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剣と魔法の隙間産業的勇者生活  作者: 田丸環
第1章 勇者、異世界に現る
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第6話 魔法剣士の魔法剣士たる由縁

「そ、そんな!? クラウス様、火系統だなんて聞いてないですよっ! それも中級だって!?」

 狼狽したジョルジュが思わず詰問してしまう。

「私が知るかっ! どういう事なんだ、これは!?」

 クラウスは背後を振り返り、自分の陰に隠れているアントンへ怒りをぶつけた。

 何らかの事情でサンダーソードを手にした、聖水教会に属する者。そんな思い込みが的外れだったという、それだけの事実を彼は受け入れずにいる。

「しっ、知らない。だって、昨日は電光魔法しか使っていないから!」

「バカなことをっ!? 別系統の魔法など使えるはずがない!」

「でも、本当なんだよ!」

「……ちゃんと人の話は聞いてやれよ」

 アントンを弁護する義理などなかったが、相手の言葉を否定するだけのクラウスに、ソーマは思わず口を挟んでいた。

「俺は火炎魔法も電光魔法も使える。まだ誰にも見せてないけど、氷結魔法もな」

「あり得ん! そんな人間がいるなど聞いたこともないぞ!」

「……ついでに言っておくと、こうやって剣に魔法をかけることもできる」

「そんなことが人の身でできるはずがないっ! 教会に頼らず、武器に属性を付与するなど人間には不可能だ! そのようなでまかせを口にして、私を煙に巻くつもりか!」

 せっかく有益な情報を聞かせてやっても、クラウスは聞き入れようとしない。


「煙に巻く? 勘違いしてるんじゃないか? 俺はお前を叩きのめすっ……てっ!?」

 意識がクラウスへ向いていたソーマへ、手斧を引き抜いたザジが瞬時に間を詰める。

「……くっ!」

 身を包むオーラが刃を阻み、体に傷はない。しかし、オーラを削られた痛みから逃れることはできなかった。

 反撃を望むソーマの剣がザジを襲う。

 あるいはかわし、あるいは受ける。

 本来ならば、武器の打ち合いだけで物理ダメージは発生しないが、ザジは痛みから顔をしかめていた。

「ファイアソードなのは確からしいな。それも、中級……か」

 属性武器同士の戦いでは相性による影響が大きく、手斧の電撃はソーマに届かず、剣の炎熱がザジを焼く。

 鍔迫り合いともなれば、圧倒的に有利なのはソーマの方だ。

 後方へ退いたザジが、左側へと回り込もうとする。

「こいつの言っていることが真実かどうか……、そいつはどうでもいいんだ。問題はファイアソードを持っているという事実の方でね。まあ、相手が一人なら、なんとかなるだろうさ。うまく剣をかわせれば……」

 ソーマに向けていたザジの視線が、軽く左右に揺れる。


「……後ろだっ!」

 あがった声はアストレアのものだ。

 ザジのアイコンタクトを受けたジョルジュが魔法を発動させる。

中級メガ放電網スパークネット

 後背を振り向いたソーマは、薄く広がった電撃を目にする。

 起動が始まったばかりで発動には至っていない。瞬時にそう判断したソーマは、ザジを無視して火炎剣を後方へ向ける。

 バチバチと空気を震わせて放電が始まり、無軌道な電撃が無数に迸った。

 正面から伸びてくる電撃は火炎剣が打ち消してくれたが、回り込んでくる電撃がソーマにまで達する。

 それでも、中級・電光魔法の直撃よりもはるかに傷は浅い。この魔法は、威力よりも命中率をあげることを目的に調整したのだろう。

 しかし、隙を見せたソーマの背中へザジが斬りつけていた。

 袈裟がけの太刀筋に走った痛みをこらえて、振り向きざまに振るった火炎剣が、ザジをしたたかに斬りつける。

「ちっ、さっきの一撃と手応えが変わらねぇな」

 ザジの左手には、青く光るナイフが握られていた。

「……まさか、フリーズナイフ? そんなものまで」

 アストレアが驚きの声を漏らす。

 本来、属性武器は値が張るため、教会の外で見かけることは珍しい。それが、別属性で二つともなればなおさらだ。

「あんたが火属性なら、こいつで仕留めるつもりだったんだよ」

「そっちも、火属性が平気みたいだな」

 魔法を行使するには神との契約が必要で、その場合は恩恵と共に弱点も背負うことになる。

 ザジ本人は属性武器の所有者にすぎず、ソーマは魔法剣士の特性として無属性であった。

 どちらも負属性を持たないことから、ソーマへのフリーズナイフも、ザジへの火炎剣もともに決定打とはならない。


「それなら……、電光魔法サンダー

 ザジに向けて電撃を放つ。火炎魔法ではナイフ、氷結魔法では手斧で受けられると考え、ソーマは通用しやすい手段を選んだのだ。

 魔法は、名を唱えてから発動までにタイムラグが発生する。

 馴れた者ならば回避も可能で、ザジは横っ飛びすることで電撃をかわしていた。

 そのため、すぐさま身を翻したソーマを追うのに、一歩遅れてしまった。

 ジョルジュは自分に向かってくるソーマへ向けて慌てて魔法を放つ。

「めっ、中級メガ電光魔法サンダー

 起動を知りながら、ソーマは足を止めずに魔法へ飛び込んだ。

 電撃を身に浴びつつ、火炎剣で斬り破ったソーマがジョルジュの前に到達する。

「……ひっ」

 ジョルジュが身に纏うオーラは、火炎剣に浸食されてその切っ先は胴体にまで届く。

 さらに、二撃、三撃と撃ち込むソーマを、ザジが止めに入った。

 火炎剣がザジに向けられたことで、ジョルジュが慌ててソーマの間合いから逃げ出そうとする。

 しかし、彼はソーマの間合いを把握して損ねていた。

火炎魔法ファイア

 ソーマの右手が火炎放射器のように炎を噴き出し、ジョルジュの背中を焼いた。

 体力が大幅に減少すると、身を守るオーラの薄れた瀕死状態となり、体に受けた傷はその場で回復しなくなる。対処法は二つで、傷を覚悟して反撃や離脱の行動を起こすか、動かずに力を温存して防御力の上昇に務めるか、だ。

 ジョルジュの例で言えば、気絶したらしいので問答無用で後者であった。


「面倒なことになっちまったな……」

 嘆きながらも、ザジに諦める様子は見られなかった。

 ザジは、これまで右手の手斧を突き出した構えを取っていたが、現在は火炎剣へ対処するため左手のナイフをソーマに向けている。どんな属性持ちが相手でも戦える様に、二つの武器を使い分けるのがザジの戦い方なのだろう。

 これは『トラフロ』においても有効な、定番の戦い方と言える。

 しかし、ザジがどれほど一系統を相手に実戦経験を積んでいようと、ソーマがこれまで相手にしてきたのは二系統だ。なにしろ、『トラフロ』においては魔術師の契約も二系統が標準なのである。

「魔法剣士の厄介さは、まだまだこんなもんじゃないぞ」

 魔法剣士という職には、魔法剣の技能が必須となる。

 つまり、魔法を使えるだけでは成り立たない。

 術士系が魔法を行使するように、戦士系にも体力消費を代償とした体術が存在する。

全開フル四方連撃スクエア

 これは、そのうちの一つ。

 体力を瞬間的に燃焼させたソーマが、瞬時にザジの間合いへ踏み込み、続けざまに上下左右からの四連撃を繰り出した。

 そのうち、初撃だけはフリーズナイフが受け止めたものの、二撃目三撃目は反応もできずに体へ叩き込まれ、最後の攻撃はかろうじてサンダートマホークが阻んでいた。

 地面に倒れたザジは、横転することでなんとかソーマから距離を取る。

 左肩と右脇腹から、負傷を示す血の霧が立ち上っていた。


「こいつは、お手上げだな……。俺の負けだ」

 肩をすくめたザジが、ナイフと手斧をしまうとくるりと踵を返す。

「こんな戦いで傷を負うのもバカバカしいからな……」

「……え? おい」

 こちらが呆気にとられているうちに、ザジは人混みを割って一目散に逃げ出していた。

「なっ!?」

 呆気にとられたのはソーマだけではなかった。

 取り残されたクラウスも同じ思いだったらしい。

「バカなっ! 貴様には大金を払っただろう! 戻ってこい!」

 果たしてその声が届く距離にいるかどうか……。

 それなりに実力を認めたつもりのソーマも、躊躇無く逃走を選んだザジに驚いていた。

「……だからこそ、強いのかもな」

 無茶な戦いに固執せず、退くべき時に退く。それが、もっとも賢い戦い方なのかも知れない。

 瀕死状態で負った傷は、薬草などによる治療が必要で、この傷痕は後々まで残ってしまう。傷を弱さの表れと見る者もおり、ザジが逃走を選んだのもそれが一因となっていた。

「まあ、あっちは放っておいてもいいか……」

 ソーマの目的は、ザジとの勝負ではない。それをちゃんと理解しているからこそ、ザジは逃走を選んだとも言える。

 向き直ったソーマの視線を受けて、クラウスは慌てて周囲を見渡した。

 ジョルジュは倒れ、ザジは逃走し、アントンもまた姿を消していた。

 従犯はこのさい放置だ。

 ソーマにとっては、主犯たるクラウスが一番の問題なのだ。


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