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剣と魔法の隙間産業的勇者生活  作者: 田丸環
第3章 初依頼とその顛末
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第24話 聖水教会は大騒ぎ

「なんか、いろいろ起きすぎだろ」

 関連性のない事件が立て続けに発生し、そんなぼやきを口にしてしまうソーマ。

追風移動フォロー

 風に追われたソーマの身体がぐんと加速した。

「魔石の男がいたぞ! 早く来い! こっちにいるぞー!」

 腕ずくで黙らせるのは当然として、ソーマはその手段をわずかに迷った。

「うるさい!」

 彼が選んだのは、背中から跳び蹴りを食らわす事。

 ドン!

 背後から加わえられた力で、男の足は限界速度を越えてしまい、前方につんのめった。

 廊下を転がった彼は、曲がり角の壁に激突する。

 すかさず接近したソーマが、引き抜いたミスリルソードでいきなり殴りつけた。

「いでぇっ!」

 身を起こそうとした男の胸を、ソーマの右足が踏みつける。


「おい! お前等は誰だ! 狙いは俺の魔石なのか!?」

 男の顔面にミスリルソードの刀身をぺたりと貼り付けて、ソーマが問いかけた。

「そ、そうだ!」

「全部で何人だ!?」

「知るかよ」

「お前の仲間だろう」

「わかんねぇんだから仕方ねぇだろ」

 敵意を剥き出しににらみつけてくる。

「言わないとどうなるか……」

 脅しの言葉を模索するソーマに、男は嘲笑を浮かべた。

「ふん。どうせ、殺せもしねぇ、ガキのくせに」

「……俺がどういう人間だか知ってるみたいだな。クラウスに聞いたのか?」

「クラウスって誰だよ」

「とぼける方が疑わしいな。伯爵のドラ息子なんだし、有名だろ」

「し、知るかよ。貴族の顔なんて」

 男が断言したとおり、ソーマは意図的な殺人は避けたいと願っている。結果的に『そうなった』のならまだしも。

 当惑を本人が解決するより早く、邪魔者が出現した。


「いやがった! 早く来い! こっちにいるぞ!」

 通路にやってきた男が、やはり大声を張り上げて仲間を呼び寄せる。

感電魔法テイザー

 現れた男は魔法の力で強制的に沈黙させられた。

「あんまり時間はとれそうもないな」

 ただでさえ、平和な日常を暮らしてきたソーマは、尋問や拷問に関する知識が薄いのだ。

 焦った彼はなんとか聞き出す方法をひねり出す。

 彼が新たに取り出したのは、一本のナイフだった。

「これは『三感封じ』というナイフで、視覚と聴覚と触覚を阻害する武器だ。俺は拷問に慣れてないけど、こいつを突き刺すだけならできるぞ」

 それだけ告げて、何度も男にナイフを突き立てていく。

 男が痛みに身をよじるが、お構いなしだ。

 本来なら『五感封じ』となるはずのアイテムだが、『トラフロ』の仕様で嗅覚と味覚には対応していない。

 黒いフィルターがかかって視界を狭める遮光と、敵の接近やスキルの発動がわからなくなる遮音と、ダメージがともなわない幻痛という、3つの状態異常がランダムで発生する。

「おい。仲間は何人いるんだ? 教会中で魔石を捜しているのか?」

「あぁ……。痛ぇ。くそ!」

「何人いるんだ? 答えろ!」

「ああ? 何言ってるんだ!? 何も聞こえねぇよ!」

 痛みで殺気立った言葉に、ソーマがようやく気づいた。

 拷問目的などで使った経験が無いので気づかなかったが、遮音が発生すれば尋問もできなくなって当然だ。

「失敗した……。どうせ、あんまり時間はなさそうだし、聞き出すのは諦めるか」

 足元の男を放って、麻痺中のもう一人を無力化することに決める。

『三感封じ』を手にして、刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。


 呻く二人を放って、ソーマが『伝声札』を取り出した。

「ブリジット。聞こえるか?」

『聞こえるよ。どんな感じ』

「男は押さえたけど、情報は聞き出せなかった。魔石を狙ってるらしい」

『そんな事言ってたもんね。こっちは、毒消しを手に入れたよ。怪我人はいないみたいだから、戦力になりそうな人から助けるつもり』

「俺もそっちに合流した方がいいか?」

『現代日本』で平和ボケしたソーマより、ブリジットの方が明らかに場慣れしている。ソーマが連絡を取ったのも判断を仰ぐためだ。

『むしろ、ソーマは囮になってほしいんだ』

「囮?」

『狙われているのはソーマなわけだし、敵を引きつけてくれれば、こちらも動きやすくなるからね。ソーマなら大丈夫だって期待したいんだけど』

「わかった。裏庭で暴れてみる」


「てめぇだな! さっさと魔石を出しやがれ!」

 新たに姿を見せた3人のうち、先頭の男が声を張り上げる。

「敵が来たから、話は切り上げる」

『頑張って。仲間を連れてすぐに加勢するから』

感電魔法テイザー

 先頭の動きを封じたソーマが、向かって右側の男を狙う。

全開フル四方連撃スクエア

 痛打を浴びせた後は、通常攻撃だけで男を叩きのめす。

 左手から邪魔をしてきた短刀持ちに向き直ると、麻痺から脱した男も乱入してきた。

全開フル四方連撃スクエア

 左の男はもとから体力が乏しかったようで、ソーマが4連撃を終える前に、激痛でおののいていた。

 残るはひとり。1対1ならばソーマが負けるはずもなかった。


 足元に転がる3人と、その前の2人で、全てが片づいたとも思えなかった。

「何を装備するかな? 回復を兼ねて『プレデター』の方がいいか? いや、敵が多いなら二刀流か? 服は……さすがに、着替えている余裕はないよな」

 いざ、装備を考え始めると、どうしてもソーマは迷ってしまう。

 とっさの判断ならば勢い任せで押し切る事もあるが、考える余地があるとどうしても時間を浪費しがちとなる。彼の悪い癖だ。『トラフロ』で臨時パーティを組んだ時もこんな調子である。

 結局、ソーマは服だけは諦めた。

 腕力を上昇させる『解放の鉄腕』を装備し、靴を履き替え、マントを羽織る。

 武器は『比翼の剣』で行くことにした。

 ドラゴン戦同様、回復は『生命樹の種』に頼る。回復を魔法に頼ると、魔力が不足しかねないし、攻撃の手数も減ってしまう。

 中庭を目指して、ソーマが再び駆けだした。


 追風移動の効果が残っているだけでなく、履き替えた靴が驚くべき走行速度を生み出していた。

『エンジェルステップ』を履くと歩幅は倍になる。非常に魅力的な反面、他の靴へ履き替えた時に、移動速度の落差が大きなストレスを生んでしまう。常用者の中には、『現実世界』においても不満を訴える者がいた。

 運営からも、常用を避けるよう注意されるアイテムなのだ。

「あっ、こ、こいつっ……!」

 途中で遭遇した男には、すれ違いざまに一撃を加えて、そのまま通り過ぎる。

 腹を立てていれば、勝手にソーマを追ってくるだろう。

 どうも、教会の人間は全員が全員、麻痺でやられたわけではないようだ。免れた人間の幾人かは、敵との交戦で倒されたように見える。


 薄暗い廊下を駆け抜けて、中庭に到達する。

 先日、シシリーと眺めた星空が空に輝いていた。

「魔石が欲しかったら、中庭まで取りに来い! 俺に勝てたら、確実に10個は手に入るぞ!」

 ソーマが大声で敵をおびき出そうとする。

「おい、聞こえたか!?」

「どこだっ!」

 近くにいたらしい男達が、中庭に飛び出してソーマへ駆け寄ってくる。

身体加速アクセル

 風属性で攻撃速度を増す魔法だ。身体加増とは逆に、速さを優先する代償として、攻撃の威力は低下してしまう。

中級メガ氷結魔法フリーズ中級メガ火炎魔法ファイア

 ライトソードには、聖水教会内で強化される水属性を。

 レフトソードには、敵が光属性であることを想定し火属性を。

 火と水の双剣が、向かってくる端から、盗賊達を迎撃する。

 盗賊だけあって集団行動に向いておらず、一人また一人と各個撃破が進んでいく。

 6人ばかり叩きのめしたところで、次の敵がいなくなってしまった。

「聞こえてないのか! さっさと中庭に出てこい! 逃げ隠れしてても、魔石は手に入らないぞ!」

 声を張り上げたソーマは、空いてる時間を活用すべく『伝声札』を取り出した。


「そっちはうまくいってるか?」

『……うん。狙いは魔石だと思ってたんだけど、そうでもないみたいだ』

「何かわかったのか?」

『そうじゃなくて、麻痺している女の子が乱暴されそうになってた』

「なっ……!?」

『運良く未遂だったけどね。放っておけないし、女の子の安全を確保するのに、手間がかかりそうなんだ』

「それなら仕方ない。ブリジットに任せる」

 彼女の言葉を耳にした時、ソーマの背筋には冷たいものが走った。

 聖水教会の女性陣とそれほど親しいわけではないが、それでも理性で感情を抑えられる自信がない。中には、シシリーやアストレアという知人も含まれているのだ。

 後で悔やむことになっても、激情の赴くまま、侵入者を目に付く端から皆殺しかねないと思う。

「敵が来た。話を中断するぞ」

『うん。頑張って』

 警戒したのか、5人が連れ立って中庭に出てくる。


追風移動フォロー

 時間切れを警戒して、魔法をかけ直す。

「おい、お前! さっき怒鳴ったのはお前だろ!」

「魔石を出さないなら、死んでも文句を言うなよ!」

 襲いかかるつもりだった男達に、『エンジェルステップ』で地を蹴ったソーマが、予想を越えるスピードで自ら間合いを詰めていた。

 彼等個人の罪ではないが、ブリジットとの会話でソーマは怒りを抱いている。

 性的な暴行を受けた『報告』はまだなかったが、『そういう連中』だと認識してしまうと、ソーマの自制が大きく外れるのも仕方のないことだろう。

全開フル十文字斬クロイツ

 直接怒りをぶつけられた男が、声もなく崩れ落ちる。

 間をすり抜けるようにして、両脇の男に斬りつけて、背後に回った。

 混乱する男達へ、気が向くままに二本の剣で殴りつける。


『聞こえる、ソーマ!?』

 胸ポケットの札が震えている。

「ちょっと待ってくれ。三段連撃トリプル

 ブリジットの呼びかけを遮り、正面の男に連続突きをみまう。

 残るは一人。

『盗賊はフリーズソードも狙ってたみたいだよ!』

「えっ!?」

 ソーマの見せた驚愕を隙と見たのか、男が短剣を突き込んでくる。

一撃必中バッシュ

 リーチの差を活かして、接近するよりも早く、敵の短剣をたたき落とす。

 もう一刀を脳天に食らって、男が昏倒した。

「フリーズソードを奪われたのか?」

『保管庫に駆けつけた時には、もうフリーズソードを全部奪われてた。治療した教会騎士6人と僧侶が2人いるけど、ちょっと厳しいかも』

 ソーマを狙う人数が少なかったのは、氷結剣を優先した結果らしい。

「俺を狙ってるのは確かなんだよな?」

『それは間違いないよ。フリーズソードも、ソーマに勝つ手段として考えたみたいだし』

「じゃあ、このまま俺が敵を引きつける。そっちは、敵の背後から少しずつ削ってくれればいい」

 今のところ、ソーマの羽織ったマントは役に立っていない。

 聖水教会を襲った割に、光属性武器の持ち主が少なかったためだ。不可解な事に、不利なはずの火属性武器を持ち込んでいる者までいた。

 しかし、敵が保管してある氷結剣を大量に持ち出したのであれば、むしろ、ソーマにとっての援軍と言えるかも知れない。


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