襲撃
フェザントの銃が火を噴き。
トーリの剣が金属音を上げている。
助けられたと言うより拾われた俺は見知らぬ世界では無力で一行に連れられて旅をして道中で異変が起きた。
襲撃を受けたと言う方が早いか、何かを感じたフェザントがいきなり銃の引き金を躊躇なく引きトーリが抜刀している。
「こ、こいつら何なんだよ」
「鬼憑きだ。元は人間だがな」
「本能むき出しの動物だと思え」
いきなりそんな事を言われたって信じられないが目の前では人型をした獣が人ではあり得ないスピードで動き回っていて目で追うだけで精一杯だ。
ココは怪力の持ち主だがスピードがある相手では太刀打ちできない、しかし頑丈な装備と体の所為で怪我は殆どない。
フェザントが銃声を上げるたびに鬼憑きが身を翻し銃弾を交わしている。
そしてトーリの剣が鬼憑きを捉えているが鋭い爪で剣を押さえつけていた。
「雑魚が舐めるな」
「シャァァァァ」
鋭い牙をむき出しにしてトーリの顔に迫っている。
それを見たカーネが呪文を唱え始めた瞬間に黒い影がカーネに向かっていた。
「カーネ! 逃げろ!」
「えっ?」
集中して呪文を唱えていたカーネが一瞬遅れ棒立ちになってしまう姿を見て無意識に体が動いていた。
カーネが目を瞑り目前に鋭い爪が迫る。
相手の手を取り関節を極め制したつもりが有り得ない事に体を捻り流れるように手からすり抜けた。
そして着地と同時にこちらに向かって飛び掛かってくる。
怯えるカーネを庇いながら何とか往なすが体捌きだけではどうにもならず抑え込むしかないらしい。
しかし、尋常じゃないスピードの獣と化した人間を抑え込むのは困難だ。神経を研ぎ澄まし目で追うのではなく気を感じる。
顔をそらすと幽かに頬に痛みが走り手を突き出し相手の死角に直線的に入り込む。
相手の攻撃を同方向に導き流し無力化し円転の理によって相手の重心を崩し体重を乗せて抑え込んだ。
「ユキ! 動くな」
フェザントの叫び声と共に銃声が上がり何かが飛び散り火花が上がり何かがショートしている様な音がする。
肩越しに見るとフェザントが白地に金で装飾されたウィンチェスターライフルをこちらに向け、その銃口から白煙が上がっていた。
「ユキは喰わないのか」
「無理」
襲ってきた奴らは一体が仕留められると蜘蛛の子を散らすように消え。
そして俺が抑え込みフェザントがライフルを打ち込んだ頭は吹き飛び中では機械の様な物が火花を上げていた。
それを間近で見てしまい食事が喉を通らないのは普通だろうと思う。
「ユキ美味しいよ」
「カーネ、悪いけど無理だから」
運良く俺がカーネを助けた形になりカーネに懐かれてしまったようだ。
懐かれたと言うより警戒を解いたと言う方が正しいかもしれないが警戒を解いてくれない人が剣先を俺に向けている。
「貴様が身に着けている光る石は何だ」
「両親に貰った海外の土産だから詳しくは分らないけど。ブルーアンバーと言って紫外線を受けると光るんだ。何故襲われた時に光っていたのかは分らない」
「トーリは剣を下げろ。仮にもカーネの命の恩人に違いないんだぞ」
フェザントの言葉でトーリが剣を収めた。
「すまん。だがフェザントだって信用している訳じゃないだろう」
「空から降ってきたんだぞ。半信半疑と言ったところだ」
当然と言えば当然で俺ですら全員を信用している訳ではないので信用されてなくて当然だろう。
何の因果か知らないがいきなり知らない世界に飛ばされてと言うか、気付いたら知らない世界で銃やら剣やらを突き付けられて信じろと言う方が無理だと思う。
「こうして、こうしてから。こう?」
「そんな感じかな。相手の力を受け流してバランスを崩させて抑え込む」
「難しい……」
カーネが小難しそうな顔をしてうんうん唸っている。
鬼憑きに襲われてからカーネに合気道を教えているのは俺が言い出したのではなくフェザントの提案だった。
少しずつだけど上達しているが鬼憑き相手では分が悪すぎる。
がだ、人相手なら何とかなるかもしれない。まぁ、元々が対人用の護身術なのでその域は出ないのだろう。
俺が鬼憑き相手に何とかなったのは爺さんの地獄の様なしごきの賜物なのだから。
そんな平穏無事な道中が数日続き目の前には荒涼とした風景になっていた。
「さーて。やろうか」
「何をやるんだ?」
「部外者のお前には関係ないし話す必要もない」
トーリの俺への態度は相変わらずでぶっきら棒と言うより嫌悪すら感じる。
「何でもかんでもトーリは難しく考えすぎなんだよ。自分自身で疲れないか?」
「フェザントには関係ない。これは任務だ」
「糞真面目なんだから。これから偵察する奴を決めるんだよ。万が一の為にね」
フェザントの説明はこうだった。
一行が移動しているのは主要な街道筋ではなく裏道の様な場所で何が起こるか分らない。その為に一人が偵察に行き安全を確かめてから一行がその後を移動するらしい。
腑に落ちない事があるけれどこれがこの世界のしきたりなのかもしれないと納得するしかなさそうだ。
どうやって偵察を決めるのかと思っているとフェザントとカーネとトーリが何かをしている。
するとフェザントが空を見上げ大きく深呼吸している。
「じゃ、行ってくるわ」
一言だけ告げて金髪のフェザントが黒装束に紅で軽装の鎧を付けた姿で純白に金の装飾があるウィンチェスターライフルを肩に担いで荒野に向かい歩き出した。
その後ろを誰もが口を噤んで見送る姿は得も知れぬ違和感を覚える。
荒野と森林の狭間で足止めされてどれだけ時間が過ぎたのだろう。
ココは大きな体を丸めるように膝を抱え空に視線を投げている。
トーリはフェザントが歩いて行った先を鋭い眼光で凝視して。
カーネは泣き出しそうなのを我慢するかのように唇を噛みしめて何かに耐えていて3人に何かを聞けるような雰囲気ではなかった。
「何処に行く気だ」
俺が徐に立ち上がるとトーリが冷たい視線を浴びせてきた。
「様子を見てくる」
「好きにしろ」
トーリの言葉を了承したと解釈して歩き出すとカーネが不安そうな瞳で俺を見ている。
そんなカーネに大丈夫だと笑顔を向けいざと言う時の為にキャリアバッグを肩に担ぐ。