隣の席
初めての作品です。好きな作品の好きな要素を色々詰め込んでみました。
未熟者ですが精進します。
椿美令は自分の名前が嫌いだった。
”椿のように美しい令嬢”
きれいな漢字が並べられた名前とは違い、美令は誰もが認める地味な女だった。
美令は自分が地味ということに不満はなかった。周りから好まれていないのは分かっていたが、着飾ることに必死で中身が大してない人たちと友達になりたいとは思わなかった。
その代わり、いじめられないよう成績だけは常に上位であり続けた。「頭が良ければそう簡単にいじめの対象にはならない」という母の教えを信じて、勉強だけは手を抜かなかった。
そのおかげで、学校生活は変に目立つこともなく静かに大人しく過ごせていた。
しかし、唯一目立ってしまうのが名前だった。これだけ華美な名前を見れば、ほとんどの人がどんな美人なのかと想像する。勝手に”名前負け”と思われるのが癪だった。
美令にはもう一つ嫌いなものがあった。
クラスメートの中心人物、源元気。美令とは正反対に名前通りの元気印。誰とでも分け隔てなく接するので学年でも人気者で、密かに狙っている女子も多いという。
しかし、美令にとっては「うるさい・デリカシーがない・頭が悪い」と嫌いな要素が揃っている関わり合いになりたくない男子でしかない。
それにもかかわらず、美令は元気と3年間クラスが同じだった。最後のクラス替えでその名を見つけた時、美令がため息をついたのは言うまでもない。
さらに運の悪いことに、席替えで美令は元気と隣になってしまった。これは3年間で初めてである。
「お?隣って初めてだよね?よろしく、椿さん」
誰もが心を撃ち抜かれるという爽やかな笑顔で挨拶をされる。美令も適当に返すと、さっそく塾のテキストを開いて問題に集中した。
受験という大事な時期にこんな試練を与えるとは、神様は美令のことがよほど嫌いらしい。ならば勉強にのみ集中して、大人しく過ごすしかない。
そう固く心に誓い、中学最後の年は始まった。