偵察
いざ荒野に出てみると起伏がありあちらこちらに蟻塚の様な岩が地面から突き出ている。
しばらく歩くと平坦で開けた場所に出たが蟻塚の様な岩は相変わらずでその間を風が吹き抜けていく。
そして不吉なものが視界に映り込んで指で拭い確かめるとそれは明らかに血痕だった。
恐らく手練れのフェザントに何かあったのだろうと思い咄嗟に地面から突き出た岩に身を隠すようにしながら進む。
岩に身を寄せながら慎重に進むと数メートル先の岩に体を預けて肩で息をしているフェザントの姿が確認できる。
足には包帯の様な物が巻かれ血が滲んでいるフェザントがライフルを構えると殺気を感じた瞬間に殺気とは別の方向から光の様な物がフェザントの頭めがけて飛んでいく。
次の瞬間フェザントが岩から飛び出すとフェザントの頭が有った場所の岩が小さく飛び散った。
戦闘になっているのは分るが相手の姿は確認できない。
それでも怪我をしているフェザントを見捨てるなんて事なんて出来る筈もないが迂闊に動けば俺が標的になってしまうだろう。
しかし、考えている時間なんて有る筈もなくフェザントの動きに合わせ俺も移動して岩に隠れフェザントの姿を確認する。
再びフェザントがライフルを構えた瞬間に体が勝手に動いていた。
足元にあった石を掴んでサイドスロー気味にフェザントに向かって全力で投げる。
警戒していた方向と真逆からの殺気を感じたフェザントの純白のウィンチェスターライフルの銃口から硝煙が上がり。
俺の耳の真横の岩が弾け飛んだ。
俺の顔を見てフェザントの腰が砕け呆れた顔をしている。
どうやら咄嗟に弾道を逸らしてくれたおかげで頭がふきとばずに済んだようだ。
ここから叫べば相手に居場所を教えるようなもので身振り手振りで次の行動を確認する。
内容としては2人同時に飛び出して少し先にある大きな岩陰で合流だ。
フェザントが岩陰から少し先を見通して小さく頷いた。
小さな石を上に弾き落ちた瞬間を合図として飛び出す。
一か八かの賭けだったが狙撃されることもなく肩にフェザントの体がぶつかった。
「ユキは何を考えているんだ。偵察の意味が無いだろ」
「この状況でそんな怪我をして戻れるのか」
「私が戻らなければ違う道を行けばいいだけの事だ」
経験をした事は無いが偵察に危険が伴う事なんて馬鹿な俺でも判る事だからこそ腹立たしい物が込み上げてくる。
この世界ではフェザント達の行動が当たり前なのかもしれないがだ。
「仲間の屍を越えていくなんて俺はごめんだね」
「ユキは甘すぎるんだ」
「そうだね。俺は平和ボケした世界から来た人間だからな」
楽天家に見えるのかフェザントの瞳に怒りが灯っている。
それでも後を追ってここまで来てしまい仕方なくなのか大きく息を付いて肩を落とした。
「これからどうするんだ。相手の姿は確認できないんだぞ」
「殺気は感じるが別の場所から弾丸が飛んでくる」
「そこまで判っていて……」
俺が微笑みを浮かべたのを見てフェザントの顔が強張り声を失った。
「ユキは無茶しすぎだ。私だって仲間を失いたくないのは同じだ」
「他に方法があるのか? 俺には反撃する術はない、だったら囮になるしかないだろ」
「相手が複数だったらジ・エンドだ」
「仮定に過ぎないが恐らく相手は単発だ。その証拠に2人同時に動いた時には狙撃されなかっただろ」
苦虫を噛み潰したような顔をしていたフェザントが俺の顔を見て脱力する。
そして腰にぶら下げているライフルと同じようなグリップに純白に金の装飾があるブラックホークの様なリボルバーを俺の前に突き出した。
「俺は銃なんて扱えないぞ」
「撃つ事くらいなら簡単だろう。私の大事だから絶対に返せよ」
「分ったよ」
真っ直ぐなフェザントの瞳に光が宿り覚悟を決めていた偵察が相手を撃破して一緒に帰ると言う任務に変わった瞬間だった。
俺も大きく深呼吸し目立つようにオーバーアクションで岩陰から飛び出した。
弾道なんて目で追えるわけもない。
殺気を感じた瞬間に岩陰から動くと体があった場所に着弾した。
連射されたら確実に土手っ腹に風穴が空くだろう。
動き回り続け息が上がりいつ終わるともつかない自分との戦いが続いている。
早く片をつけてもらわないと身が持たない。
様子を伺おうと頭を動かそうとするとこめかみに何かが押し当てられゆっくりと両手を上げる。
「ユキ、片付いたよ」
「悪い冗談はやめてくれよ。心臓が止まるかと思っただろう」
フェザントの声がして緊迫感と共に体が落ちていく。
こめかみに当てられていたのは太めの木の枝だった。
何処からこんな物を拾ってきたか聞くだけ無駄だろう。
ここは俺が知っている世界ではないのだから。