02
仁と茜はそれからまた暫くの間談笑したのち、それぞれ自分の仕事の持ち場に戻っていった。
二人は「護人」という、この都「華境」を治める女王凛を護る役人である。一概に護人と言ってもその役割は様々だ。文字通り常に女王の近くに控え護衛する者。城を警備する者。都を巡回する者。要するに都、または女王を賊から護る腕の立つ者の総称である。
仁はそのうちの城を警備する役割を担っていた。護人の殆どが城の警備か都の警備にあたる。
女王を直接賊から護る側近など、よほど腕の立つ者でなければなれない。
ーまあその方が気楽でいいけどな
側近など自分には荷が重いと、仁は今日もまた自分の持ち場である城門へと戻って行く。
声をかけられたのは、門をくぐろうとしたその時だった。
「そこのお前」
名前を呼ばれて振返ると、そこには見慣れない男が立っていた。しかし束帯を着、腰に太刀を結んでいるということは護人であろう。仁はそう判断した。束帯に太刀、護人はこの格好をすると決まっている。
男は体格がよく、腕は筋肉で太くなっている。いかにも強そうだ。女王の側近だろうか。
しかしもしそうなら下っ端の俺に何の用が?仁はそう不審に思った。
「来い。凛様がお呼びだ」
男は仁の顔を確認するとそう言い、ついて来いと歩き始めた。女王の所に行くのだろう。ここで逆らっても何の意味もないと、仲間の護人に断ってから男について行った。
しかし仁は内心冗談じゃないと舌打ちしていた。女王直々に呼び出しなんて、どうせ碌な用件ではない。
茜ほどではないが、仁は女王凛のことをあまり好く思っていなかった。それでも女王を護るという立場の護人に就いたのは、単に給料が良かったことと自分が腕っ節以外に特に取り得が無かったからである。
女王凜は占いでこの都を治めている。
話に聞くと占いで神に伺いを立て、いつ頃種まきをしたらよいか、今年の作物はどうか、災害はくるのかどうかなどを聞いているらしい。多くの人々が農業で生計をたてているこの都では、凜のそれこそ百発百中のこの占いはとても重要なものなのだ。占いによって災害に備えたり、使う肥料を変えたりするのだ。この都の女王や王は代々占いで都を治めている。そのため人々は完全に占いに依存し、そして崇拝している。多くの人々はそうして女王を崇めているが、中には占いなど不確かで怪しいと快く思わない者もいる。しかし都に女王に逆らったところで自分の首が飛ぶだけだと大人しくしている。仁や茜もその中の一人だ。
ー全く、何の用だか。面倒くせえことじゃなきゃいいけど
そう祈りながら仁は女王のいる部屋の前へと着いた。