴァルトはそれを聞き逃しはしなかった。ロンドヴァルトはアリシアーナを鋭い視線で射抜く。それに反応するようにアリシアーナたちを囲んでいた警備兵達の銃口が上がる。リチャードはとっさにアリシアーナを守るように、銃口と彼女の間に割って入る。ニコラスも同様にジュリアをかばうように移動していた。

「やめないか」

 呆れたように制止したのは、リョウだ。

「いちいち反応するな。グラントゥールの本当の姿を、彼女たちは知らないんだ。それについては君たちにも責任があるだろう。君たちは秘密主義で、他者には決して本当の姿を見せようとはしない上に、あえて誤解されるような態度をとる。それに基づいて発言したからといって責められないと思うが?」

 ロンドヴァルトが言葉を詰まらせる。そんな彼を見てリョウは思わずニヤリとした。グランてウールは仲間とみなさない相手に対せては、見下した態度を取り、時には鼻に付くほど傲慢になる。だが自分の過ちを認められないほど、愚かではない。リョウに高くなった鼻を折られたロンドヴァルトはアリシアーナたちに銃口を突きつけていた兵士達を下がらせた。

「この要塞はグラントゥールの惑星の一つと考えてください。要塞の主な任務は後方支援です。戦場の近くにいることはあっても、戦いに参加することはほとんどありません。その場合でも居住区画は分離して退避しますからあの子の危険はそう高くはないのです」

 ロンドヴァルトはそう説明した後で、

「まさか宇宙船乗りは家族を持つなというのがアルシオール流なのですか?」

「そ、そんなことは……」

 ロンドヴァルトの一見無邪気とも取れる問いかけに、アリシアーナはそう答えるしかなかった。言葉で一刺ししてやり返そうとしたのが、反撃されてしまったのだ。しゅんとsてしまったアリシアーナを慰めるかのように寄り添ったリチャードがロンドヴァルトを睨みつけた。


 その時突然、女性の黄色い声が上がった。思わずリョウたちは一斉に声のした方を振り向いた。歓声は奥の方から、こちらに歩いてくる二人の男に向けられた。二人は一枚の書類を間に話し込んでいるようだが、時折、一方の男が声を挙げる女性たちに愛想よく手を振っているのに対し、もう一方は黄色い歓声などは完全に無視し、その上いちいち気を散らす男に苛立っているようだ。

 リョウはかすかに目を見開いた。一人はエリックだが、もう一人も知っている。ヒューロンから脱出した後、彼がニコラスと合流させてくれたのだ。

 アラン・フォン・ウィロード――武装商船団ウィロードル商船団の全てを収めている男だ。ウィロードル商船団の評判は非常に高い。金さえ積めば、反帝国組織だろうが関係なく物資を輸送することで有名だった。しかも確実に届けるのだ。帝国軍崩れの宇宙海賊が彼の商船団を襲おうものなら、返り討ちにあうのがオチだ。それどころか根城を壊滅させられることもあるのだ。彼らの軍事力は、中堅どころの惑星国家並みと言っていい。

 それだけの力を持っているアランと、グラントゥールの要人一人であるエリックが、親しげなことに驚いたのだ。もちろんグラントゥールと、宇宙一確実な商船団とのつながりがないはずはない。だが二人の様子はそれ以上の関係を感じさせた。


 彼らはリョウの前に来ると、

「久しぶりだな」

 とアランが声をかける。

「フリーダムでもトイレ掃除をさせられていたんじゃないか?」

 アランはからかうように訊く。量はヒューロンを脱出して彼に助けられた時のことを思い出す。居候する代金として、彼の船の清掃を命じられたのだ。それはトイレ掃除ではない。船の一番汚い部分に潜り、一日中汚物にまみれていたこともある。もっともそれは正当な要求でもあった。労働の対価を払ってくれた上に、惑星ハルシアートの正式な身分証明書を用意してくれたのだ。もっともそこにはマーシアの意向があったらしい。

「彼らは君たちとは違うよ」

 リョウの答えにアランは肩をすくめて、

「あれはあんたに対する腹いせだよ」

「そうだろうと思った。だが感謝している」

「あんたに頭を下げられると気分がいいね」

 ニヤリと笑ったアランはアリシアーナに目を留めると、

「これは姫様、このようなところで会えるとは思いませんでした。いつもながらお美しい」

 彼は優雅にお辞儀をすると、すかさずアリシアーナの手を取り、唇を落とした。その馴れ馴れしい態度に、リチャードが忌々しげな顔をする。

「さあ、姫様。私がお部屋にご案内しますよ。まあ、宇宙ですから、王宮のような待遇は望めませんが、それでもあのフリーダムよりはマシではないかと思いますよ」

 アランに頷いてみせたアリシアーナを先頭に、リチャードが続く。ついていくべきか逡巡しているニコラスとジュリアは兵士たちに銃口で促された後、彼らに続いた。


「随分と立ち位置が変わったな。ヒューロンではレディの申し出を蹴って、自ら過酷な収容所暮らしを選ぶほど、彼らと行動を共にするつもりではなかったのか?」

「時が俺たちを変えたんだ。俺には彼らのやり方を受け入れることができなかった。だから道が分かれた」

「そうか、残念だな」

 リョウは静かに頷いた。

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