告白
「泣くな」元気が耳元で囁く。「椿の笑顔が好きなんだ」
「……え?」
戸惑いの声をあげる美令。元気に頭を押さえられているのでその表情は見えない。
「嘘。笑顔だけじゃない。椿が好きなんだ」
「な……ん、で?」
しゃくりあげる声を落ち着かせながら尋ねる。なんで今そんな話を始めたのか、とか、なんで自分を好きなのか、とか疑問はたくさんあったのだが、それ以上言葉を続けられなかった。
元気の顔は相変わらず見えないまま、元気が話し始めた。
「2年の時、図書室で椿を見かけたんだ。お前は一人で本を読んでて…面白い場面だったんだろうな、一瞬笑ったんだ。いつも教室では面白くなさそうな顔してるくせに、不意打ちで笑うんだもんなー。一瞬で全部もってかれた」
拗ねたように告白する元気。美令は顔が熱くなるのを感じた。
「それで、とにかく椿のことを知りたいって思ってたら同じクラスに隣の席。あの時はまじで神様に感謝したね。
でも、椿は相変わらず面白くなさそうな顔ばっかでさ。きっと、椿のことを知るには、この1年だけじゃ足りないって思った。だから、椿と同じ高校に入って、また3年間同じ学校に通うしかねーなって。それで、N高に入るためにすげー勉強してたんだよ」
そして、突然気づいたように「あ、でも今ここで振られたら意味ねーんだよな」と言って、美令から離れた。
改めて向き合う2人。不安そうに、それでも強く訴えかけてくる元気の瞳を見て、美令はそれまでの焦りや苛立ちが消えていくのを感じた。
―そうか、私は源くんと一緒にいたいんだ。
元気がいない時はわけもなく寂しかった。元気が好きな人のためにN高を目指しているのが嫌だった。教室に連れて行ってくれた時、自分以外の人と盛り上がっているのが悲しかった。元気と同じ学校に行けないかもしれないと思うとどうしようもなく不安になった。
自分の中で気持ちが整理されていく。
私も源くんが好きなんだ――
「……私も、好き」
声にした瞬間、喜びが体中に湧き上がってきた。元気が再び、さっきよりも強く美令を抱きしめる。
「一緒に合格しよう。それで笑ってくれ。笑顔の椿が見たいから」
「……うん」
抱きしめあう2人を、満月が優しく照らしていた。
最後まで読んでくださりありがとうございました。