中間試験
波乱の4月からひと月。受験生になって初めての中間試験が返ってきた。
今回の試験から本番の入試を見据えた内容で問題が構成されている。成績も校内順位と偏差値が表示されるようになった。
一人ずつ担任に名前を呼ばれて結果を受け取る。美令も期待と不安を抱きながら結果を受け取った。
「どうだった?」
美令が席に着くと元気が声をかけてきた。
席が隣になってからというもの、元気はやたらと美令に絡んでくることが多かった。基本的に美令は一人で行動することが多いのだが、最近ではそういう場面に元気が現れる。何か用事があるわけでもなく、適当に世間話をして去っていく。
最初は迷惑に思っていた美令だったが、話していくうちに元気に対する考えが変わっていった。うるさいのは地声が大きいからだということ。本当は人の気持ちに敏感で、プライベートゾーンは守って付き合えるということ。勉強も部活に忙しくてできなかっただけで、やればできるのだということ。
以前よりも嫌悪感はなくなったが、初めの印象の悪さが引きずって、美令としてはぎこちない関係が続いていた。
「ま、まあまあかな」
「椿の”まあまあ”はレベルが高いからなぁ。俺なんて一週間ずっと死ぬほど勉強したのに20位だもんなぁ」
「す、すごいじゃん。180人中20位でしょ?」
「まあ、前の俺からしたらね。でも、あんだけ勉強してもまだ上に19人もいるんだよなー」
「でも、まだ時間はあるし……」
「お?椿ってばやさしー」
そう言って、元気はあの殺人級の爽やかスマイルを美令に向ける。美令は視線をそらして帰りの支度を始めた。
「でも、俺も行きたい高校があるからさ。がんばんねーとな」
呟きに反応して元気を見ると、普段はあまり見ない真剣な表情で結果の紙を見つめていた。