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夢落ち

背中に衝撃を受けて息が一瞬止まるがコンクリートなどに打ち付けた衝撃ではなく。

「痛っ!」

ゆっくりと目を開けると木漏れ日の向こうに見える青空から木の葉が舞い落ちてくるのが見え。

木漏れ日?

家の庇か家の壁が見える筈なのにすぐ側から流れ落ちるような水音まで聞こえ。

ゆっくりと起き上がると目の前には見た事もない風景が広がっていて、周りは木々に囲まれていて小さな滝が流れ落ちていて3人の女の子が俺を見ていた。

1人はスレンダーな体に長い黒髪で桃里先輩にそっくりだ。

もう1人は金髪で跳ね上がったショートヘアーで大人っぽい。

そして残りの1人は小柄で赤毛だが知的な雉丘先輩に似ていた。

しかし3人とも水浴びでもしていたのか薄い布を体に巻いてあるがあまり意味を成していない様な気がするが今は気にするところが別にあるようだ。

首元には桃里先輩似の女の子が剣身を俺の首元に突き付け。

金髪の女の子が構える西部劇に出てきそうなリボルバーの銃身が眉間にロックオンされて。

雉岡先輩似の女の子が呪文か何かを唱えている。

尾乃町ダウンヒルで落ちて頭でも強打して夢の中なのか?

夢落ちなんて……

取り敢えず降伏の意思表示のためにゆっくりと両手を上げると銃を構えている女の子が口を開いた。

「鬼の類か?」

いきなり意味の分からない事を聞かれ夢なら覚めてくれと願う。

揺れる木々の葉が、流れる水音が、草花の匂いが。

そして首元に感じる冷たい剣身が現実味を帯び過ぎている。

頭の中に疑問符が浮かぶが「鬼か?」と聞かれ『鬼束』と言う苗字を名乗れば眉間に穴が空いた首が確実に地面とお友達になるだろう。

「ゆ、雪だ」

「ユキ?」

「一応、人間だが。断じて鬼じゃないと思う」

訳が分からないままで尻すぼみになり自分が人間であるという自信すら削がれていく。

「ココ!」

銃を構えたまま金髪の女の子が命令口調で言うと何故か体が浮いた。

振り返ると土塊人形のゴーレムが現れたのかと思った。

ライトサンドの服の上にダークイエローのボディーアーマーをつけていて、身長が俺より高く体ががっしりとしたココと呼ばれた大男が俺を摘まみ上げボディーチェックを始めたようだ。

「フェザント、坊主の言うとおり一応人間らしい」

「カーネ、止めだ」

「えっ、あ、ごめん」

雉岡先輩似の女の子が驚いた顔をすると懺悔もしていないのに衝撃を感じるほどの水が降り注いできた。


季節的には初夏なのか。

そんな概念さえ通用しそうにない。ここがヒューゲルベルクという名の国のはずれで辺境の警備をしている一行らしい。

そんな一行が汗を流す為に滝壺で水浴びをしていると俺が空から落ちてきたと。

で、あの状況で俺も半強制的に水浴びをさせられコートと上着を干している。

リーダーらしき金髪のフェザントは黒装束の上に真紅で動きやすそうな軽装の鎧をつけていて、雉岡先輩似のカーネは抜けるような青いシスターのような格好をしているが背が低く幼く見えてしまう。

そして近くで見れば見るほど桃里先輩に激似の女の子の格好は紫と白のゴスロリだった。

唯一違う点はシルバーの装備だろうか。

胸部にはプレートアーマーが腕にはガントレットが装着され、足には蹴り上げられたら昇天しそうなプレートアーマーと同じ文様の入った金属製のブーツを履いている。

4者4様だがコミケに参加すれば注目を集めることは間違いないだろう。

現実逃避にそんな事を考えているとフェザンとが口を開いた。

「トーリはどうする?」

「何がだ?」

「コイツだよ。コ・イ・ツ」

何の冗談だろう名前まで激似だなんて。服装と相まって冷ややかな視線が突き刺さる。

「おかしな真似をしたら崖から棄てても良いしカーネの実験の被験者にでもすれば良いだろ。取り敢えず連れて行き。城に戻ってから牢屋にでもぶち込もう」

「まぁ、トーリがそう言うならそれで良いんじゃん」

崖から棄てるだの被験者だの牢屋だのあまり良い立場じゃないのだけは馬鹿な俺にも良く分かった。

夢ならとっくに覚めている筈で受け入れたくないが現実を直視するしかないだろう。

「それと万が一の為にお前の荷物を調べる」

「まぁ、それが順当だね」

頬を冷たいものが流れ心拍数が少しだけ上昇する。

キャリーバックの中には真剣が入っていてそんな物を見られれば敵と看做されても仕方がない。

それでも中を見せなければ怪しまれ、どんなに言い訳をしてもこの場で人生を終える事になるだろう。

ジッパーを開けて爺さんに預かった布に巻かれた牛刀を取り出した。

「なんだ、シェフナイフじゃん。料理できるんだ」

「少しだけだけど簡単な料理なら」

「ラッキー! トーリ、ココに面倒を見てもらおうよ。そうしたら美味しいものが食べられるかもよ」

「フェザントの好きにしろ」

軽いノリのフェザントに助けられた気がして、大男のココの方を見ると温和そうな顔をしているのに表情が乏しく読みづらい。

それでもトーリが言うところの城に戻るまでは一命を取り留めたらしい。


そんな訳でココと夕食の準備をする事になった。

ココの後に続いて教えを請いながら食べられる草花や木の実を教えてもらうが、ココが一緒でなければ確実に一行は壊滅するだろう。

この世界の植物や動物は俺が知る物と全く違うからで食べ方を聞きながら口にして味を体で覚える。

それが争わず生き残るただ一つの道だから。

石を組んでかまどを作り枯葉と枯れ枝を組むように入れ枯葉に火をつけて火を起こす。

塩付の肉を塩抜きして野菜と鍋で煮込んでいく。

そして味見しながらスパイスを加えて塩を加え味を調整する。

まるでキャンプの様だが最近のキャンプはツーバーナコンロを使うので原始的といえばいいだろうか。

でも、俺的にはコッチの方が原始的だと言われても好みが合う。

保存用に固いのか保存していたから固くなったのか分らないパンをスープに浸しながら口に運ぶ。

「美味いじゃん、ユキ。大したもんだよ」

「フェザントは褒め過ぎだ。それに警戒を怠るな」

「あのさ、トーリ。私達を欺くんだったら私なら食事に毒を盛るよ。それにこんなに美味しい物を作れるやつに悪人なんていないって。カーネだってそう思うだろ」

「うん。そうだね」

苦々しい顔をしてトーリがそっぽを向いてしまい表情が乏しいココは何も言わずにスープを飲み干している。



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