元気の志望校
中間試験以来、元気は真面目に勉強していた。授業中も集中して取り組んでいたし、宿題などの提出物もしっかりとこなしていた。先生の気分で時々行われる小テストもよい点数を出しており、順調に成績を伸ばしていた。
美令としては、元気が中間試験でいきなり20位に入っていたことは相当な衝撃だった。それぐらい元気は勉強ができないイメージがあったのだ。しかし、今では更に上に行きそうな勉強ぶりである。それは、美令も近いうちに抜かされるのではないかと思わせるほどだった。
それほどまでして行きたい高校とはどこだろうか?
美令の志望校は、当然、都内でもトップの都立N高校だ。進学校だし、同じ学校の生徒はほとんど行かないであろう、というのが選んだ理由だ。3年間過ごしてきて、美令は自分がこの土地の人たちとは合わないのだと感じていた。だから、高校はとにかく地元の人間がいないような場所に行きたかった。
元気はどこに行きたいのだろう?
なぜか気にしている自分に戸惑う美令だったが、その答えはすぐに発覚した。
「ちょっと元気!マジでN高受けるの!?」
突然、教室に乗り込んできた隣のクラスの女子が、元気の机を叩いて叫んだ。それを聞いていた周りの男子もざわつく。
「え、元気ってN高が第一志望なの?」
「嘘だろー!お前は俺らと一緒にM高で遊ぶんじゃねーのかよぉ!」
「あ、いや、まあ」
元気が肯定すると周りはさらに盛り上がる。勉強に集中したい美令としては迷惑なはずなのだが、なぜか耳が離せなかった。
「嘘ー!亜季、元気と同じ学校に行きたかったのにー!」
「つーか本気?この学校から行けるのなんて、椿さんとかぐらいじゃねーの?」
一瞬、自分に視線が向けられるのを感じて、美令は身を固くした。元気は美令に目を向けてから、視線を戻して言った。
「俺は行くよ」
場の空気が静まった。元気は本気だった。
「かっこいーけど悲しー!亜季もN高行きたいー!」
「じゃあ勉強すればいいだろ」
「まじか!勉強したからいけるレベルじゃねーだろ」
会話が再び戻る。それでも美令は問題に手がつけられずにいた。
「それにしても、なんでN高なんだよ?」
「今は言えねーけど、色々あってな」
なんで言えねーんだよ!とじゃれ合う元気たちの横で、美令の頭の中は同じ疑問が回っていた。
なんでN高なの?