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剣と魔法の隙間産業的勇者生活  作者: 田丸環
第3章 初依頼とその顛末
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第25話 聖水教会居候のお仕事

 教会の扉から、わらわらと盗賊達が湧いて出てくる。

 軽く10人は越えただろうか。

 敵の手にした氷結剣に対し、ソーマは双剣の属性を変更する。

中級メガ電光魔法サンダー中級メガ電光魔法サンダー

 さらに、中級体術を発動させた。

剣舞踏行進カーニバル


 盗賊の剣を左の剣で受け止めるソーマ。

 がら空きの右から斬りつけるソーマ。

 身を翻して、後方へ剣を向けるソーマ。

 ソーマの姿が、時間の経過によってその数を増していく。

 0.5秒ごとに残像が発生し、最大10人分の姿がその場に残る。

 敵の目を幻惑する体術で、多数を相手取る場合は非常に有効だ。

 体術としては非常に珍しいことに、単発ではなく、一定時間持続する特性を持っている。代償として、解除するまでは他の体術が一切使用できなくなる。精神獣化と違って、こちらは任意での解除が可能だ。

 自分の幻を目隠しにして、盗賊達へ斬りつけていくソーマ。

 さらに、追風移動の効果と『エンジェルステップ』を使って、瞬間的に間合いを乱し、敵の混乱を助長する。


 ダダダダダと、荒っぽい足音が駆けつけて、敵に加勢が加わった。

 残像を含んだ11人の全てのソーマを、20人近い人数で押し囲む。

「構わねぇから、幻もまとめて斬ってしまえ!」

「おおおっ!」

 物量で押し切ろうとする盗賊達。

 痛みを覚悟して、ソーマは繰り出された剣を、その身で受けた。

「痛ぇっ!?」

「間違えんな、俺だ!」

「誰が俺を斬りやがった! 気をつけろ!」


 歯を食いしばったソーマではなく、盗賊達の中から痛みを訴える声があがる。

 ソーマの羽織るマントの名は『悪戯精霊の加護』。属性攻撃に限定されるが、高確率でランダムな相手へ全反射する。自分にも被弾は発生するし、味方にも当ててしまうし、特定の敵を狙う事も出来ない。

 自分より劣った敵に囲まれた場合にのみ、有効な装備だった。

「ほら、もっと攻撃してみろ。仲間が怪我しても構わなければな!」

 挑発するソーマの言葉に、敵も薄々事態を察したようだ。

 無属性武器による攻撃ならば、マントの効果は無効化されるが、幸い、かれらは高額な属性武器を手に入れ調子に乗っていた。手放すなど考えられないだろう。


「くそ、こんなのはなにかのトリックだ」

 言い立てた男の氷結剣に、ソーマがわざと身体を晒す。

「ぎゃっ!」

 別方向から男の悲鳴が上がる。

「さあ、わかったか!?」

 分身を纏ったソーマは狙いづらく、反射攻撃も警戒していては、どうしても攻撃が及び腰となる。

 接近したソーマを嫌がって突き出される氷結剣は、威力も冴えも無く、軽く払った双剣に逆襲される。

 ちょうど、ソーマの背後に位置していた男が、自分に向けられた背中めがけて斬りつける。

「ぐわっ!」

 あがったのは、別な男の悲鳴だ。

 確率で言えば、ソーマに命中する確率は約20分の1以下となる。分の悪い賭けだ。


「俺が相手をする。隙を見せたら、そいつの後ろから叩き切れ!」

 正面に回った男が、氷結剣を構え仲間達に指示する。

「でもよう。さっきみたいに……」

 怖じ気づく男に、剣士が怒鳴りつけた。

「全部が跳ね返るなら、あいつは突っ立っているだけでいい。そうしねぇのは、受け続ければ負けるからなんだよ!」

 剣士の言葉はある意味正しかった。

 ソーマが動かなければ、20人が倒れるより早く、体力の限界に達するはずだ。とはいえ、盗賊達が自分も含めて8割方倒されるような戦法を押し通せるかは別の話だった。


 構えから見ても、男は正統な剣術を学んだ経験がありそうだ。なんらかの事情で、身を持ち崩した人間なのだろう。

 片手だけでも強いソーマの双剣を、ただの1本で防ぎきっている。

 ソーマの攻撃をなぞっている残像があるため、敵は虚実の全てを受けているようだった。

 右の剣を受け止められ、とっさに振るう左の剣。

 これを、剣士はのけぞるようにしてやり過ごしていた。

 一歩踏み込んだ剣士が、上半身は距離を取ったまま、下半身で攻撃してきた。痛めつけるのが目的ではなく、ソーマを後方へ蹴り飛ばすための蹴り。

「斬れ!」

 剣士の威圧を受けて、飛ばされた先にいた男が、ソーマの背に斬りかかった。

 ソーマを襲った剣は6本。

 いくつも上がったうめき声の中に、ソーマのものも混じっていた。


 後方を牽制するために、ライトソードを一閃させ、ソーマは剣士に向き直る。

 剣技を競い合っても、1対1では厳しいだろう。

 だが、勝つだけなら可能なはずだ。

解除オフ

 ソーマの動きを、ビデオのコマ落としのように追っていた残像が消滅する。

一撃必中バッシュ

 受け止める氷結剣も無視して、力任せの一撃を叩き付けた。

一撃必中バッシュ

 属性相性もあって、電光魔法剣の威力は敵の剣を上回る。

一撃必中バッシュ

 やっかいなこの敵を、とにかく排除する。

一撃必中バッシュ一撃必中バッシュ一撃必中バッシュ一撃必中バッシュ一撃必中バッシュ

 単発攻撃の体術を、ただただ重ねて敵を圧倒する。

『トラフロ』由来の腕力や体力ステータスをあてにした、力によるごり押しだ。


「お、お前等、こいつをなんとかしろ!」

「……あ、ああ」

「い、行くぞ」

 数人がかりで、後ろからソーマに斬りつけた。

 ソーマだけでなく、複数の人間が痛みに反応する。

 右手を振って敵を払いのけると、ソーマが双剣を右肩に担ぐ。

 向き直ったのは剣士の男。

全開フル十文字斬クロイツ

『比翼の剣』が十字架を描き出す。

 しかし、これが空振りに終わる。

 少々みっともない動きだったが、剣士はしりもちをついて仰向けに倒れることで、攻撃をかわしていた。

 踏みつけようとしてソーマが右足を振り上げる。

 対して、剣士は下から貫こうと、氷結剣を突き上げた。

浮遊足場フロート

 剣士の上方にある何もない空間を、ソーマは蹴って、盗賊達の輪を飛び越えていた。


 地面を踏んだ『エンジェルステップ』が、動きを追い切れずにいる敵集団の後方へ、ソーマを送り届けた。

 無防備な敵の背中を、三つばかり続けざまに斬りつけていく。

 剣士の男は手強いが、足手まといな味方に囲まれては、動きも制限されるはずだった。

剣舞踏行進カーニバル

 再び、残像を引き連れて、ソーマは先ほどと違う戦法を取る。

 わざと囲まれたりせず、身体能力を頼りに、とにかく斬りまくる。


 あれ以降、ブリジットからの連絡は入っていないが、ソーマはあまり心配していない。向こうの動きを知られるのは不利益だろうし、ソーマが判断するよりも向こうの裁量に任せた方が、うまくいくように思えたからだ。

 そして、彼女はソーマの期待に応えてくれた。

 中庭に向けて開かれた扉から、ブリジット率いる一団が無言のまま飛び出してくる。彼女が引き連れていたのは、教会騎士10名。中にはカリアスの姿もあった。

 ソーマに気を取られていた盗賊達が、奇襲を受けて取り乱していく。

「え……っと、遅くなってゴメン」

 分身に戸惑いながら、駆け寄ったブリジットが話しかけてきた。

解除オフ。大丈夫だ。手間取ったけど、怪我もしてないしな」


 教会騎士の多くが、倒れている敵の手から氷結剣を取り戻して使っている。以前のカリアスの発言にもあったが、あれは教会騎士にとってとても大切な品なのだ。

 ソーマの体力が回復する。剣士に続いた僧侶からの回復魔法で、ソーマは右手を挙げて感謝の意を示した。

 先ほど手こずった剣士は、教会騎士二人を相手にやりあっているのに、ソーマが気づく。

感電魔法テイザー

 無造作に放った魔法が、剣士の身体を瞬間的に麻痺させる。

 ソーマとの戦いもあって、剣士に残された体力は限界に近いはずだ。安全に取り押さえることも可能だろう。

 乱戦状態は続いているが、人数さえほぼ互角なら、盗賊相手に教会騎士が遅れを取ることはない。


「盗賊は他にもいたか?」

「見つけた連中は無力化してるよ。騎士の全員がこっちに来たわけじゃなくて、何人かを治療や探索に回してる」

 騎士としても様々で、僧侶として魔法に特化した者もいるのだ。

 中庭を見渡したソーマは、逃げようとした連中に感電魔法を放っていく。

 それでも、一人の男が氷結剣すら投げ捨てて、教会から逃げ出そうと駆けだした。

追風移動フォロー

 効果の切れていた魔法をかけ直し、『エンジェルステップ』で地を駆ける。

 正門から逃げ出そうとした男を、追い越しざまにライトソードでぶっ叩く。


 そこで、ソーマは門を押し開けて敷地内に突入する男達を目にした。

 鎧や剣や槍で武装した面々。

「我々はクローナ警備隊だ! 聖水教会に無法者のが押し入ったとの知らせで駆けつけた! 不法侵入者達は大人しく裁きを受けるがいい!」

 もっと早く到着していれば、ソーマ達の苦労は大きく軽減されたことだろう。

 だが、後始末をしてくれるのなら、それだけでも有難いかもしれない。

 長かったソーマの1日は、なんとか無事に終わりそうだった。


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